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 やっぱりゲーム通りには行かないことも多かった。ゲームには登場しなかった各略対象者のファンみたいな、勝手に片思いしてる人達が私に難癖をつけてくるのだ。私はまだ全員と節度を保ったお付き合いをしている、本人に拒絶されるならともかく恋人でもない無関係の人たちの嫉妬なんて真に受けたりしないけど。


 最終的にはエリックルートにする予定だけど、みんなまだ攻略し切れてない。この状況を私が楽しんでる、とかではない。だってヒロインの私が攻略してあげないと彼らの心の闇は晴れないのに。

 第二王子殿下リチャード様もこの前やっと過去のトラウマについて話してくれた。必死にその体質を隠している女性恐怖症の可哀想な王子様。小さい頃はもっと可愛くて、そのせいで乳母にいたずらされそうになってから心に傷を負っている。ヒロインがゆっくり心を溶かして、やっと日常生活をメイドや侍女に内心で怯えず生活できるようになるのに。

 彼らに一方的な好意を向ける女性達は、私が頑張ってる理由なんて一切知らずにこうして邪魔してくる。ゲームでは妨害なんて無かったけど……彼女たちはリチャード様が、女性が近付くと体がこわばって顔色が悪くなってたのも、私のおかげで最近はそれが改善してきていたのも気付いてなかったんだろう。

 本人をちゃんと見ないで、そっちこそ不誠実だ。私は彼らのために協力……そう、協力してるだけ。


 私に直接何か言うこともできない。卑怯な人たち。

 はしたないとか尻軽なんて陰で言ってる人もいるみたいだけど、私が羨ましいだけじゃない。つき合ってる訳じゃないし、恋愛として好きだとも私は言ってない。私が何股もかけてるような事を言うのはやめて欲しい。

 この世界じゃ身分差なんて名ばかりであって無いようなものなんだから、別に平民の私が王子殿下と仲良くなっても外野から文句を言われる筋合いはない。

 仲良くしたいなら自分も仲良くなれるように努力すればいいのに。


 朝の手入れをしようと畑に行ったら裏庭が何者かによって根こそぎ荒らされていたこともあった。

 明らかに人の手でなぎ倒されていて、土は掘り返され、花は折られまだ青い実も地面に叩きつけられてしまって。苦労して畑の土を作ったのに、とてもショックだった。


 かろうじて無事だった作物を拾い集めたけど、まだ月光にさらす必要のあった月夜草は半分近くがただの薬草にしかならなくて。

 もしものために在庫はしっかり確保してあったけど、急いで育て直さないと使い切ってしまう、と予定が狂った私はショックだったしそれからしばらく輪をかけて忙しかった。

 こんな妨害も、ゲームでは出てこなかった。なら私もゲームではシステムに無かった方法で解決してやる、って一切躊躇せずに学園に器物破損で被害届を出して。監視カメラとかはないけど魔法があるから、この世界の警察みたいな組織がすぐに解決してくれたの。私の畑を荒らした犯人の中には貴族籍の女生徒がいて、平民の生徒が学費のために運営していた畑を……って事で厳しく処分してくれて、ほっとした。良かったぁ。これで安心してまた攻略進めていける、って。


 やっぱこの世界の貴族ってあんまりメリット無いよね。いいとこのお嬢さんだった彼女はもうこの事件のせいでまともな結婚は出来ないだろうって話を聞いた。ちょっとかわいそうだけどこれも因果応報よね。

 肩書にはちょっと憧れるけど、ガチ中世みたいに平民の人権がないわけじゃないし、むしろ義務はあるけどろくな利益無くて、領民の生活とか責任も重いし。これなら裕福な平民の方が私の理想の生活に近い。やっぱり一番の推しだったし、最終的には魔術師エリックのルートで決まりね。



「王国騎士団責任者のハインベルクだ。キーラ・オルさん、あなたが被害届を出した事件についてお話を伺っても?」

「は、はい」


 だからこの件について、予定外に最後の隠し攻略者、ハインベルク王太子と出会う機会を得た私はとっても驚いた。細かいとこまで覚えてないけど、確かまだ出てこなかったはず……だよね? そうそう、リチャード王子が何かをきっかけに女の人に対して発作を起こして、そこを私が助けてどうのこうのがあってから会うことになってたはず。解決方法は覚えてないけどそんな事件はまだ起きてないのは確実にわかる。

 でも発作も事件も起きないで話し進んだ方がいいよね。そう思った私はこのままハイン様の攻略も進めていくことにした。しばらくは事件の捜査として顔を合わせて、好感度上がったらまたハーブクッキーの出番ね! 月夜草の在庫がちょっと心配だけど、ドルフの好感度上げすぎたかなってとこあるしそっち控えめにすれば次の収穫に間に合うでしょ。

 待っててね、優秀ゆえに人の努力が分からないって陰で言われて傷ついてる王子様の心を私が癒してあげる。


 捜査だなんて、犯人はもう捕まってるのに何かと理由をつけて裏庭の畑にやってくるハイン様と私の仲は順調に深まっていった。他の男の人と会ってる予定なんかも根掘り葉掘り聞かれて、なんだか嫉妬も感じる。こんな束縛キャラだっけ? 好意向けられてるのは悪い気しないけど、王妃なんて責任重すぎて……申し訳ないけどハイン様は選べないなぁ。


「オル嬢は朝から晩までずっと何かしら動いているがよく体力が持つな」

「えー、騎士の皆様の方が厳しい訓練してるんじゃないですか?」

「いや、スタミナはオル嬢の方がありそうだ。学費も稼ぎつつそれでいて学園の成績も上位だからな、尊敬するよ」


 さわやかな笑顔と共に、褒められた私は確実に好感度の手ごたえを感じて攻略を進めることにした。もう手料理をプレゼントしても受け取ってもらえるくらいには進展してるはず。


「たぶん私、頑張るところと力を抜くところの見分け方がうまいんですよ。そうだハイン様、良かったらこのクッキーどうぞ。たまには甘いものを食べて息抜きもいいですよ」

「クッキーか」

「はい! 私の手作りなんです」

「ありがとう、いただくよ」


 受け取ってくれた彼の笑みに、私は内心ガッツポーズをした。よし! これでキャラ全員攻略達成したも同然ね!

 ハイン様のストーリーが解決したら、エリック様ルートに戻って最後までイベントを進めよう。告白シーン楽しみだなぁ。


「なぁ、キーラ……久しぶり」

「あれ、ドルフ。珍しいねこの時間はいつも訓練してるのに」

「なんだか集中出来なくてさ……どうしても、なんだかキーラの作ったクッキーが食べたくなっちゃって」

「も~、ほんっとドルフは私の作ったクッキーが大好きねっ」

「そ、そうなんだよ。有名な店にも作ってもらったんだけど、キーラのクッキーほど何故かおいしく感じなくて……」


 嫌な事でもあったのだろうか。それでクッキーを口実に私に会いに来た感じかな?

 上げすぎると告白発生しちゃいそうだし、断るのは可哀そうだからってもうドルフルートは進めるつもりはなかったんだけど……こんなに好きってアピールされると拒否しづらいなぁ……


「しょうがないなぁ、じゃあクッキーと、紅茶いれてくるからお茶にしようか」


 畑の手入れが終わって一休みすることにした私はそう提案したんだけど、紅茶をいれて戻ってきたら運が悪いことにドルフは急用で部活の顧問の先生に呼び出されてしまったそうで申し訳なさそうに謝ってきた。



「クッキー、俺のために作ってくれたんだよね、せっかくだしクッキーだけでも貰っていっていい?」

「いいよ、今包むね」


 ハイン様にさっき渡したほどじゃないけど、簡単にペーパーナプキンでラッピングしたクッキーをドルフに手渡すと、よほど急いでいたのか彼は小走りで帰っていった。はぁ、タイミング悪いなー、部活の呼び出しが重なっちゃうなんて。呼びに来た後輩も、部活の人なら私のこと知ってるはずでしょ? ドルフが片思いしてる相手なんだから、もうすこし気を使ってあげたらいいのに。

 私は二人分の紅茶を飲んでタプタプになったお腹で、明日以降に渡す用のストックのクッキーを作り始めた。

 ハイン様にもあげられるようになったからその分も考えないとね! それに、美味しいって言われて欲しがられるとさっきみたいに予定外にあげちゃうし、やっぱりかなり余裕をもって作っておこうっと。


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― 新着の感想 ―
[一言] 麻薬的な扱いで捜査されてるのかなー
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