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それからは疲れ知らずに動き続けることが出来て、料理によるステータス磨きも順調に進んでいった。
このシステムってちょっとリアルで、最初はプレゼントを受け取ってくれないのよね。でも根気よく挨拶してれば少しずつ親しくなっていける。プレゼントを渡せるようになるのはこうやってある程度親しくなってから。
そりゃそうか、知らない人から何かもらうって現実だとあり得ないし。だからまずは全員と「知人以上友人未満」にならないと。
でも序盤の反応が思ったより悪くてつまらないなぁ、周りのキャーキャー言ってる女の子達と同じ対応されてるし……。
ちょっとくじけそうになったけど、プレゼントした料理が5回を越えた頃からみんな目に見えて好意的になってきてくれた。ほんの少しだけ「やっぱゲームと違う現実なのかな」って心配になってたけどあきらめなくて良かった。ちゃんと成功してたんだ。
私を見つけると、向こうから挨拶してくれるし、プレゼントには毎回感想をもらえる。
私は結果が伴ったことで、さらに気合いを入れて自分磨きとプレゼントづくりに精を出していった。
「それでお父さんとはどうなったの?」
「ああ、子供の頃の話が出来て、謝罪されたよ。不思議だな、君の言ったとおりになった」
「ち、ち、違うって! なんかそんな気がしたってだけで……アハハ」
「じゃあキーナには不思議な力があるのかもな」
私は曖昧に笑ってごまかした。あぶなーい。当然ゲームとは違って選択肢は出ないし、そんなの全部覚えてない。ゲームで出てきた以外の会話をすることだって出来るけど、ゲームを思い出した知識と実際思い出してから体験した生の記憶が混じって、知らないはずの事を言っちゃって時々間違えちゃうんだよね。失敗失敗。
ドルフは見た目通りの熱血騎士系のキャラ。お兄さんの方が強くて、お父さんもお兄さんの方にばっかり期待かけててすっかりいじけてグレかけてたって過去がある。
プレゼントで好感度を上げていくと、だんだん打ち解けてその辺の深い話をしてくれるようになるのだ。
お父さんとの確執を解決したらほぼクリアみたいなものだから、これ以上進めてうっかり告白されないように気をつけないと。
「お父さんと仲直りできて良かった」
「仲直りって言うか……向こうが一方的に……まぁいいか。そうだ、いつものクッキーって今日は無いのか?」
「まったくもう、ドルフはこれ大好きだよねー、はい!」
「いやぁ、……何だかこれ、ふとしたときにすごく食べたくなっちまうんだよな。キーラ、将来菓子店やればいいのに」
「えー」
「そしたら俺が好きなときに買いに行けるだろ? 今でも売って欲しいって俺はずっと言ってるじゃないか」
「もー、ドルフはそればっかり」
そんなに気に入ってくれてるのは悪い気しないけど、こんな話ゲームになかったから。お金で手に入るようになったら好感度上がらなくなっちゃうと思うし……
特別なレシピがあるんじゃないかとか、材料は何使ってるのかとかすごい聞いてくるんだよね。ドルフってこんな食いしんぼキャラだったっけ? でも他のキャラにあげる分も作ってるから一人だけにたくさん渡す訳にいかないしなぁ……
私は聞かれたことをはぐらかすと、「また作ってあげるから」と宥めてからドルフと別れた。
隠し味、実はあるんだよねぇ。設定でのドルフは意外と甘党で、シュークリームとそのアレンジレシピの料理をプレゼントすると一番好感度が上がりやすい。逆に、辛党のキャラはお菓子を喜んでくれない。
でもったった一つの例外が「月夜草」のハーブクッキー! チーズを使った甘じょっぱい味付けで、これをあげると全員が大好物をもらったのと同じくらい好感度が上がる。普通のハーブクッキーのレシピに月夜草を入れるだけじゃ料理失敗になっちゃうけど、そこは知ってたからちゃあんと上手くいくように下拵えしている。
月夜草を手に入れるのも栽培するのもこのレシピを用意するのも自力で一からやるのは無理だけど、私には前世の記憶があるからね。ズルじゃなくて、ちゃんとこの世界の中でも本とか読んで手に入れた知識だから何も問題はない。
きっと庭造りとか料理とか、探検ばっかりやってて本来の恋愛をちっとも進められてないプレイヤーへの救済措置として月夜草のハーブクッキーのレシピが存在するんだろうなぁ。