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刀子月譚  作者: どるき
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オフレコ話

 ここが夢の中だからか?

 首を切り残心する数秒の間、ジンシーの妄想がボクの脳内に流れ込んできた。

 素敵な相手と出会ってこういう関係になれたらたしかに幸せなことだろうが、目の前で欲情している発情期男がボクをオカズにこんなことを考えていたのを見せられるとさすがに少し引いてしまう。

 そもそもボクはこういうことに疎いので男女の恋愛と言うものをイメージできない。

 もし万年新婚夫婦な両親でもいたら違うのだろうが、ボクの両親は幼い頃に死別しているのでそれは叶わない。

 おじいちゃんもおばあちゃんに先立たれていたのでこちらも同様。

 漫画などはそれなりに嗜んではいたけれどしょせんは実感のないお話でしかない以上、ボクのまだ幼い心では誰かを好きになると言う感覚が理解できないのだ。


「何を考えているんだお前は」


 ボクはついポツリとジンシーに突っ込んでいた。

 すると生首のまま口を開いたジンシーは軽いノリで言葉を返す。


「あーあ、俺様ついに負けちゃったか。でも楽しかったし大満足だぜ」

「それはよかったな。一瞬のうちにずいぶんと楽しいことを考えていたようだし」

「あらら、俺様の妄想駄々もれか。夢の中だってのを忘れていたぜ」


 そろそろインタビューをする前の軽口は充分か。


「とにかくお前の首を斬ったんだからボクの勝ちだ。約束通り色々教えてもらうぞ」

「よーし色々教えてあげちゃうか。最初は俺様のフルネームから……」

「それよりまずは神玉についての話の続きを教えてくれ」

「オーケー。コイツについては教えるからには他言無用と言うのを前提に聞いてくれ」


 ボクは理由は聞き返さずに頷く。


「神玉というのは千年前、八柱神が人間同士の争いをなくすために人間たちに与えた神の力だ。俺様がトランスの御子だった話はさっきしたが、正確にはトランスから神玉を与えられたから御子になったわけだ」

「つまりその神玉を持つ剣邪の連中はお前以外も全員がその御子ってことか」

「そういうこと。例えばノエーシャはノヴァの御子だからノヴァ由来の魔法を使っても反動がほとんどない。サカマキが一回使っただけで干からびてしまった活殺光もエーテルを消耗して疲れるだけだぜ」


 短時間ながらサカマキをとてつもない強さにしたあの魔法も使い放題というのは恐ろしい話だ。そんな相手に勝てというのはいまのボクには難しいのはすぐにわかる。

 最弱と言われる目の前の男にさえかなりのハンデをもらってようやくだし、そんな相手に勝てと言うのもテレポト神は無茶を言ったものだ。


「そう引きつった顔をすることないぜ。トーコちゃんなら将来的に俺様たち全員より強くなれるから」


 どうやら剣邪の強さを説明されて顔が歪んでいたようだ。


「お前にだって実質負けてるし……濁拷会のみんなも魔物相手には必死なわりに剣邪には及び腰なのもさもありなんというか」

「うーん……負けたと思うんだったら家に来ておくれよ。嫁として丁重に扱うから」

「それはもちろんノーだ。勝ちは勝ちだよ、お前の嫁になるとか考えられないし」

「だったら強くなるしかないぜ。今宵は俺様がサービスしてあげたんだから、あとはこの体験を生かして自分で考えればいい」

「む……ハンデをくれて勝たせてくれたかと思えば今度は突き放したりして、お前が何がしたいのかボクにはわからないよ」

「俺様のやりたいことは全部伝えているぜ。わからないのはまだトーコちゃんがお子様だから♥️」


 語尾にハートマークついた口調に身悶えしつつも、お子様なのは図星なのでボクは余計に黙ってしまう。

 それにしても剣邪が元々は御子と言う神に近い存在だとか話が飛躍しすぎているし、そんな存在を相手に戦って勝てと言うテレポト神はどういうつもりなのか。

 勝てる見込みがあって言っているのならいいが、もしかして自分で連れてきた人間が剣邪に返り討ちになる様子を観察して楽しんでいる下衆な神ではないか?

 そして剣邪もボクらの方から仕掛けなれば無害なのでは?

 そんな疑念が頭をよぎる。


「そんな顔をして未来に絶望するのはらしくないぜ」

「お前にボクらしさなんてわかるものかよ。でもこうして話をしていると、いくら神の頼みだからってボクたちが戦う理由って何だろうなと。なんだかんだ話せばわかるやつだし、テレポト神や濁拷会の神官団に従うのが正しいことなのかわからなくなってきたよ」

「それは錯覚だぜトーコちゃん」

「え?」

「俺様も含めて剣邪ってのは居るだけで世間に迷惑をかける。だからトーコちゃんには俺様と夫婦になったあかつきには同じ剣邪になって欲しいし、それが嫌ならトーコちゃんの手で俺様を殺してほしい。

 例えばベネディクトのじいさんあたりはそろそろ誰かが止めないとヤバいことを起こしそうなんだ。数百年単位で下拵えをすると言っていてから五百年くらいになるんでな。

 そしてここだけの話、剣邪になるのと剣邪を殺せるようになるのはほとんど同じことだぜ。剣邪のシステムを知らなければ剣邪を倒すことはできないし、そのための手っ取り早い手段はトーコちゃん自身が剣邪になることだぜ」


 ジンシーが捲し立てた言葉の意味がボクにはますます理解が及ばないが、とりあえずわかったことは「話せばわかる」なんてのはジンシーくらいのものらしい。

 相変わらず結婚する気は起きないが、彼は剣邪の連中では穏健派なのだろう。


「剣邪になれか。さっきからお前はそう言っているが、現在いる剣邪が全員神玉を持つ御子だっていうのなら、それを持たないボクが剣邪になれる根拠って何なのさ? 単純にお前がボクに惚れたからってわけでもないんだろうし」

「それはなあ……言えばショックだろうから今は言えない。知りたかったら次の機会に、今度は現実で俺様に勝利したら教えてやるぜ」

「色々教えるといったのはそっちだと言うのにもったいぶるな」

「それはほら……全部ペラペラ話すのも無粋だからな。でもヒントは与えるぜ」

「ヒント?」

「この夢の世界で起きた出来事は現実とリンクしている。それと転生者ってのは転生した時点でテレポトと繋がっているんだぜ」

「参ったな……ボクには理解できないや」


 言っている意味が抽象的でこのときのボクには意味がわからない。だが後のボクからするとジンシーはだいぶボクのことを思って言葉を選んでいた。

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