2.これは夢なのか?
何かの間違いだ…
悪い夢だ──
目の前で微笑んでいる自分の顔を信じられない気持ちで見つめる。
こんな美青年…俺以外であっていいはずない!!
何て格好いいんだ、俺!!
「ああ、愛するルティナ。さあ、一緒に帰ろうか。君の身体が心配だ」
「ひっ!!」
腰に手を回され、優雅な動作でエスコートされる。
ぽかんとその様子を見ていたセルーデが我に返り、ルティナが入っている俺に縋りつく。
「ディアス様!どうかされてしまったのですか?私と婚約して下さると…!!」
ああ、セルーデ、俺が愛しているのは君だ。
可愛い顔を悲しみで歪ませないでくれ!
ついセルーデに駆け寄ろうとすると、ルティナに制される。
「ああ、ノイトン男爵令嬢。君の身分で本当に王太子妃になれるとでも?君とは今後一切関わるつもりはないよ。」
そう冷ややかな表情でセルーデに告げ、その場を離れようとする。
こ…この悪女め!!
「お、おい、」
「私が愛しているのは─…ルティナだけだよ…」
そう言って唇を塞がれた。
は……!??
お…俺は自分と口付けをしているのか…──?
頭が真っ白になり、何も言えなくなってしまう。
セルーデはあまりの衝撃に気を失っている。
「では、行こうか──」
涼しい顔で微笑む『俺』は…
周りには婚約者を溺愛している王太子にしか見えていないだろう…
ああ…
どうして俺はこんな悪魔と入れ替わってしまったのだ──!!
◆◆◆
馬車の中に入り、やっと二人っきりになる。
「お、おい、どういうつもりだ!!」
『俺』に入っているルティナに掴みかかる。
勝手に婚約を継続し…俺の最愛の天使セルーデを傷つけるなんて!
「さあ、殿下こそ、酷いじゃないですか。長年王太子妃教育を受け、殿下を支えるべき生きてきた私を断罪なさるなんて…」
背筋が凍りつきそうなほど冷たい表情をされ、掴みかかった手が自然とほどけてしまう。
こ…こいつ…本気で怒っているのか…──?
「入れ替わったのも運命です。私は殿下として、殿下は私として生きていくしかないのでは?むしろ好都合です。殿下の仕事はほぼ私がこなしてましたから。」
そう言われてぎくっとする。
確かに…私には政の才は無い。
ルティナに任せて、必要な書類にサインのみしていた。
「殿下は婚約者として、公爵令嬢として振る舞えますかね?」
「ば、馬鹿にするな!ただ微笑んでいればいいだけだろう!」
そう言うと、物凄い見下されたような目で見つめられる。
え…俺何か悪いこと言った!!?
「まあ、幸いなことに本日で学園は卒業し、明日より花嫁修業として城で暮らすことになっていますしね。フォローはして差し上げます」
な…何!?
明日から花嫁修業だと!!??
お…俺にできるだろうか…。
生まれてから修行などしたことはないし、いつも皆に持てはやされて生きてきた。
「明日からが楽しみですね──」
そう言って冷ややかに微笑む自分の顔を恨めしく睨むしかできなかったのである──