火のエーテルと住宅事情
オルガが夕飯の仕上げに取りかかっている間、ボクとマリーは火の補充に取りかかっていた。
薪を燃やして得た熱を封じることでコンロや湯沸かしに使用できる熱源用エーテル鉱石に火のエーテルを補充するための炉が一つこの集合住宅にあり、住民たちは持ち回りでエーテル鉱石への補充を行っている。
マリーは毎日二十個のエーテル鉱石を補充して、自分がいない時でもエーテルを操れないご近所さんが困らないように余裕を作っているそうだ。
「火のエーテル補充はやり方に癖があるんだけれど、魔法の初歩を学ぶのには最適だって父さんも言っていてね。エーテルの扱いもこれで覚えたんだ」
「なるほど。手慣れているね。でも……いつもマリーがこれをやっているってことは、オルガも手伝っているの?」
「いんや、あの子はお料理担当でこっちはアタシだけ。オルガはアタシよりセンスがあるけど火のエーテルだけは苦手でさ。父さんが言うにオルガは水のエーテルに片寄っているんだとか。火が操れないぶん水を自在に操れるのよあの子は」
「凄いな。水辺で戦ったらめちゃくちゃ強そうだ。相手の顔を水攻めにして窒息させるとか」
「顔に似合わずなかなかえぐいことを考えるね。いや、むしろトーコらしいのかな?」
「そうかな。ボクとしたらやられたら嫌だからすぐ思い付いたんだけれど」
「オルガならそんなことしないって。まあ魔物には通用しなさそうだし使い道が少ないけれど」
「む、そうなのか」
「まだトーコは魔物を見たことなんだったね。それは明日の午後のお楽しみにしてていいと思うよ」
マリーは雑談をしながら慣れた手つきで焚き火の炎をエーテルにして鉱石にこめていく。この所作も戦いに応用できそうだなと思いつつも、あまり突っ込んで変な勘違いをされたくないので感心するまでに留めた。
「これでよし」
「あっという間だね。ところでこの火はつけっぱなしでいいのか?」
「この炉はうちの大家と近隣の料理屋や宿が共同で作ったもので、どこかしらが炊いた熱を使っているからそのままにしているんだ。ずいぶん昔に有名な魔法使いが設計したんだとか。薪の補充もエーテル仕掛けでやっているから薪を切らさないように注意するだけでいいんだよ」
「思っていた以上にハイテクだ。エーテル鉱石への補充だけは自動でやってくれないのは難点だけど」
「パイプで繋ぐのならまだしも、エーテル鉱石への補充だけはどうしても人の手が必要になるのさ。それにほら……直接パイプで繋ごうにもエーテル供給用のパイプはあれくらい太いんだ。数ヵ所ですむ料理屋やお風呂屋はまだしも、何十部屋もある集合住宅の各部屋にパイプラインを繋ぐのはさすがに予算オーバーだったってわけ」
「でもさ……いずれどこにでも供給出来るようになったらもっと便利になるのにね」
「あはは。アタシにはそれがいつになったら実現するかわからないや」
ボクとしては電気のようにエーテルを各家庭に送信できたら便利だろうなと思うが、ただでさえ魔物と戦うのが常なこのブレイドではそこまでインフラが発達していないのも仕方がないのかもしれない。
ボクは「あくまで夢の話さ」とマリーに返した。
「───もしかしてトーコの世界にはそういうのがあるんだ」
「ん……まあね。なまじ科学系と言われている世界の面目躍如だ。でもボクの世界でもそういうインフラが発達したのは大きな戦争が終わって世界が安定してからだっていうし、まずは剣邪と魔物をどうにかしなきゃ難しいだろうね」
「他所の世界……それも魔物なんていない科学系の世界でも争いってあるものなんだ。たしかにこっちでも剣邪が現れるより前には人間同士でも戦争をやっていたって伝説はあるけれどアタシにはピンと来ないや」
「ボクも平和になってからの世代だからおじいちゃんの受け売りでしかないけれどね」
「ふーん」
ボクらは他の家庭用に用意した予備のエーテル鉱石を棚に並べた後、オルガの待つルイザ家の部屋に戻る。
マリーはボクの言うインフラの発達した世界をどう思ったかはわからないが、ボクの世界のことを彼女に話せたことで少し絆が深まったような気持ちにボクはなった。




