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第13話「叔父さん激おこですよ」

 ──すなわち、

 

 命をいただく…と──



 ブワッ! と、冒険者の数名がのけ反るほどの殺気がほとばしる!


 命のやり取りが激しい者ほど、その気配に敏感なのか、ダラダラと冷や汗を流し自らの得物えものに手を伸ばす。


 目の前の、凸凹コンビは多少の威圧に気付いたぐらいで余り効果はないようだ。

 精々、多少なりとも威圧感を感じたくらいだろう。




「アダダダダ! 離しやがれ!」

 ジタバタを暴れるモヒカンデブ。

「まず、キナを離せ。それからだろ?」

 デブを吊り上げるバズゥ。デブに吊り下げられるキナ。


 キナは両手を抱えられているせいで息が詰まり苦しげだ…その姿は痛ましい。


「わ、わかったわかった…」


 乱暴な手つきでキナを離すモヒカンデブに対して、素早く突き飛ばして、痩せたハゲと一緒にまとめて店外に放り出すと、落下するキナを危なげなく抱き留める。


 ぎゃぁぁ~とか言ってすっとんで行ったが……知らん!

 そのまま港まで転がっていけ。


 腕の中には温もりがある。

 小さな体は、悲しいくらいに軽い。

 良い香りと、美しき少女の柔らかい体──

 いわゆる御姫様抱っこだが、キナの青くなった顔は、それどころじゃない。


 これは…脱臼──肩関節が外れている…?


 びっしりと浮かんだ玉のような脂汗に、胸を焦がすような怒りが込み上げる。


「おい、お前ら! キナが痛めつけられてるのに知らんふりか?」


 周囲の冒険者風の連中と、漁師を睨み付ける。


「おいおいおい、客に対してそりゃないじゃないの?」

 剣士風の男がニヤニヤと笑いながらのたまう。


 こいつはいち早くバズゥに気配に気づいた奴だ。それなりにできる(・・・)のだろう。


「客だぁ!?」


 ギロッとひと睨みすると、ニヤけた顔が不意に引き締まり、反射的に背中の剣に手を伸ばそうとする。


 ───やめな、


 剣士の隣にいた魔法使い風の女が、剣士を止める。


「すまなかったね~…いや、なにあいつ等はここいらでも粗暴な奴でね。給仕さんが酒をこぼしたもんだからいきり立った(・・・・・・)んだよ。給仕さんも素直に謝らなかったもんだからね~」


 脂汗を流し青い顔で震えるキナは、それでもしっかりとした意思で首を横に振る。


「この子は違うと言ってるみたいだが?」

「おや、そうかい?」


 女魔法使いは、見た目は美人だが…蛇の様な油断ならない雰囲気をかもし出している。

 正直苦手なタイプだ……暗殺者ミーナを思い出す。


「あいつらが足ぃ、引っ掛けるのはオラは見たで…」


 その時、ずっと押し黙っていた漁師の一人がボソッと呟く。


「アンだテメェ!!」


 それを威嚇いかくするように黙らせようとする剣士。


「ほう…どういうことかな? ウチの子と別の客が証言してるんだが?」

 ジッと女魔法使いを見ると、奴は何でもないように両手を上げるとあっけらかん(・・・・・・)として言った。


「あ~らら? そうだったかしら? ウチからはそう見えたってだけだよ?」


 チ…知らぬ存ぜぬか。


「もういい。キナに落ち度はない! それでいいな?」

「好きにすれば~? ウチらには関係ないことだしね」

 うんうんと頷き、また酒を飲み始める剣士と女魔法使いとその他諸々(もろもろ)───

 

 しかし、剣士風の男がにらみをかせたせいか、漁師達は居心地悪そうにソソクサと立ち去ろうとする。


「おい! おだい、置いてけよ!」


 ドサクサ紛れに金も払わず行こうとする漁師。

 その顔は「?」だ。


 あ?

 どうことだ?


「い、いいの…」


 ろくに動かない手でキナがバズゥを留める。

 これを幸いとばかりに漁師たちが去っていく。


「あ、おい!」

 腕の中のキナが止めるので追及はできなかったが、釈然しゃくぜんとしない思いは残った。


 ウチはツケ(・・)なんてやってたか?


「ククク…」

 女魔法使いが面白そうに笑っている。

 何やら事情を知っているようだが…


「バ、バズゥ…降ろして」

 腕の中でイヤイヤをするキナにうながされて地面に降ろす。


 肩は外れたままだ。


「キィィナァァ~? どうすんの~? 治すぅ? 安くしとくよ~?」

 ケケケと、女魔法使いが意地悪そうに聞く。


「それとも、王子様(・・・)が来るまで待つ?」


 ニタニタと笑うくそアマ…


 何だか知らないがイラついてきた。

 

 キナは何やら葛藤かっとうしているようだが、女魔法使いに向かって、

「お、お願いします…」

 と懇願こんがんする。


 女は女で驚いたのか?


「あれま? どうしちゃったわけ? ま、いいけど~、高くつくわよ~?」

 ニヤっと顔を歪めると、杖を持ち上げ詠唱の構え…魔法使いの治療魔法、簡易版のヒーリングか…


「待てよ」

 キナの前に回り込み、女魔法使いを見下ろす。

「何よ?」

 面倒くさそうに杖を放り出す。

「いくら取る気だ?」


 高くつく──と言う。

 葛藤かっとうしながらもそれを受け入れようとしたキナ。

 なにやら、お金問題が鼻に付きはじめた。


「あー、そうね~。銀貨10枚ってとこかしら?」




 はぁ?




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