シーン3-1 河川敷 それは偶然
冷えた河川敷。
千鳥足の男にはそれも涼しく。
深夜。
深夜の河川敷。
おでん屋から看板を言い渡された二人は、歩いてすぐのこの場所へ転がり込むようにやってきた。
不法投棄されたゴミの間を縫って、なんとか見つけた木のベンチに、坊屋は座り込んだ。
「あー、それでさあ、宇神さんさあーあのさあ、あー。喉乾いたな」
「はいはい、お茶買ってきますね」
へべれけの坊屋のために、宇神はお茶を手に入れに立ち上がる。
そして数分後。
「坊屋さん、お茶で……」
「ぐごごごご」
問いかけに返ってきたのは大きないびき。
坊屋は完全に眠りこけていた。
やれやれと小さく呟いて、宇神はベンチの隅に腰を下ろす。
「坊屋さん。ありがとう」
自分で買ってきた温かいお茶を飲みながら、宇神は坊屋の寝顔を眺める。
「今すぐに足を洗うことはできないかもしれないけど、いつか、辞めるよ。貧乏神」
「そうだー! いいぞー! うがみぃー」
突然のエールは寝言だったらしく、坊屋は狭いベンチの上で器用に寝返りを打った。
一瞬驚いた宇神だったが、そのまま少し寂しげに眉を下げた。
「さて、そろそろ行かないと。君に取り憑くわけにはいかないからな」
再び立ち上がった宇神は、坊屋の枕元にもう一本のお茶のペットボトルを置いた。
こうして、二人の貧乏神の邂逅は、円満に終焉を迎え、る、はずだった。
さて不幸だったのは誰なのだろう。
たまたまその日もゴミを投棄に来た心ない住民は、たまたま河川敷まで降りるのが面倒になり、どうせいつも誰もいないんだからと、橋の上からゴミを放り捨てた。
たまたまその日橋の下のベンチにいた宇神は、たまたまペットボトルを置いた直後で完全に下を向いており、天から降ってきた小型のDVDプレイヤーを無防備な後頭部で受け止めることになった。
「ぎゃうん!」
坊屋に折り重なるように倒れ込む宇神。
上げた声が人っぽくなかったのも良くなかったのかもしれない。
不法投棄の現行犯は、犬かよ脅かせるなと吐き捨てて、下の様子など確認せずにその場を去った。
こうして、二人は仲良く枕を並べて、初冬の河川敷で一夜を過ごすことになった。