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刀子月譚  作者: どるき
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心神魔法

 空に投げ出された男は地面を見下ろした。

 ユーキとヤンの位置を捕捉して、ボクが倒れているサカマキとジョンにポーションを与えているのも気付く。

 男の考えはボクには計り知れないがこう考えていたそうだ───そろそろ遊びは終わりにするか。


心神(トランス)魔法!」


 上空の男は短剣に自分の血を付着させると、素早く星の形に振るって血を飛ばした。

 血はエーテルの霧になって僕らを包む大きな結界となり、それは目には見えない不可視の攻撃だ。

 気絶したままのサカマキとジョンは別にして、この魔法を察知したのはボクだけだ。しかも気付いたときにはすでに目の前。必死になってエーテルの盾で二人ごとボクは身を包む。

 目で視覚できない代わりに肌感覚でエーテルを把握していたボクだから出来たことだが他の四人は無防備のまま攻撃を受けてしまう。

 直感だがこれは命を奪う攻撃ではない。だが術中に落ちたらそのままあの男に殺されてしまう。


「あいたたた。いい加減にこの姿でいるのは限界だな」


 実際には数秒だが、ボクの体感としては数分ほどの空中浮遊を終えた男は地面に舞い降りた。

 片腕だし身体中の骨があちこち砕けているのでさもありなんだが着地に失敗したようで、痛いと口にはするが表情は平然としている。

 男は元よりジョンに変装していたのでその顔はジョンと同じだったのだが、短剣を腰に差して右手で顔を覆うとぼこぼこと彼の体が蠢き始めた。

 折れた骨はまっすぐに再生して失ったはずの左腕もにょきりと生えてくる。

 髪の毛はジョンと同じ黒髪がいったんすべて抜けてから赤くてサラサラの髪が肩まで伸びてここだけ見ると雰囲気は美形(イケメン)のそれとなった。

 体格はジョンとほぼ同じだが男のほうがやや細身であろうか。


「別に遊んでやる必要はなかったが、こうした方がいいエーテルが絞れるってもんよ。久々に剣を振るってスッキリもしたし、あとは別のところもスッキリしないとな」


 ニヤリと微笑む男の表情にボクは背中が寒くなった。

 生理的な悪寒……貞操の危機を感じた体が男に対して拒否反応を示した。


「(トーコちゃんだったか? アドリブに走って手間はかかったがサカマキはもう虫の息。トドメを指した後でお楽しみさせてこらうか。胸は薄いが男を知らない乙女の匂いがスカートの下のレギンスからプンプン匂ってきて旨そうだったしよ)」


 いくら自分で自分を可愛い方だと思っていてもこの男は生理的に無理だ。

 あの見えない攻撃もおさまったようなので近づいてきたときがチャンス。ボクは木刀にエーテルを充填させて機会を伺う。


「トーコちゃんはちょっと退いててね。危ないから」


 サカマキの上でうつ伏せになっているボクを他の皆と同様に眠っていると思ったのだろう。

 男は優しくサカマキからボクを離そうと手をかけてきたその瞬間を狙い、ボクは渾身の力で男を貫いた。


「(手応えあり!)」


 木刀の先端は無防備な男の胸を貫いて衝撃が背中まで突き抜ける。

 だが───


「今のはどういうことかな?」

「(効いていない?!)」


 あれだけ完全に決まって心臓を突き刺したハズなのに男は平然と立っていた。

 一旦距離をとりサカマキを挟んで向かい合うが、殺気だっているボクとは違い男の方は困惑の顔。

 ボクとしては不本意な感情が強いがボクを見初めたからこそ、男はボクの反撃にショックを受けたようだ。


「う~ん……まさか桃色遊戯が効かないとは驚いたよ」

「なにが桃色だよ。あんな気味の悪い魔法だったくせに」

「本来は夢心地に落としていい気分にさせる魔法だったのに連れないなあ。あのまま寝ててくれれば良いのによ」

気色悪(きしょ)い!」


 生理的悪寒をバリバリと感じる男への反抗もある。

 ボクは木刀を握りしめてエーテルをこめ、ブンブンと男を切りつけた。

 怒りと嫌悪に身を任せて迂闊な攻撃だったのでボクとしても雑な攻撃で仕方がない面もあるがそれを差し引いても男はボクを子供扱いしてくる。

 ひらりひらりとエーテルをこめた攻撃をかわすので、ボクは彼を躍りのようにくるくると追い回してしまった。

 そんなやり取りをダンスでも楽しむように微笑むこの男。

 客観的に言えば間違いなく美男子なのだろうが生理的に気色悪くて仕方がない。


「おっと」


 だが感情に揺れるボクをバカにできないほど男もまた油断していたようだ。地面の隆起に踵を躓かせた彼は姿勢を崩した。


「でぇい!」


 ボクはその隙を逃さずにエーテルを振り絞って木刀を叩き落とした。

 男の額をとらえてゴツンと骨が砕けそうなほど大きな音が響き、そのまま押し倒したボクは馬乗りになって木刀の先端を喉に押し当てた。

 いままで平和な世界で生きていたので当然ながら人殺しの経験なんてない。

 有段者と言われるほどの力量があってもそんな危険なことをする経験もつもりもなかった。

 だが何故だろう。

 この男は殺さなければいけないと本能が訴えてくる。

 さきほどから感じている嫌悪感とはまた別の感情がそう訴えていた。


「しねー!」


 自分でもいままで言ったことがない呪詛をこめて叫んだボクは木刀に体重をのせて、そのまま男の喉を押し潰した。

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