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32,地下牢にて

「大人しく牢に入れ!」

「分かった、分かったから押さないでくれ。危ないだろう」


 半ば押し込まれるような形で、ジークは地下牢の中に入る。

 後ろで、牢番が荒々しく扉を閉める音が響き渡った。


「ったく、いつまでも抵抗しやがって!

剣は大人しく預けるのに鎧は脱がないとか、どういう了見だ!」

「だから、何度も説明しているだろう。

この鎧は呪われた一品で、どう頑張っても脱ぐことは出来ないんだ」

「じゃあ抵抗せず外させるままにしとけばよかったじゃねえか!

お前にぶっ飛ばされたハンクスは、今頃お前を殺してやるって息巻いてるだろうぜ」


 言いながら牢番は、怒りが治まってきたのか、手近な椅子を引き寄せつつジークに訪ねてくる。


「…にしてもあんた、何でまた、組合の長と騎士団長に喧嘩ふっかけたんだ?

さっきの暴れ具合を除けば、態度はいいし身なりもいいし、そんな大それた事するような人間には見えんがなぁ」

「人は見かけによらぬものさ」

「ふん、そうかもしれんがな」


 牢番は、面白くもないというように鼻を鳴らした。



 ダニエルとハイリをのした後、ジークはすぐさま周囲にいた騎士たちによって拘束された。

 フラムは弁明するべく駆け寄って来ようとしたが、賭けの賞金を払おうとする胴元に引き止められているうちに、ジークは騎士団詰所の地下にある牢獄へと連れて来られ、処分が決まるまでの一時な拘留処置を受けたのだった。


「俺は二人の戦いを見て思うところがあった故、直接指導するために勝負を挑んだだけで、二人を害そうとしたわけではないのだが」

「あの二人に指導って発言だけ聞けば、アンタはイかれてるとしか思えないんだがなぁ。

でも実際、アンタはあの二人に勝っちまったんだろ?

それに、さっき抵抗してた時も、見ていて随分と場慣れしてそうな感じはしてたしな」

「それはどうも。…しかし、俺も少し感情的になりすぎたな。

元々王都へは組合長に会うためやって来たというのに、その目的の相手を叩きのめしてしまってはな」

「組合長に面会…?」


 牢番は一瞬不思議そうに首を傾げたが、すぐに納得したように頷いた。


「ああ、ってことはアンタが例のジークか!」

「む、俺の名前を知っているのか?」

「知っているも何も、アンタの名前は騎士団冒険者問わず知れ渡ってるぜ!

一応、俺もこれでも騎士団員の端くれなんでな。

アンタの事はよーく耳にするぜ。ズールの件は、よくやってくれたの一言に尽きる」

「おや、貴殿も騎士なのか。騎士で牢番とは、貴殿も随分と変わり者だな」

「『貴殿』はやめてくれ、ガイアでいい」


 そう言ってガイアは肩をすくめると、懐からパイプとマッチを取り出し、パイプに火をつけようとする。

 それを見たジークは、平時より少し声を荒げてとがめた。


「勤務中に喫煙とは感心しないな、ガイア」

「ん?…あー、悪い、ジーク。いつもの癖でな。

この地下牢は今のところがら空きだし、普段はここには滅多に人が来ないから、よくここで吸ってるんだよ」


 申し訳なさそうにマッチの火を消したガイアをよそに、ジークはふと疑問に思ったことを尋ねる。


「…そういえば、おま…きこ…」

「…貴公でもいいよ、別に」

「貴公の言った通り、ここの牢には人が全くいないのだな。

俺が数ヶ月前に王都にいた時は、そこまで絶対的に治安が良かったわけではなかったはずなんだが」

「…ああ、それか。それはな、ジーク―」


 ガイアが何事かを言いかけたところで、地下牢の入り口の扉を開ける音がした。

 続いて、地下へと降りる階段を下ってくる足音が、都合二人分聞こえてくる。


「…久しぶりの囚人だからって、そんなにはしゃいで張り付いていたら嫌われるわよ?」


 先導していた全身鎧姿の騎士が若い女の声でそう言うと、ガイアは不機嫌そうな顔で立ち上がった。


「余計なお世話だ、フェイス。つうか、俺は別にはしゃいでねえよ。誤解を生むような言い方すんな」

「ふん、幽霊しか友達のいない万年ボッチのおっさんが、急に同年代くらいの話し相手が出来て嬉しくないわけないでしょう」

「あぁ?やんのかコラ」

「ふ、た、り、と、も」


 咳払いをしながら、騎士の後ろにいた平服の人物が騎士を押しのけつつ二人の間に入って窘めにかかる。


「フェイス。ガイアに会うたび喧嘩を仕掛けるのはやめてください。

大人しく出来ないなら、貴女には帰ってもらいますよ」

「うう…ハイリがそう言うなら…」

「ハッ、団長に怒られてやがんの。いい気味だ」

「貴方もですよ、ガイア」


 今度は相手を責める気持ちが表れた半目でじろりとガイアを睨みつけ、ハイリはため息をついた。


「いい大人なんですから、売られた喧嘩をすぐ買うのはよしてください。もっと自重をですね」

「それは俺じゃなく、組合長の脳筋小僧に言ってやれよ。

同期で仲のいいアンタの言葉なら、少しは効果があるだろ」

「残念ながら、あいつ(・・・)は言って聞くような性格してな― 待ってください仲のいいってどういう!?

って、それは今どうでもいいんです!」


 顔を真っ赤にして叫ぶと、ハイリはまた咳払いをする。

 そして、蚊帳の外に追いやられ手持ち無沙汰になっていたジークに気づくと、ここにやって来た目的を思い出したのかハッとした顔になった。


「そ、そうでした。私は貴方と話をしに来たんです、ジーク」

「…本当か?」

「本当に本当です。信じてください」

「信憑性に欠けるんだが。まぁいい、聞こうじゃないか」

「ありがとうございます」


 そう言ってハイリは、ガイアの差し出した椅子を固辞すると、腰に下げていた鍵束を使って牢の扉を開け、中へと入ってくる。


「ちょ、ちょっとハイリ!?一体何をするつもり!?

そいつは仮にも、この国の重要人物に暴力を振るった罪人なのよ!?」

「正式に罪人と決まったわけではないでしょう。

私たち二人がなすすべもなく敗れたのを見た何人かが、焦って彼を捕らえてしまっただけのことです」


 そう言ってジークに顔を向けたハイリは、床にあぐらをかいているジークに習って地べたに腰を下ろした。

 自身の服が汚れるのも厭わず膝を抱えるハイリに、ジークは静かに用件を問うた。


「それで、話とは?

わざわざダニエル殿に帯同を請うくらいの内容なのだろう?」

「ええ、その通りです」


 ハイリは、神妙な顔のまま、ジークの顔を見据えて話し始めた。



話というのは、他でもありません。


今現在、王都で起こっている問題について、貴方の力を見込んで助力を願いたいのです。


…今、王都内では、この王都に住まう人々にとって多大な影響を与えうる問題が持ち上がっています。


具体的にどう言った問題かは、引き受けていただけるまでは話すことができません。


ですが、貴方が組合長、ダニエルと話をするために一定期間王都に滞在するのであれば、間違いなく関係のない話ではありません。


ですから、どうかお力添えを、と。


もちろん、報酬も騎士団から十分に―


…私たち騎士団だけでなんとか出来ないのか、ですか。


………お恥ずかしい話、私たちにはどうにも出来ない問題なのです。悔しいほどに。


むしろ、私たちだからこそ手が出せない、と言い換えてもいいでしょう。


そこで、組合所属とはいえ一応は一冒険者である貴方の力が必要になってくるのです。


貴方はいわば無所属。


王国上層部の意向や組織間のしがらみなどといったことに縛られず活動することが可能でしょう。


…はい。確かに、貴方がしくじった場合にはどの組織にも被害が及ばない、そういった打算もあってのことです。


…ですが、ですが…


…この問題を解決したいのは、間違いなく私の本心です。


ですから、どうか…



「…内容もよく分からない案件を、この場で承諾せねばならんか。

よくもまあ、それで俺が受けると思ったものだ」

「…馬鹿なことを言っているのは分かっています」


 ハイリの返答を、ジークは小馬鹿にしたように繰り返す。


「分かっている、か。いや、貴公は何も分かっていない。

どうせ、最後は俺が折れるとでも思っているんだろう?」

「…いけませんか」

「全くもって甘い見通しだと言わざるを得ないな」


 そこで、牢の外で黙って話を聞いていたフェイスが、怒りをあらわにした声でジークを咎めた。


「あなた、どういうつもり?ハイリがこれだけ頼み込んでいるというのに、その態度はなんだっていうのかしら?」

「おい、フェイス。団長の話の腰を折るような真似はやめろ」

「じゃああんたはイラつかないっていうの!?

ねえハイリ。こんな奴に無理に依頼しなくても、私たちで頑張れば…」

「…誰が引き受けないと言った?」

「は?」


 ジークの言葉を聞き、フェイスが素っ頓狂な声をあげる。

 残り二人、ハイリとガイアも、驚きの表情でジークを見つめてきた。

 ハイリが、やっとの事でかすれた声を出す。


「そ、それはつまり…」

「ああ。その依頼、受けさせてもらおう」

「ほ、ほんとうに…?」

「なんだ、依頼を受けろ受けろと言っておいて、受けると言ったら文句があるのか?」

「い、いえ、その、あまりにも呆気なく承諾されたので、気がぬけたというか…」


 拍子抜け、といった顔で座り込んでいるハイリに、ジークはぶっきらぼうに催促した。


「…別に、なんだって構わんだろう。

とにかく、だ。依頼を受ける以上、どういう問題かは説明してもらえるんだろうな?」


 ジークがそう言った瞬間、ハイリの顔があからさまに曇る。

 しかし、ジークがそれを口に出すより早く、ハイリは真顔に戻って話し始めた。


「実は、最近王都内で、立て続けに人が殺される事件が起こっているのです」

「な、なんだと!?大事件ではないか!」

「はい。当然、組合詰めの冒険者たちと騎士団員が総力を挙げて犯人の特定に奔走しました。そして…」


 そこで再び、ハイリの顔が曇る。

 しかし今度は、ジークはそのことに触れずに、ただ話の続きを促した。


「特定には成功した、と?」

「はい、その通りです。ですが、その特定された相手が問題でした」


 ハイリはそこで言葉を切ると、少しの間躊躇い、そして意を決したかのように顔を上げ口を開く。


「その相手というのは―」

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