シーン14 坊屋宅 忘れ物
消えた貧乏神
消えなかったもの
まだ春は遠く
どのくらいそうしていたのか自分でも全く分からなかったが、全身が冷え切っていることに気づいた坊屋は、たまらず飛び起きた。
腕を掌でこすりながら部屋に入り、こたつをつけてすぐに潜り込む。
手足があったまったら、お湯割りでも作るか。
そんなことを考えながら背を丸め、机上に転がっているリモコンを取ろうとした時、リモコンのすぐ隣に意外なものを見つけて、手を止めた。
「あれ、これ、うお」
つぶやいて手に取ろうとして、上手く持ち上げられず取り落とす。
そういえば見た目から想像できないレベルで重いのだった。
宇神が神具として持っていた扇子。
宇神の気配は感じないが、なぜか扇子だけがそこに残されていた。
部屋の中をぐるりと見渡して、再び扇子を見る。
黒い骨がつやつやと光っており、実に美しい。
「ちぇっ。知らねえよ」
坊屋は隣のリモコンをさらうように掴むとごろりと横になり、テレビをつけた。
それから、坊屋は以前のように静かで、何も起こらない日を過ごした。
何日たっても宇神の姿は全く見えない。
姿を見せないようにしているのではなく、本当に坊屋のそばにいない。
何の根拠もなかったが、坊屋はそう感じていた。
そして、坊屋自身も、例のケーキ店にはとても向かえなかった。