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シーン11 坊屋宅 行くか戻るか

男二人のこたつ。

甘味とコーヒー。

春までの距離は。


 それから坊屋は宣言通り、ほぼ毎日例のケーキショップに通い詰めた。

 一日に買う量は一人分に落ち着いたものの、それでも律義に毎回甘味を買っては食べ続け。

「たまには俺が食ってやってもいいんだぞ」

 笑顔で宇神はそう言ったが、シュークリームにかぶりついていた坊屋は、ぶんぶんと首を横に振った。

「ほへははへはや……」

 ごくごく。

 コーヒーで飲み下す。

「俺が食べなきゃ意味ないのよ」

「そうか」

「味の感想とか、伝えたいじゃない」

 最後の一口をもぐもぐしながら、坊屋は感想をつぶやいていた。

「うめえ……」

「毎日変わらん感想じゃないか」

「え? 何?」

 宇神の小声を聞き返した坊屋だったが、宇神はいいや何でもないと首を横に振った。

 こうして涙ぐましい努力の甲斐もあって、坊屋は少しずつ駅前の君と仲良くなっていった。


 そんなある夜。

 自室のこたつで寝転がった坊屋が、宇神に向かってもう何度目になるかわからないフレーズを歌い上げ始める。

「彼女の名前は、橘紗和子たちばなさわこさん。なんと俺と同い年。作るのが好きなケーキはモンブラン」

 中身は手にした小さな手帳に書かれていることだが、もはや坊屋の目は向かっていない。

「食べるのが好きなのは苺のショートケーキ、店の名前のトルテは」

「トルテはドイツ語でケーキの意、定休日は水曜日」

 途中から呪文の詠唱を引き継いだ宇神が、クッキーの袋を開けながら坊屋に冷ややかな視線を投げる。

「聞かされ過ぎてこっちも覚えたぞ」

「ご支援ありがとう」

 全くこたえていない様子の坊屋に宇神は、むっとした様子で続ける。

「そろそろ俺の力を頼ったらどうだ。ボンの甲斐性の範囲でできることはやっただろう」

「うっ……うー。うーん。まあ、そうなんですよね」

 返事の声は徐々に小さくしぼんでいく。

 確かに坊屋と駅前の君とは仲良くなっていた。

 しかしそれはどうやっても客と店員の関係から抜け出せるものではなく、自称シャイで宇神曰く臆病者の坊屋には次の一手が打てないでいたのだ。

 追い打ちをかけるように宇神が自信ありげに言い放つ。

「明日はちょうど水曜だ。彼女の居場所もほぼわかる。いい加減観念して、もう一歩進め」

「わーかった、わかったよ」

 がばっと身を起こし、坊屋は大きく背伸びをする。

「正直そこまであてにはしてないけど、なんかのきっかけくらいにはなるだろ。ほどよくお願いしますよ、神様宇神様」

「うむ、任せろ」

 大げさに拝まれた宇神はこれまた大げさに手を振り、頷いて見せた。

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