表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/45

28,騎士と従者、別行動開始

 雲を突く高楼と荘厳な王城を望む、王都中央大通り。


「いやぁ、ほんとうに良い所に居合わせてくれましたね!

さあさ、行きましょう行きましょう!」


 ジークたちが馬丁と別れ、自分たちの荷物を持って厩舎から出ると、フラムがにこやかな顔で待っていた。


「大壁の上にも監視の兵はいたんですけど、まさか目と鼻の先にあるちょうど丘で影になっている場所で盗賊たちが悪さを働いているとは…

盲点でした、兵たちにも通達しておきます」


 言いながら、フラムはジークたちを先導するように街中へ向かって歩き始めた。

 ジークたちは荷物を担ぎ直しつつ、その背を追う。


「ああ、そうしておいてくれ。

それにしても、受け取った召喚状には『担当の冒険者が対応する』と書いてあったが、お前のことだとはな。

…雰囲気、変わったか?」


 街中を歩きながら、すれ違うたび物珍しそうな目線を向けられることに疲れたジークがなんとなくそう尋ねると、フラムは恥ずかしそうに頭をかいて答えた。


「あはは、わかりますかね?

実は、ズールの一件の後に姉から聞いたんです。

私の記憶のこととか、二人の姉のその後のこととか」

「ほう、そうだったのか。…大丈夫だったか?」

「え?あぁ、まあ、聞いた直後は勿論信じられませんでした。

でも、そのあと姉に例の記憶を弄る魔術を解いてもらったんです。

…正直、ちょっと死にたくなるくらいにはショックでした。

でも、姉と色々話して、少しは気持ちも落ち着いて」


 そこでフラムは、前にジークが会った時とは違いどこか吹っ切れたようにはにかむ。


「もう、大丈夫です。

ま、本当は姉さまにも謝りたいところなんですけど、消息が掴めないのが残念です。

あ、あと、魔術が解除されたのでちょっと温厚になりましたよ!」


 自慢げに胸を張るフラムに対して、ジークは軽く首をかしげた。


「温厚に、なぁ。その割には、抵抗した野盗を渾身の力を込めてぶん殴ってたような気がするんだが」

「あ、あれは素手だからいいんです!

マジギレしてたら切り捨ててますから!」

「本気でキレていても捕縛した盗賊に剣を振るうのはダメだろう。

…あぁそうだ、前から気になっていたんだが、お前たちの姉というのは―」


 ジークがフラムに質問を投げかけようとしたとき、


「おおおおおっ!!」


 カヴァリアの大声で、ジークの質問がかき消される。


「あ、ああ、あれはなんだっ!?」


 カヴァリアが勢いよく指差したのは―


「え、あれですか?」


 フラムは、困惑した表情でカヴァリアの指の先にある露店を見つめた。

 首をかしげるフラムの代わりに、ジークが質問に答える。


「あれはノワっていう、砕いたクルミを生地に混ぜて焼いたパン菓子だ。

大抵の町でおやつとして食べられてる、よくある物だぞ」

「そ、そうなんですか…!

ユースティンでは見かけなかったので、つい」


 そう言ってカヴァリアは落ち着きを取り戻したかに見えたが、それでも露店に向けた視線は微動だにしなかった。

 仕方なく、ジークはカヴァリアの肩を叩く。


「少し待っていてやるから、食べたければ買ってくるといい」

「ほ、本当ですか!!い、いや、しかし今は…」

「大丈夫だ、別にそう急いでいるわけでもあるまい。なあ?」

「え、ええ、まあ」


 フラムがそう答えるのが早いか、カヴァリアは手荷物から貨幣入れを取り出すと目にも留まらぬ速さで露店へと駆けていった。

 うきうきと上機嫌に菓子を買うペルニスと、鎧姿の上に顔の整っているペルニスに興奮気味に詰め寄られ狼狽する露店の主人を横目に見つつ、フラムは小声でジークに尋ねる。


「…ノワって、うちの国じゃ大抵の子供は食べたことのある物だと思ってたんですけど。

ひょっとして、カヴァリアさんって外国の方なんですか?

ていうかそもそも、カヴァリアさんってどこの出身なんですか?

というかいつ仲間に引き入れたんです?

ジークさんたちがズール邸から帰ってきた時には一緒にいたような…」


 首をかしげるフラムの肩を、ジークはがっしり掴んだ。

 そして、重大な事を伝える時のような重苦しい雰囲気でフラムに語りかける。


「…フラム。実は彼女には、とある事情があってな…」

「と、とある事情、ですか。それは一体…?」

「実はな…」


 そこで躊躇うように言葉を切ってから、ジークはふたたび口を開いた。


「…あいつ、めちゃくちゃ田舎育ちなんだ」

「…はい?」

「田舎というより、もはや山育ちだな。

だから、一般的な知識というものを持ち合わせていないし、様々な物が新鮮に見えるのだろう」

「は、はぁ。それで、フラムさんと仲間になった経緯は…」

「あー、それはあれだ、あれ。

あいつは山育ちゆえに働き口があまり無くて、仕方なくズールのところで私兵として働いていたんだ。

それを俺がスカウトし、同行させているというわけだ」

「そ、うなんです、か…?」

「そうだとも」


 力強く頷いてから、ジークはフラムの顔を覗き込むようにして続ける。


「カヴァリアは田舎出身である事を秘密にしているから、あまり直接話題に出さないでほしい。

まあ、話題に出してもあいつのことだ、惚けたふりをするだろうが」

「き、気にしていらっしゃるんですか」

「ああ。だからこそ、気を使ってやってくれ、フラム。

あいつは王都(ここ)で目新しい物に触れられるのを楽しみにしているんだからな。

変な話題で、カヴァリアに嫌な思いをさせたくないし」


 言いつつ、ジークは内心フラムを言いくるめられるか半信半疑だった。

 カヴァリアが田舎(というか異国)出身なのも、目新しい物、特に食べ物なんかを期待してついて来ているのもあながち嘘でもないのだが、しかしこの説明は少々胡散臭い。

 加えて、フラムは仮にも二つ名持ち(ネームド)の優秀な冒険者だ。

 中途半端な言い訳では、簡単に看破されてしまう可能性も十分すぎるほどある。が―


「…はい、わかりました」


 委細承知した顔で首肯したフラムに謝意を述べつつ、ジークは自分の見立てが間違っていなかったことに若干の安心を覚えた。

 前にユースティンで会った時や姉との間にあった事件を鑑みるに、フラムは「他者への思いやり」が少々過度な部分がある。

 少女が一人で働いているのを見るだけで、背景の事情を加味せずに無実の少女の同僚を敵視したように。

 姉が悪口を言われたのを耳にして、むしろ姉を傷つけてしまうほど周りが見えなくなるように。


(…正直、あまり騙すような事はしたくないんだがな。

まあ、馬鹿正直に本当のことを言うよりは遥かにマシだ)

「 ―ジークさん」

「ん?ああ、なんだ」


 唐突に話しかけられたため少し反応が遅れたが、怪しまれない範囲でジークはフラムの方を向いた。


「カヴァリアさんが色んな新しい物を見るのを楽しみにしていたと、そう仰っていましたよね」

「ああ」

「それなら、私にいい考えがあります」

「考え…?」

「はい!」


 フラムが笑顔で肯定したのとほぼ同時に、カヴァリアが菓子をいっぱいに詰めた紙袋を抱えて戻ってくる。


「いやはや、意外と単価が安かったのでたくさん買ってしまった…」

「あ、カヴァリアさん!ちょうどよかった」

「ん、なんだ、フラム殿?」

「実はですね〜」


 そこでフラムは、一度だけちらりとジークを見てから、満面の笑顔で告げた。


「カヴァリアさんには、一人別行動をとって頂こうと思いまして!」

「…え」

「別行動、だと?」


 想定外の発言にジークとカヴァリアが二の句を継げずにいると、その沈黙を説明の催促とでも捉えたのか、フラムは自信ありげに喋り続ける。


「はい。実はこの後、ジークさんたちには組合本部に来てもらおうと思ってたんですよね。そこで色々、手続きだの組合長からのありがたいお話だのを予定してたわけです。

でも、それだとお二人が用意してある宿に向かえるのが夜になってしまうんですよね。

そうすると、カヴァリアさんは今日一日、目と鼻の先にある王都を全く楽しめずに居なければならないわけです。

それはお辛いでしょう?」

「だから別行動、か。まあ、理にかなっていなくは無いが…」

「…確かに、私も別行動をしていいというのなら喜んで観光させて貰いたい気持ちが大半なのだが」

「おい」

「いいんじゃないですか?別にカヴァリアさんはぶっちゃけいてもいなくても変わんないと思いますけど」

「まあな」

「おい。…というか、それだとカヴァリアの手荷物も邪魔だろう?

どうせなら、一旦荷物を置いて明日俺とカヴァリアでゆっくり見て回った方が…」


 完全に別行動の誘惑に抗えなくなっているカヴァリアを小突きつつ、ジークはなけなしの抵抗を試みた。

 しかし、


「ああ、それならこれを使ってくださいな」


 そう言ってフラムが取り出したのは、青白い継ぎ目のない皮袋。

 フラムはそれに、カヴァリアからノワの袋を受け取って放り込む。


「ああっ!?なんてことを!!」

「落ち着いてください!この袋は特殊な魔道具で、あなた方が今日泊まる宿の部屋に繋がっているんです。

この中に要らない荷物を入れて、ついでに持っていってくれれば、買い物なんかで荷物が待ちきれなくなる心配もなくなります」

「おお、それはすごい…!」

「……」


 絶句したジークを見て、魔道具を見てはしゃいでいたカヴァリアは苦しそうに歯を食いしばってみせた。

 もはや、血の涙を流しすらしそうな形相である。


「…わかりました、ジーク様がどうしてもというのなら、不肖このカヴァリア、滅私にてお従い致します…」

「…分かった、わかったよ。カヴァリア、今日一日中は好きに見て歩いて構わないぞ」

「ほ、本当ですか…!」

「ただし、だ。何か問題を起こそうものなら、引きずってでも俺の視界の届くところにいてもらうからな」

「はっ、御意に!!」


 そう言ってカヴァリアは、見ている側が恥ずかしくなるほど恭しく膝をつくと、フラムから奪い取るようにして受け取った魔道具の袋を携え、街の雑踏へと紛れていった。

 それを満足げに見送ってから、フラムは嬉しそうな表情をジークの方へと向けてくる。


「これで、カヴァリアさんにも王都を存分に楽しんでもらえますね!」

「ああ、そうだな…」

「あれ。ジークさん、お疲れですか?」

「いや、別に。ただちょっと心配なだけだ」

(…王都には、厄介な奴が多いからな…

カヴァリアなら余程大丈夫だとは思うが、万が一何かあったら…)


 考えに耽るジークを横から不思議そうに眺めていたフラム。

 やがてフラムは、何かしら納得したかのような明るい声を上げる。


「心配…?あぁ、安心してください!

組合長は、怖い顔して結構良い人ですからね。

あんまり緊張しなくても、いきなり怒鳴られたりとかする心配は要りません」

「……」

「それじゃあ、私たちは早速本部に向かいましょう!」

「…そうだな」


 フラムが親切が過ぎる人間ではなくただ素直な(かんがえがたりない)人柄なだけではないかと疑いつつ、ジークは一路組合本部へと向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ