シーン13 坊屋宅 衝突
こんなはずではなかった
二人ともそう思っていた
暗い、廊下。
正直どこをどう走ったのか全く覚えていない。
肩で息をしながら、坊屋の意識が何とか状況を理解したちょうどその時、彼の右手は家のドアノブにかけられていた。
扉を開け、暗い廊下に一歩あがると、すぐに背後でカギがかけられる音。
振り返るとドアの前に宇神が立っている。
「おまっ!」
坊屋は反射的に宇神に掴みかかる。
「なんだよ! なんでだよ! 加減するって、言ったよなあ? なあ? できてねえじゃねえかよおっ!!」
宇神の襟首をねじり上げる坊屋。
宇神の方も黙ってやられているばかりではない。
同じように坊屋の襟首に手をかけ、叫ぶ。
「うるさいな! 俺もできる限りのことはやった! 実際誰も、ケガも何もしてない!」
「そういう問題じゃねえだろ!」
ガツンと音が出そうなほどにぶつかり合う視線。
「人が一人、下手したら死にかけたんだぞ!」
「だから! もしの話はするな! そうはならなかったじゃないか!」
「違うって!じゃあアンタ、死にかけたのがキクちゃんでも同じこと言えるのかよ!」
それを聞いた瞬間、宇神の目が大きく見開かれる。
そして、その手から力が抜けていった。
しかし坊屋はさらに力を込めて掴んだ襟首をゆすり、続ける。
「なあ、なあ! 何とか、言えよっ!」
坊屋は最後、宇神をドアに突き飛ばした。
そして自分はその場に座り込む。
「だめだろあんなの、だめだろ……」
うなだれ、頭を抱え込む坊屋。
宇神はため息をつき、それでもなんとか声をかけた。
「ボン……」
「ボンじゃねえよ」
しかし、坊屋の返事はつれないものだった。
「ボンじゃねえよ! なんだよお前、やっぱり最悪だな、最悪の貧乏神だよ!」
座ったまま、顔だけを上に向け、悲し気に見下ろす宇神を睨む。
「どっか行ってくれよ。俺の前から消えてくれよ! もう姿見せんな!」
手近にあった革靴を掴み、宇神めがけて投げつける。
革靴は宇神の顔に目掛け一直線に飛んで行ったが、靴が当たる前に宇神は姿を消し、靴はそのままドアにあたって転がった。
「なんだよ……なんなんだよ」
坊屋は自分でもよくわからない呪詛を延々吐きながら、廊下に転がり、のたうち回った。
バタン、ドタン、ドン! ドン!バタン!
「あーもう!」
最後はヤケになって廊下に大の字に寝そべる。
一人っきりの廊下の天井は、どこを見ても真っ暗だった。