ミッシングラバー
「準備完了・・・・・」
マシンをアイドリング状態にした。
あと30秒、侵入ルートを確保しすぐにブツを運び出せる準備をする。
この時間はここには誰も来ないことは何回も検証済みだ。
あと15秒、もう一度頭の中で行動をシミュレーションする。
よし大丈夫だ。
上空に爆音が響く。
前方から数百の爆撃機がその腹から雨を降らせるように爆弾を巻きしたし近づいてくる。
火の海が徐々に迫る。
5秒・・・4、3、2、1、よし今だ。
俺はマシンを稼働させる。
その瞬間、時間は停止した。
炎がまるで赤いオブジェのように建物にかかっている。
俺は早速作業を開始する。
建物の中に侵入し飾ってある絵画を壁から外し、コンテナに詰め込む。
本当は全てを回収したいが、時間停止の間は動力系が使用できないため数十枚が限度だ。
コンテナを手で押して運び路地裏に停めてあるモービルに搬入した。
大粒の汗が吹き出す。
火災が迫っているため異常な暑さだ。
あまり長時間この場所に留まるのは絵画にとっても良くない。
俺はモービルのハッチを閉じ、マシンのスイッチをオフにする。
その瞬間、時間が動き出して炎が美術館を包み込んだ。
俺はその光景を見届けて、モービルをスタートさせる。
今から自分の時代に戻るのだ。
数時間後、俺は自宅にの壁に新しく手に入れた絵画を飾り、ワインを飲みながらひとり悦に入る。
この絵は第二次世界大戦の空爆で失われたはずの名画だ。
それを俺を手にいれた。
俺が盗まなければ、1秒後には灰になっていたはずの絵画なので、タイムパラドックスは生じない。
なんて完璧な盗みの手口だろうか。
俺が飲んでいるワインも、ある豪華客船に積まれていたものだ。
沈没寸前に絵画や宝飾品と一緒にいただいてきたものである。
倉庫の中には絵画、彫刻、陶磁器といった世界中のあらゆる財宝が所狭しと置かれている。
それらはすべて戦争や不幸な事故で失われたはずのもの。
”Missing Robber”
2500年に開発されたタイムマシンを使い、過去のお宝を失われる直前に強奪する。
俺はその中でも、プロ中のプロだ。
今まで一度もしくじったことがない。
博物館や政府の依頼で強奪することもあるため、俺の仕事は時間警察に黙認されている。
俺はその極上のワインを楽しみながら、歴史ライブラリーを検索し、次の獲物を物色した。
ある記事に目が止まる。
ほお、これなんか良いかもしれないな。俺のコレクションにないものだ。
数日後、俺はプロペラ飛行機の座席で新聞を読んでいた。
俺の時代の飛行機と違いよく揺れるので、気持ち悪くなってくる。
30分後、この飛行機は大西洋沖で墜落する運命にある。。
今回のターゲットは48名の命とともに失われたはずのヴァイオリンだ。
俺はターゲット回収の時間を図るため、もう一度前方の座席を視察するために席を立ち前方に向かう。
手洗いを出て、間違えたふりをして、ファーストクラスを覗き込んだ。
そこで予想外のハプニングが起きた。
今回のターゲットであるヴァイオリニストと目があってしまったのだ。
彼女は私の顔を見てにっこりと微笑んだ。
「ごきげんよう。あなたはどちらに行かれるのですか。」
彼女の突然の質問に困惑しながら、俺は違和感のないように英語訛りの古典フランス語で話す。
念のためにと思って睡眠学習しておいた古典語の知識が役に立った。
「私は、ビジネスでパリにきていたのですが、今日サンフランシスコに戻るところです。あなたは?」
「私は演奏旅行で行くんですの。久しぶりのアメリカなので楽しみですわ。」
「ほお、それは素晴らしい。では私も是非花束を持って貴女のコンチェルトを聴きに参りましょう。」
「ありがとうございます。貴方のために心を込めて演奏させてもらいますわ。」
彼女の笑顔は俺の心を貫く。
この可愛らしい笑顔が30分後に海の底に沈んでいくのか。
彼女は10代にして不世出の天才ヴァイオリニストと呼ばれていた。
もし、この事故で彼女が生きていたら後の音楽業界の歴史は変わっていた・・・。
そう言われるほどの才能の持ち主だったのだ。
確かにヴァイオリンは素晴らしいが、あくまでも天才の作った中の一挺に過ぎない。
俺の仕事は失われたお宝を強奪すること。
本当に強奪すべきは彼女なのではないだろうか。
そう決心した瞬間、今回のターゲットは2つに増えた。
そして30分後、飛行機に衝撃が走り、機体は急降下していく。
乗客たちの叫び声や散乱する荷物。
俺はいつも通りカウントダウンを始めた。
5秒・・・4、3、2、1
マシンを稼働させ時間を停止する。
傾いた期待で前方のファーストクラスの客室に移動するのはなかなかやっかいだった。
ロッククライミングのように、両手両足でバランスを取りながら下へと降りていく。
彼女はバイオリンをまるで我が子のように大切に握り締めながら目を閉じていた。
きっと最後の瞬間を思い浮かべているのだろう。
俺は彼女をそっと抱き抱え、墜落地点の海に隣接した場所に係留しておいたタイムマシンに乗り込む。
数百メートル離れた地点まで移動し時間を再び動き出す。
大きな水柱とともに轟音を立てて飛行機は水面に激突した。
俺は、救えない47名の命に黙祷し、タイムマシンの時間を俺の慈愛へとセットした。
数ヶ月後、俺は今、苦い表情でワインを飲んでいる。
目の前には美しい絵画が飾られている。
そして美しいヴァイオリンの音色とそれを弾く美しい彼女。
あの日、墜落1秒前に彼女とヴァイオリンを救い出し、我が家へ連れてきた。
最初は混乱していた彼女もやがて起きたことを理解し、俺に感謝してくれた。
二人は愛し合っている。
そこまではハッピーエンドである。
言っておくが、彼女を愛していることには変わりがない。
彼女のヴァイオリンの才能はまさに失われたお宝と言って間違いなかった。
でも・・・・・、あまりにも天才すぎるのだ。
目が覚めてから寝るまでの間、彼女はずっとヴァイオリンを弾き続けている。
そしてその音色は俺を魅了し離さない。
俺一人が独占するにはあまりにも重すぎたのだ。
休み中に書きためたうちの2作目です。
オチが今ひとつだなと思うのでそのうち書き直すかもしれません。




