シーン3-2 河川敷 それは必然
河川敷の夜明け。
すがすがしい朝日。
何かが始まる音。
「あ……うお! 寒ッ!!」
叫んだ坊屋は飛び起きた。
「うーわ、やっちまったなあ、さーむっ!」
足をじたばたさせ、掌で上腕をさする。
多少頭が痛かったが、風邪ではなく、残った酒が原因のようだった。
「おはよう、ボン」
「おはよ……って、あれ? 宇神サン?」
ベンチの隅に座り、眩しそうに朝日を眺めている宇神の存在に、ようやく気づいた坊屋は、驚いた顔を見せる。
まさかたまたま飲み屋で一緒になった人物が朝までいるとは思わなかったのだ。
「え、帰んなくても?」
「さて、素晴らしい朝だ。ここで悪いニュースと、もっと悪いニュースがある。どちらから聞きたいかね?」
「普通、そこはいいのと悪いのがあるんじゃないの?」
宇神はちらっと坊屋の方に視線を送り、軽くほほえむと朝日の方に顔を戻した。
「じゃ、じゃじゃあ悪い方から」
「枕元のお茶のペットボトルはすっかり冷めている。が、それでも良ければ飲むといい」
「あぁ、あざっす」
坊屋はすぐ近くにあったお茶を手にとった。
オレンジ色のキャップをひねり、中の緑茶を一息に半分ほど飲む。
「ふー。いや全然悪くないじゃん。じゃあもっとの方は?」
「お前は貧乏神に取り憑かれてしまった」
「へー、貧乏神ね……って?! 貧乏神?!」
「俺だよ」
「へ? え? あ?」
状況がよく飲み込めない様子の坊屋に、宇神が淡々と説明する。
「貧乏神ってのは、一夜を共に過ごした人間に取り憑くもんなんだ」
「はあ」
「俺は昨日お前がここで寝入ったのを見て、立ち去ろうとしたんだが、その瞬間頭部に激痛が走り気を失った」
「はあ」
「ここに崩れ落ちた俺はついさっき気がついて、図らずもお前と一夜を共に過ごしてしまった、とまあそういうところだ」
「えええええぇ」
坊屋はひたすら困惑の表情を浮かべていたが、はたと何かに思い当たった。
「そだ。頭大丈夫なの? 激痛」
「ん? ああ。一応神様だからな、体は丈夫にできてる」
「そんなもんなのね」
残りのお茶を勢いよく全部飲み、坊屋はぷはっと息を吐いた。
「何よ、そんなに悪い話でもないじゃない。神様と一緒なんだろ? それにまあ、取り憑かれたって死にゃしないでしょ」
「ボン。お前は貧乏神を甘く見ている」
ぺちり。
宇神が、手にしていた黒い骨の扇子で坊屋の額をごく軽く打つ。
「てっ。って、ボンって何よ、俺のこと?」
「そうだ。お前からいい名をもらったからな、俺からもあだ名をプレゼントだ。何より俺が言いやすい」
「あだ名ねぇ。例の『貧乏神』以来俺史上二個目だよ」
「そうか。あ、そろそろだな」
「え、何? 何かあんの?」
「さあな。俺にもわからんが、必ずお前に不幸なことが」
コン!
宇神の言葉が終わらないうちに、甲高い、いい音があたりに響いた。
坊屋は脳天を押さえて悶えている。
ころりと転がる空のペットボトルが二本。
坊屋の手からこぼれ落ちたものと、橋の上から望まれずやってきたものである。
宇神は見覚えのない方の一本を拾うと、ぐしゃりとひねりつぶした。
「よかったな、小型家電じゃなくて」
「死ぬわ!」