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朗報!!
バッドエンド
作者のいつもの感じのやつ お馴染みのうちのスープを使ったラーメンです
あ、これ、乙女ゲームの中の世界だ。
前世の記憶が戻ったのには何の劇的なイベントもなかった。池に落ちたり、頭をぶつけたり、攻略対象者とドラマチックな出会いをした時でもない。何の変哲もない学園生活を送っているある日に唐突に思い出したのだ。
今までも変な既視感は人生の中で何度も感じていた。学園に入学するために初めて村の外に出て海を見たときも何か比較対照があるような気持ちで「透き通っててすごくキレイ」と思っていた。海なんて見るのは初めてのはずで、色の付いた風景画だって見たことないのに。私の頭の中には目の前のエメラルドグリーンと比べる、くすんだ暗い色の海を何故か知っていて。
学園で教わるよりも先にかけ算が出来ていた。村では神童だって呼ばれていたけど、何で出来るのかって聞かれても「出来るから出来る」としか言えなくて教師のまねごとを期待されてとても困った覚えしかない。
洗礼の日に魔法の才能が認められて、突然王都の魔法学校に入学することになって、「ここがあなたの暮らす寮よ」と案内された特徴的な三角屋根の建物を見た時も「なんだか見覚えがあるような」としか思わなかった。けどそんな小さな引っかかりが段々溜まっていって、ある時限界を迎えてコップのふちから溢れるように全部思い出したの。
そうだ……ここは、前世でやった乙女ゲームの「恋するマジカル☆キッチン」の中じゃないか。学園の名前とか攻略キャラも記憶の中と同じ。昔から、知らないはずの知識なんかに既視感があったせいで私はそこまでパニックになることは無かった。
まさか……そんな話はよく読んでたけど、私が異世界転生するなんて……。
って事は私死んだの?! 死んだときのこと……まったく思い出せないな……まぁ自分が死んだ時の事なんて詳しく思い出したくないからいいけど……
もうちょっとでこの「恋マジ☆」の全ルート攻略できそう、ってノーマルエンドが続いてた後に意地でプレイして……数日連続で寝不足で……多分出勤してる最中に何かあったんだろう。親しい友人はいないし、趣味は休日ゲームするだけ。おひとり様を満喫してて、唯一の肉親だった母親も……新しい家庭を持って異父妹が生まれてから没交渉になってたし、後悔もわかなかった。
前世の記憶が戻った今となってはファンタジーな異世界が舞台で、カラフルな髪や瞳の人がいるのに会話や本、授業は日本語なのに違和感しかない。まぁゲームだからそのへんは都合的にしょうがないか。でも町中の看板とかは横文字が使われてるんだよね……。別にそこまで世界観にこだわりある訳じゃないからいいけど。
記憶を取り戻す前の私は、普通に平民枠の学生をしていた。普通に毎日授業に精を出して、テストにげんなりしたり、国からの補助金で足りないところはバイトしてお小遣いを稼いだり。友達はいるけど恋人なんていない、このままじゃノーマルエンドまっしぐらの生活だった