3.奪われた縦ロール
「な、何でこんなこと、や、やめてくれ──っ!!」
ケイティーン公爵家に『ルティナ』の中に入った俺の声が木霊する──
卒業パーティーから帰宅し、何とか自室に帰ってきたのに、メイドにドレスをひん剥かれ湯浴びまでは良かった…
何故全裸で全身を揉まれなければならないのだ!
しかも凄い痛い!
「お嬢様…、どうなされたのですか?いつものコースでございますよ?明日よりお城で過ごされるのですから全身仕上げなければなりません」
そう言われ、有無も無く全身を揉みこまれ、魂が抜けそうになっていると
「では、休まれる前に目を通して頂きたい書類が──」
「はっ!!??」
こ…これは王太子が本来決済すべき書類では──
っていうか何故この家に文官が来ているのだ?
あの女…この量を寝る前にしているのか!?
茫然とその書類に目を通す。
全くわからん…
「ほほほほ。明日殿下と共に考えますわ…」
「そうでございますか。殿下ももう少し政治に興味を持っていただかなければなりませんね。わかりました。また明日お持ちします」
納得したように下がる文官を見送りつつ、やっと休めると自室に下がる。
「ルティナお嬢様、明日のことで確認を頂きたいのですが─」
間髪入れず侍女が部屋に入ってくる。
な…なんなんだ…俺は一体いつ休めるんだ──
やっと寝所に入れたのは日付が変わる位の時間だった…
あり得ないな…
普段はゆっくり何もすることなく優雅な時間を過ごしていたというのに…
疲労困憊ですぐに深い眠りに落ちる。
朝日が眩しい…──
まだ起きる時間ではない…のに…
「お嬢様、今日は随分ごゆっくりですね。早く支度しないと間に合いませんよ!!もう、昨日からどうされたんですか!!」
メイドに起こされ、ぼーっとした頭で身を起こす。
待て。
まだ日が昇って数刻も経っていないはずだ。
何故遅いと怒られねばならん!!
釈然としないが、言われたままメイドに身を任す。
え…、また湯浴びするのか…?
揉まれるのか…───!??
「も、もう勘弁してくれ──っ!!!!」
◆◆◆
朝からげっそりしながら支度を終える。
鏡に映る『ルティナ』は、縦ロールも濃い化粧もなく…
こいつ…こっちの方が可愛いのでは…とつい見入ってしまう。
「さ、今日も張り切って巻いてきますよ!!」
コテを持って張り切るメイドを必死で制する。
「巻かなくていいっ!!このままの方が美しいではないか!」
「え…だってお嬢様、縦ロールを殿下に褒められてから毎日1時間はかけて巻いてましたのに──」
メイドのポツリと零したことばに吃驚する。
は…?
俺があいつの縦ロールを褒めた…──?
幼い頃の記憶がぼやーんと蘇る。
確か…すっごい縦ロールのルティナを…『すっごい格好いいな!敵を倒せそうなほど巻かれているな!!』と茶化したことはあったような……
まさか…
それを褒め言葉として受け取って…
ずっとこの縦ロールを維持してきたのか!!??
いつもツンとしているルティナの意外な一面を知り…少し印象が変わってしまう。
か、可愛いところもあるのだな…あの悪女でも…
い、いやまだ騙されないぞ、俺の天使はセルーデだ!!
「メイクはどうされますか?縦ロール似合うメイクにいつもされていましたが…」
濃いメイクも縦ロールの為だったのか!?
そこまで縦ロールに尽くしていたなんて…
「清楚系にしてくれっ!チークも淡い色で控えめに!」
美意識は俺の方が上のようだな。
メイドに指示を出しつつ、ルティナより上位に立てる物を見つけ少し気分が浮上する。
多数の美女と過ごしてきた俺の手腕を見るが良い!!
◆◆◆
何だかんだで支度が終了し…
王宮へと馬車で移動し馬車から降りる──
「こ…これは──」
俺の指示により磨き上げられたルティナを見て『俺』に入ったルティナは言葉を失っている──
「ルティナ・ケイティーン、今日から花嫁修業で殿下のお傍で過ごさせていただきます。お世話になりますわね、殿下」
そう言って俺は美しく微笑むのであった。