シーン5 帰路 存在の否定を肯定とす
朝には遅く、昼には早い
ファミレスからの帰り道
男二人は並んで歩く
坊屋の自宅へと戻る道すがら。
腕を組み、何やら思案していた様子の宇神が、不意に大きな声を上げた。
「よし! 決めた!」
隣を歩く坊屋は正直驚いたようで、びくりと体を震わせる。
「おおう……急に何よ」
「ボン。俺は今、お前に憑いている」
真顔を近づけてくる宇神。
顔を背けながら、坊屋は大きなため息をつく。
「改めて言われると中々しんどいなぁおい」
「まあ聞け」
「おうよ」
「お前は自らを全くもってツイていない男だと評していたな」
「だからしんどいことを改めて繰り返すなって」
口も眉もへの字に下げ切る坊屋。
しかし宇神はそんな様子を気にするそぶりも見せず、言葉を続けた。
「そんなツイてない上に貧乏神にまで憑かれたお前が、もし憑かれる前より幸せになれば、俺は貧乏神でない、ということにならないか?」
「出たよぉ、強引グ・マイウェイ」
マンションの入り口までやってきて、坊屋は振り返り足を止める。
必然宇神の足も止まり、二人は見つめ合う格好になる。
「まあ、俺にデメリットなさそうだし、それでいんじゃん?」
ちゃらりとキーホルダーを指で回し、坊屋はマンションの自分の部屋へと進む。
「何とかして俺を幸せにしてくれよ」
「了解した。全力を尽くす」
鍵をあけてドアを開き、部屋に入っていく坊屋の背中を、宇神は立ち止まって見つめていた。
部屋に入ってこない宇神に気づいた坊屋がドアから顔を出す。
「どしたの? 入れよ」
「いや、さっきのやり取りだが」
「おう」
「随分とBL展開だったなと」
「びーえる?」
しばし言葉の意味を把握しかねていた坊屋だったが、はたと何かに思い当たったようだ。
「おま、ベンチでなんかしてねえだろうな?!」
「するか。一緒に寝ただけだ」
「いやいやいやいや! 言い方! 言い方!!」
素早くあたりをきょろきょろと伺った坊屋は、そのままシュッと部屋に消える。
それを見た宇神は、ふっと小さく笑みを浮かべてから、今閉まったドアのノブに手をかけるのだった。