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刀子月譚  作者: どるき
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大岡裁き

「そこまで!」


 だが勝負は審判の水入りで決着となった。


「決闘はこれで終わりだ」


 幕引きを宣言したマラガス神官長にザクは会釈して構えを解く。彼の態度は「これ以上続けるのはトーコ(ボク)には勝ち目がないので(ザク)の勝利か」と勝ち誇ったもの。

 だが神官長の神託(はんてい)は彼の予想とは異なっていた。


「この勝負は引き分けとする。よってザクくんが要求していた審問はナシだ」

「な? 何故です」


 これに対して食いつくのは当然だろう。

 勝ったつもりだったザクからしたら依怙贔屓にしか思えないし。


「ザクくん……キミはこの決闘、トーコくんに圧勝しなければならなかった。だが今の自分の姿を見なさい」


 指摘されたザクが自分の腹を見ると、神官服に一筋の傷が出来ていた。

 これはボクの攻撃によるもの。

 木刀でなければ肉体ごと切断していたことを表す大きな証拠だ。


「な……」

「気付いたかな? キミはただの神官ではなく皆に戦いの手解きをする教導武神官ではないか。それだけのダメージを受けたのなら、教え子を称えて華を持たせるのが教官としての役目だと、私は思うわけだよ。例え続けていればキミが勝てるとは言えね」


 神官長の判定は紛れもなくボクに対しての贔屓だが、それは立場の違いによるもの。

 ここで続行を許して「序列三位のトップクラスが駆け出しの末席十位相手に幸運込みの辛勝」となれば、最終的には相手を叩きのめしたとしても過程が御粗末。

 つまりザクのプライドや勝利の報酬など教導武神官の地位を貶めることと天秤にかければ捨てるのが大人の対応だと神官長は諭す。


「ですが……影打はどうしましょう。あれは私が譲り受ける予定だったハズです」

「キミへの報奨は別のモノで穴埋めさせてもらうよ。変に喜ばせてしまったのは謝るが、アレは私の失言だ」


 アレとは、サカマキが通信で状況を知らせた際に「ジンシーが落としていった影打を回収し、トーコに預けている」と聞いて迂闊にも「一旦ギルドに譲渡してもらって、その上で今回の労いでキミ(サカマキ)に授けようか」と口を滑らせたこと。

 それだけならばサカマキが辞退してそのままトーコの預かりになったのだが、このとき神官長の横にはザクがいたから失言となった。

 普段から同格と言うことでライバル視するサカマキが手にしなかった有名な武器。

 それを手にいれれば明確に自分が上になると思いザクは影打に固執していた。

 神官長が言っていた「しかるべき序列認定者」とはザクのこと。サカマキの辞退を聞いて「ならば私がいただく」と立候補したことで、今回の因縁は始まったというわけだ。


「それにしても、一昨日ちらりと見たときとは見違える強さになったなトーコくんも。これはザクくんが彼女の力を実戦形式で引き出したのかな? カハハハ」


 最後に神官長はボクの力量を誉めつつザクを持ち上げた。

 正直に言えばボクは短期間で強くなれたのはジンシーのお陰であってザクは無関係だし、神官長だって少なくともザクの影響は十中八九無いとわかったうえで持ち上げたのだろう。

 だがザクはプライドが高いぶん、この手のヨイショには「当然の評価」として信用しやすい。神官団のトップから直々に誉められれば彼とて鼻も高くなる。


「誉めていただいて光栄です、神官長」

「では私の言う意味も理解しただろう? 仕上げにトーコくんにアドバイスの一つでもしてあげなさい」


 誉められて上機嫌となったザクは態度を一変させると、ボクに向かって上から目線に語りかけた。


「これがまだ転生して数日というのは驚くべき才能だよトーコ。このまま精進すれば私に並ぶほど強くなれるでしょう」

「あ、ありがとうございます」


 とりあえずボクは頭を下げた。


「最後の一撃には私も驚かされたが、木刀を壊すとは力みすぎた証拠だな。だから私を倒すには至らなかっただ……それでも並みの男ならばサカマキでも一撃だろう。もう少し精進して、武器を痛めずに同じ威力を出せるようになりなさい。そのときにはもう一度、実戦形式で見てあげますので」

「では両名握手でこの決闘はお開きにしましょう。二人ともナイスファイトでしたよ」

「「エイサー!」」


 神官長の音頭にエイサーと合いの手を入れて握手し、この場は引き分けで丸くおさまった。

 今更ながら何故こういうときの返事が「エイサー」なんだろうと思いつつも、郷に入れば従うものだし気にするだけ無駄とすぐに流した。

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