1話 入寮学生、内谷月真
天挟地域より東にある都市区を挟東と呼ばれる。
挟東地方の機能都市部『中邱都』。中邱は日本では花の都であった。
時は天挟暦1995年。
中邱機甲局が管轄の教育施設、挟東私立機甲高等学校は、機甲格闘鋼装を搭乗させて訓練させるカリキュラムが組まれる特殊教育機関だった。
演習鋼装が初期間搭乗機であり、1年生はこの一年目を演習用機のみで習得しなければならない。
その学園周囲の都市区を『機甲特区』と呼び市街地の商業施設は女子たちの楽園そのものだった。
ファッションセンターやお洒落なカフェスペース、行楽地等々、女子高生にはもってこいの環境だからだ。勿論、男子学生にも人気スポットは諸所にあり、至れり尽くせりの学生世界になっている。
機甲特区は、鋼装証明符発行後に入れる世界なので、証明物無しでは立入禁止になっていて管理には常日頃から厳しい。
鋼装能力検定試験でやっとの事で受けられた者が二人存在した。それがよりによって受検中学生が、二人の名前が【うちやつきま】なのだ。しかもサインインするのに漢字だと誤字防止のために読みがな記名制度ということから、どちらかが不合格にならなければならない。
こんなご都合主義の合否発表があっていいのか?
解りやすくAとBで説明する。
Aは、内矢附麻。Bは、内谷月真。
Aは、女子に人気ある彼女がたくさんいるというハーレム系一夫多妻的なナルシスト野郎。
Bは、単なる不勉強的でこんな進学校を受けられたのは運があっただけのごく一般庶民の学生。女難の相が出ていてフラれ率が高い。
第四十回U―15メンズ選抜大会当日と受検日が重なった為にAの彼はギリギリセーフで最後席の受検卓上で筆記試験するハメになった。
Bは、単なる寝坊で遅れただけだ。
よりによって同名同士での遅刻者受検となって二人のうちどちらか落ちないと合格者の定員数が合わないという。
そして……合否結果が出た。
発表されたのは、Bのうちやつきま……『内谷月真』の方だった。これも強運のお陰と言っても過言ではない。
しかし、一方では学生間で内矢附麻の方を推していて、Bの方は眼中の範囲になかった。
顔はよく知られるAの方は、世界一の美形家系でメディアには引っ張りだこ。だのにBの方が合格だとは知らずにそれだけあって期待大なのに、美少年がいないと確認されれば何かおかしいと疑う事に……。
Bの方の名前と被るだなんて学園側は誰一人とて知らない事。合格者を人気者にするヒイキはない。
近所の寮の一つ、ジャパンキンダードーミトリーに入寮予定のうちやつきまは、読み仮名表記登録なので、女子寮の二年三年のAの方のファンたちは男子寮の玄関先で待ち構えていたのだった。
合格発表後、本人入寮契約を済ませる為に向かったBの方は、非難の声が出るなんて予想もしなかった。
「えっ? なんなの、この女子寮らしい学生がたくさんいるけど。……ここ、男子寮だよね?」
「ん、新入りかい? ていうか、最後に入寮するの、今日のU―15メンズ選抜大会に出た内矢くんだと思ったんだけどね」
「【うちやつきま】はオレだけど、何か?」
玄関付近で待ち構えた女子寮入居者たちは非難の声をBの方に煩く飛ばした。
「本人を出せ〜‼ あんたはお呼びじゃないんだよ〜‼」
等々のイビりが鼓膜が破れるほどに耳元を貫いた。
「オレは正真正銘の内谷月真だ‼ これが受検証明票だ‼」
と証明票を提示した少年は、多くの女子たちにボコられた。
「確かにこの受検票は本物だよ。記名は漢字誤字防止で全部平仮名だけどね」
と、男子寮の代表的学生が確認を取った。
「平仮名だから紛らわしいとか? それ以前に才能ある方が合格なのがお約束でしょ‼」
と、寮のリーダーシップを持ちそうなキリキリ頭の美少女がフッ切れた。
「みんな、女子寮に帰宿るわよ。認めたくないけど、これ事実なのよね。ああ、期待外れ〜。化粧したの台無しだわ」
「ホント、ホント。がっかりよ、みんな〜たいさ〜ん‼」
と、リーダーシップの補佐役キャラが仕切って、男子寮を後にしたのだった。
そして、男子寮代表的キャラの杏野士十瑠は三年生で、最高寮班の班長が新入り案内を始めた。
「事務室は、ここにあるから、事務手続きはそこで済ませておいで、内谷月真君」
「あっ……はい。先程ありがとうございました」
「僕は三年の杏野士十瑠。よろしくね」
「あ、は……はい」
月真は事務室で契約手続きを行い、正式にここの住民届け出を申し込んだのだった。