プロローグ 昔々あるところに
むかしむかし、あるところに、王家に仕える一人の騎士がいました。
その騎士はもともと、彼のいる王国に魔王の魔の手が迫った時、平民の身分でありながら仲間を募って勇者として立ちあがり、王家の至宝であった聖剣を借り受けながらも、見事魔王を打ち倒すという偉業を成し遂げた男でした。
当時の王は彼を厚遇し、騎士の位、王子・王女の剣術指南役の立場、貸し与えていた聖剣、そして王の末娘を彼に与え、騎士もその大恩に報いるべく、王家に一身に尽くしました。
ですが、それから数十年が経ち、騎士もまた老いて、亡き妻との思い出を胸に余生を過ごしていた頃。
騎士の逸話ばかりを恐れた当代の若き王が、かねてより騎士を妬んでいた貴族たちと手を組み、騎士をいわれの無い罪で捕らえ、処刑しようと試みたのです。
騎士の功績を知る数多の国民はこれに怒り、また王に助命を請いましたが、当然王は聞く耳をもたず、とうとう処刑の日となってしまいました。
一切の抵抗なく処刑台に引きずり出された騎士を、薄気味悪いものを見るかのような目で王が眺めていると。
処刑人の前に首を出された騎士は、静かに口を開きます。
『俺はこれまで、王家、そしてこの国のために心を砕いてきた。
しかし、結局この国は乱れ、このような暗君が生まれるに至ってしまった。
……俺は決めたぞ。
もしこの魂が再びこの世界に生まれ出ることがあろうものなら、俺は必ずやかの王の首を跳ね、亡骸を踏みにじってやろう!
必ずだ!』
騎士の口上を不快に思った王は、無理やり騎士を黙らせると、処刑人に、早く騎士の首を落とすよう命令します。
その後は何の支障もなく、速やかに刑が執行されました。
そうして、騎士は処刑され、かつて華やいでいた王国は、新たな王の専政が行われていったのでした。
おしまい。
――といきたいところですが、このお話にはまだ続きがございます。
騎士が処刑されたその日のうちに、騎士の友数名が彼の家を整理しようと立ち入ると、そこに置いてあったはずの、彼がかつて「勇者」として戦い、手に入れた『魔王の鎧』が、消え失せていたのです。
騎士の友達がくまなく探索すると、他にも幾つかの「戦果」が無くなっていました。騎士が厳重に保管していた、例の宝剣までも。
まるで、騎士自身が持ち去ったかのように…
その同じ位の時刻、王都では、何者かが荷馬車つきの馬一頭を盗み、王都の外へ逃亡するという事件が起きました。
街道を疾駆する馬上に居たのは、夜闇に溶け込むような漆黒の鎧の姿でした。
…………おわかりになられましたでしょうか?
そう。これは「彼」が人ではなくなった後の物語。
これは、
王に裏切られたかつての勇者が、
恐ろしき魔物へと転生し、
かつてそうしたように、
仲間を集め、
己の力を高め、
ついにはかつての主君を斬り捨てるまでのおはなし。
これは悲劇か、それとも喜劇か。
――――元勇者の、魔物転生復讐譚。
はじまり、はじまり。




