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15,新たな仲間

「――それで、取り敢えずユースティンに帰ってきたはいいんだが…」


 ジークは、多数の仰々しい装飾が施された馬車が停まっているユースティン正門の光景を見て、嘆息する。馬車の側面を見ると、一様に王国騎士団の印が刻印してあった。


「全く、一難去ってまた一難だな……」


 すわ王国からの追手かと警戒するジークの後ろで、ズール邸に行くためにユースティンで雇った御者が恐る恐る声を発する。


「だ、旦那方、あっしは……」

「あー、すまない御者どの。追加で金を払うから、もうしばらくこの馬車についていてくれるか?」

「うう、まじかよ……面倒事は御免なんだが」


 苦々しい顔でそう言ったものの、御者の家もユースティンにあるため、御者は渋々ジークの頼みを受け入れた。


「わかった、そのかわり特別手当はがっつり取らせて貰うからな!」

「ああ、そうしてくれると助かる。それでは、ヒルドリンデ、カヴァリア。行くぞ」

「おー」

「承りました」

「ケプファはここで留守番だ」

「えー!?」


 三つ連なった大馬車の二両目の窓から顔をのぞかせ、ケプファが不満気な声を上げる。


「なんでわたしだけー!?」

「俺たちはまだしも、馬車の方に何かあったら御者(かれ)一人じゃ不安だからな」

「私の方からも、どうかよろしくお願いいたします」


 ジークの言葉に追従するようにそう言って、カヴァリアは深々と頭を下げた。

 それを見て、ケプファも若干バツの悪い顔をする。


「ま、まあ、カヴァリアちゃんがそこまで言うなら」

「さすが姐さん、おっとなー!」

「っていうか、ヒルドリンデが残ればいいじゃんか!」

「この状況、いつ魔術が必要になるかわからん。そこでだ、ヒルドリンデが詠唱短縮しつつではあるが一般的な魔術を使うのと、お前が街中で太古の超魔道をポンポン使うのと、どっちが都合がいいと思う?」

「うー……」


 ユースティンでは、未だにケプファの事を『ジークの娘のケイン』として通している。

 そんなケプファが高度な魔術を使うとなれば、いくらなんでも目立ちすぎるだろう。

 ケプファも不満そうではあったが、結局はジークの理屈に納得してくれたようで、最後には


「気ぃつけてねー」


 と言って、手をひらひら振っていた。



「――なぁ、カヴァリア」

「はい、なんでしょう」


 時は少し遡り、ズール邸からユースティンへと帰還する馬車の中。


「お前、本当に俺に仕えてくれるのか?」


 未だにそのことが信じられないジークは、カヴァリアにおそるおそる尋ねていた。

 対して、問われたカヴァリアは少し悲しそうな顔をする。


「……やはり信用していただけませんか」

「信用というか、まぁ」


 カヴァリアの様子を見て、ジークもいいよどむ。


(信用していないというか、うまく行き過ぎて未だに信じがたいという方が正しいんだが……)


 正直、ジークの中では、未だにカヴァリアの行動が不可解だという思いは有るには有った。

 しかし、それはカヴァリアを信用していないからではなく、むしろ彼女を評価しているからこそ、彼女のかつての主君である魔王ガレスを、そして実の母であるガルガインを打倒したジークに、従順に付き従っているという現状が理解できないというだけのことだ。

 そのことを伝えようと、ジークは屋敷を発ってからずっとカヴァリアとの会話を継続していた。が、結局あまり功を奏したとは言えない。

 ジークは、どうにか助け舟を求めようと傍のヒルドリンデに目を向ける。


「お前からも何か言ってくれないか?」

「何かって、何言ったらいいっていうんだよ? 俺、口はあんまり達者な方じゃないぞ」

「そこはなにかこう、上手い具合に?」

「適当かよ!」

「……あの」


 遠慮がちに口を開いたカヴァリアの声で、小声で相談していたジークとヒルドリンデは口をつぐむ。

 二人が静まるのを確認するように少しだけ間をおいてから、カヴァリアは再び口を開いた。


「先程襲いかかった無礼は、後ほど如何様にでも罰していただきたく存じます。ですから、どうか私が貴方様の家臣となることをお許しいただきたく」

「いや、こちらこそ君の母を殺めたんだ。それこそ命くらいは狙われて当然、と思っていたんだが……」


 ジークの言葉を、カヴァリアは首をふるふると振って否定する。


「滅相もございません、ジーク様。確かに我が母は貴方様に敗れましたが、最期は戦士に相応しい死に様だったと聞いております。それならば、どうして貴方様をお恨み申し上げることがありましょうか。

それに――」


 ペルニスは、足元に置いてあった朱槍を手に取った。

 『龍槍ガルガンチュア』――彼女(カヴァリア)の母、ガルガインの遺骸を用いて作られた、これまた一級の槍と言うにふさわしい一振りである。

 カヴァリアが失った槍の代わりにと、ジークがケプファに取り出して貰ったのだ。


「これが、()()()()の形見だと思えば、それほど辛くはないです」

「……そうか」


 カヴァリアのその言葉を契機に、数瞬の間ではあるが、馬車の中は静まり返ってしまった。

 その重苦しい空気を振り払おうとしたのか、ヒルドリンデが明るい声を出す。


「まー、とにかく、もう俺たちは仲間なんだ。これまでのしがらみとかそういうのは置いといて、仲良く行こうぜ!」

「ああ、ありがとうございます、ヒルドリンデ様」

「いやいや、俺も旦那の従者みたいなもんだからさ。同輩って事で、ここはひとつ」

「ふむ、そうでしょうか。それではよろしく、ヒルドリンデ殿。……すみません、少しよろしいですか?」

「ん? なんだよ」


 そこでカヴァリアは、ものすごく申し訳なさそうに、俯きがちに告げる。


「その、ヒルドリンデ、という名は長いから……ひ、ヒルダと呼んでも、差し支えないでしょうか……?」

「なんだ、そんなことかよ!」


 ヒルドリンデはにっこり笑って、手を差し出した。


「別にいいよ。ヒルダって呼ばれるのは新鮮だけどな。んじゃ、よろしく、カヴァリア! あ、あと、殿ってーのも、なんなら敬語自体いらないからな!」

「あ、ああ。じゃあよろしく、ヒルダ」


 まだあまりヒルドリンデの砕けた雰囲気に慣れないのか、少し戸惑いつつもカヴァリアが握手を交わしたところで、ジークが口を開いた。


「何度も問うようで悪いが、本当に俺に仕えてくれるんだな?」

「ええ、もちろんですとも。其処だけは揺るぎません」


 カヴァリアは、真剣な表情でジークを見つめる。


「その点については、ガレス様のご遺志でもあります」

「……というと?」

「ガレス様は、貴方様が我らの本拠地の近くに攻め入ってくるにつれ、近辺警護に当たっていた私を含む数名に同じ事をおっしゃっていらしたのです。『強き者に仕えよ』、と」

「強き者、か」

「はい。強い、という点でいうならば、ガレス様を打倒せしめたジーク様は、間違いなく強き御方かと存じます」


 と、そこでカヴァリアは俯き、拳を固く握り締めた。


「まあ、それは私の勝手な解釈なのですが。結局、ガレス様に真意を訪ねる前に最後の決戦の混乱で近衛の魔物はほぼ全滅し、生き残った者も散り散りに逃げ延びる事になりましたから。あの方のお伝えしたかった事は分からずじまいです。

私の妹も同じ場に居ましたが、離れ離れに……」


 そして再び、キッと顔を上げる。


「それでも、私はまだ妹の探索を諦めて居ません。だからこそ、情報提供と住処を対価にあの下衆(ズール)の用心棒をしていたのです。正直、あいつが捕まってせいせいしていますが」


 そう言いつつ、カヴァリアは憤懣やるかたなしと言った表情で、後方、3両目の馬車を睨みつけていた。

 結局、ズールの行なっていたことは、罪状書きにあったものより酷い物だった。

 奴隷などという上等なものでは無く、ズールは口減らしとして奴隷商に売られた、又は人攫いに攫われた亜人の少女たちを買い取り、自分の邸宅で文字通り()()()いたのだ。メイドのように取り繕っていたのは外面だけで、実際は狭い部屋に押し込められ、人としての扱いを受けていなかったらしい。

 そして、ズールは彼女たちを暴力で支配し、毒薬を仕込んだり、死体を処理したりといった汚れ仕事をさせていたと、ジークは泣き崩れるメイドたちから聞き出した。

 後々、メイド達とカヴァリアの案内で、ジークは隠し部屋に押し込められた骨の山と、劣悪な環境で衰弱する亜人の少女達を発見した。その隠し部屋の入り口は、ズール邸の裏手の陰に、魔術的な隠蔽と植物を使った物理的な工作の両方が施してあり、知らぬ者が見ても分からぬようになっていた。


(屋敷の中をいくら探索しても隠し部屋が出てこないわけだ。全く、小狡いズールに対しても、その程度の小細工を見抜けなかった自分自身にも腹が立つ)

「――ま、ジーク様!」

「っえ? な、何だ?」

「あ、いえ、俯いていらっしゃったものですから」

「あー、すまない。考え事をしていただけだ」


 どうやら、考えに耽るあまりカヴァリアの言葉が聞こえていなかったようだった。沈思黙考するあまり相手を困らせる癖はなかなか治らないものだと、ジークは内心ため息をつく。

 ……というか。


「どうした? 心なしか、はしゃいでいるように見えるが」

「そ、そんなことはございませんとも!」


 そうは言いつつも、カヴァリアの頰はうっすらと赤くなっている。


「ひ、人の町に行くのが初めてだからと言って、そのようなことは!」


 しかも、自ら墓穴を掘っている。

 ジークは、存外に可愛げのある所を見せてくれた新たな仲間を内心嬉しく思いつつ、大げさに肩をすくめてみせた。


「わかった、着いたら少し案内してやるから」

「べ、別に私はっ」

「やせ我慢すんなよ、カヴァリア」

「君は黙っていてくれ、ヒルダ!」

「逆ギレ!?」

「なになに、賑やかじゃんかー! 私も混ぜて!」


 こうして、暇を潰しに一両目にやってきたケプファも加わって騒ぎつつ、ユースティンの正門へと到達し、今に至る。



「はぁ……」


 カヴァリアが、残念そうに肩を落とし、ため息をつく。


「取り敢えず何が起こってるかだけ把握して、そうしたら観光にするから。な?」

「はい、いえ、すみません……」


 カヴァリアを慰めつつ、一行は集会所へと向かった。事態の詳細を知るには、ユースティンの中で最も情報が集まる集会所が適しているとジークが判断した故の行動だったのだが。


「……あれ、冒険者組合の女剣士じゃないか、旦那?」

「ああ、そうだな」


 集会所の前で、見知った顔の人間が、何やら騒いでいた。どうやら、正面にいる騎士の一団の頭目らしき人物と、何事かを言い合っているらしい。

 しかも、


「おい、二人とも剣を抜いているぞ!」


 冒険者の女は細身の双剣を、騎士は身の丈近い大きさの大剣を構え、続いて――


「凍てつく奔流よ、我に従え!《付与(エンチャント):アイスエイジ》!!」

(ほむら)を纏いて舞え!《付与(エンチャント):イフリート》!!」


 二人がそう言い放った瞬間、女冒険者の双剣は炎を、騎士の大剣は冷気を纏った。


「高位の付与(エンチャント)魔術使いが二人だと!? クソッ、止めるぞ、ヒルドリンデ、カヴァリア!」

「「了解!!」」


 そして、三人はその騒動の渦中へと駆け出したのだった。

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