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シーン10 洋菓子店 連日の来訪 

女性客の中に珍しい男性客。

パティシエールの笑顔。

春は近づくか。

 そして次の日。

 帰宅中の坊屋は例のケーキショップへ向かっていた。

 隣に宇神を連れて。

「なんでついてくるんだよ」

「俺も知っていないといかんだろう」

「なんだろな、すげー恥ずかしいんだけど」

 駅から徒歩十分。

 お目当ての店は、実におしゃれなつくりをしており、歩道に面したテラス席などイートインコーナーもあった。

 どの席も若い女性の姿で埋まっていて、外からでも盛況ぶりが伺える。

「改めて見ると女の人ばっかりだな」

 急にしりごみしだす坊屋の背中を、宇神がバンバンと叩く。

「虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。とっとといくぞ」

「お、おう」

 チリリン

 ドアベルが軽やかな音を立てて客の来店を知らせる。

「いらっしゃいませ!」

 ショーケース越しに、明るくよく通る声が聞こえてきた。

「どうもー」

 小さく頭を下げる坊屋に、コックコートの女性が少し驚いた表情を見せる。

「あ、お客様……昨日のケーキ、どこか悪いところがありました?」

「ああ、いや! そういうのじゃなくて」

「そうでしたか。よかった」

 ぶんぶんと首を横に振る坊屋の様子を見て、安堵したのか、女性は笑みを浮かべる。

 女性の笑顔につられ、坊屋も顔がほころんだ。

「いや、あまりにケーキが美味しかったんで、また来ちゃいました」

「まあ、ありがとうございます」

 ふふふ。

 二人の笑顔には、お互いに照れが混ざっているようだった。

「今日はどうされますか?」

「あー、どうしようかな……」

 ショーケースを覗き込み、きょろきょろする坊屋を見かねて、女性が救いの手を伸ばす。

「焼き菓子はいかがですか? クッキーやマドレーヌもありますよ」

「マドレーヌ! いいですねえ」

「ありがとうございます」

 それから坊屋はマドレーヌとクッキーの詰め合わせを購入し、何度もまた来ますと頭を下げてから店を出た。

「うー! 今日も可愛かった!」

 人通りが少なくなった路地でスキップを始める坊屋。

 隣を歩く宇神はあきれた様子で眺めている。

「あんまり近づけてるようには見えなかったがな」

「いいんだよ。顔覚えてくれてたじゃん。十分だよ」

「そりゃあ、あれだけ婦女子がいる中で男はボンだけだったからな」

「ライバルが少ないってことじゃなーい、いいじゃなーい!」

 坊屋は明らかに昨日以上の上機嫌ぶりを見せており、手にした白い箱もギリギリ壊れない程度に振り回されている。

「いやあ! でもま、より印象付けてもらうために! 毎日通っちゃいますよ!」

「ボン、そんなにまめな男だったのか」

「千載一遇のチャンスだからね、坊屋利明! 頑張ります!」

 酒に酔っているわけでもないのにこのハイテンション。

 宇神は腕組みをし、大きく息をつきながらも、どこか嬉し気に坊屋の様子を見守っていた。

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