第1話「ウチの姪が最強でして…」
どうやら……俺の姪は最強らしい。
どれくらい最強かというと、めっちゃです。
そう、めっちゃです。
並居る軍団をバッタバッタとなぎ倒し!
天災と言われる魔族の将軍を、ちぎっては投げちぎっては投げ!
不死と言われたアンデッドの王を、殺さず生かさず滅してなお昇華させ!
不敗の竜族を〆て、メンチを切って、ビビらして、最後はまた絞めて、干し!
海の悪魔と言われたクラーケンを吊り上げ吊り下げ、バッシバシと叩いて伸ばして肝を抜き、絡めて和えて不味いと捨てる……。
そんな姪と叔父さんが悪い奴を退治するため人類最強メンバーとパーティを組むことになったけど……。
叔父さんな、勇者ちゃうねん。
叔父さんな、猟師やねん。
叔父さんな、普通の人やねん。
叔父さんな、聖剣とか装備でけへんねん。
叔父さんな、姪っ子より弱いねん。
だって、オジサンだもん。
だって、オジサンだもん……。
オジサンだもん……。
だもん……。
ヒュゥゥゥゥゥゥ~~~~~……。
大海に浮かぶ巨大島、──シナイ島に風が吹く。
蹂躙された都市の先にあるのは、堅牢な砦。
それを背景に、人種すら分からぬほど枯れた老婆が、誰に語るでもなく──歴史をその口に紡いでいた。
数千年以上続くと言われる人類と魔族の戦いは決着が付くことなく、南北の大陸を挿んで一進一退の攻防を繰り広げていた。
南の人類と、北の魔族。融和することも共存することもなく、互いに殺し合う種の本能。
魔族に魔王が君臨すれば人類は、危機に瀕し──その都度「勇者」が人類から現れ魔族を駆逐し、魔王を撃ち滅ぼした。しかし、勢力圏は変わらず技術と魔法だけが発展し、年々凄惨な戦いが激しさを増すだけとなり、南北共に荒廃しきっていた。
そして今世の争いも歴史の示すがごとく、魔族に魔王が君臨したとき、若き英雄は「勇者」となり魔王を討つべく北大陸に乗り込んだ。それは、変わらぬ歴史……いつものごとくの英雄譚──魔王を討ち滅ぼし、魔族を駆逐するその時が来た──かに見えたが、今世の勇者は、魔王亡き後の魔族の英雄に討たれ……北の大地に消えた。
その数年後、魔族の英雄は「覇王」を名乗り、かつての魔王を越超える膂力と魔力とカリスマで、北大陸の人類を駆逐し、南大陸へ攻め入った。その新たな脅威の前に、人類は勇者を望む。
応えるのはやはり「勇者」。
彼の者が討たれたその日、新たな対抗手段は──既に人類の中にありき。
先代勇者の落胤──少女エリンは「勇者」の因子を受け継いでいた。
それは、必然か、偶然の悪戯か、運命か。人類の後背を突付こうとした「覇王」軍の先遣隊は少女の村を襲い橋頭保を築かんとしていたが、僅かばかりの衛士と貧相な装備で立ち向かい──少女エリンは、先遣隊を見事撃退して見せた。
これを見て勇者の落胤に懐疑的な各国の王も、少女の力を認め──軍を招集し、各国の精鋭とともに彼女を史上最強の剣士へと育て上げる決心をした。
少女エリンは──「勇者エリン」として、
人類の王達の導きに応じ──宝珠、宝剣、稀代の鎧に身を包み……勇者軍として──力を蓄え、仲間たちとともに旅だった。
そして、戦いの日々──勇者エリンは、勇者軍の先鋒として「覇王」軍を真っ向から殲滅していく。だが、努々忘れるなかれ……勇者は勇者であり、少女は少女である。その双肩はあまりに華奢にすぎる。
老婆の朗々と語る声は、シナイ島北部の湿地によって水気を含んだ青臭い風に乗ってあっという間に散ってしまった。
※ ※
北大陸と南大陸の中間にある巨大な島──シナイ島。
その北部、旧覇王軍支配地域の湖沼地帯、ホッカリー砦。
南から攻めあがる人類にとって、島を制圧する最後最初の足がかりであり、覇王軍にとっては、最後の砦──この先は無防備な軍港しかない。
勇者の力はすさまじく、要所である砦を守る魔族の将軍を、仲間の支援があったとはいえ──ほとんど単身で撃破……勢いに乗った勇者軍は、小隊を先頭にあっという間に砦を占領し、シナイ島戦線に終止符を打たんとしていた。
そうだ──! ホッカリー砦を落とせば、シナイ島戦線での人類の勝利は間違いなし。誰もがそう考え、必死で戦った。
そして、俺も……そう思っていた。
戦線よりも、人類の勝利よりも、姪と──少なくとも、しばらくはエリンとともにゆっくりと出来る……そう思っていた。
思っていたんだ……。
※ ※
「お前は保護者失格だ」
突如突き付けられた言葉に、思わず反論しかけるが、体に走る激痛に顔を顰める事しかできなかった。
クソ……唐突だな!?
なんだっていきなり?! 言っていいことと悪いことがあるだろう。
俺の存在価値を全否定するその言葉だけは、認めるわけにはいかない!
高熱にうなされて、目醒めたのは最前線の砦の一室──そこで開口一番、俺にそう告げるのは、亜麻色の髪を後ろでまとめた切れ長の目をした美男子。そいつは貴公子然とし、その立ち振る舞いは強者のソレ。ベッドの脇に置かれた椅子に腰かけるその男は、稀代の剣士であり爵位持ちの大富豪の子息──エルランだった。
彼は、人類の精鋭からなる勇者軍の、さらに選りすぐりの尖兵たる「勇者小隊」の隊長を務める英雄でもある。
それも、世にもまれな「雷鳴剣士」という剣士系天職の最上位とされるランク持ちで、その整った風貌と恵まれた家柄から連合軍随一の剣士と呼び名が高い。
「聞こえなかったのか?」
エルランは再び、バズゥの心を抉るその一言を告げようと口を開こうとする。
「聞こえてるよ……」
自分でもぞっとするほどしわがれた声は、確かにバズゥの口から溢れたものだった。
──お前は、保護者失格だ──。
むむぅ……。
正直、俺もそう思っていた。なにせ精鋭揃いの勇者軍の──さらに精鋭を選りすぐった勇者小隊。
そんな人類の最強が揃う部隊に俺がいるのは、別に俺が最強の一角だから……──な~んてことはない。
勇者エリン──若干十五歳の少女……勇者とは言え、未成年だ。
勇者とは言え、まだまだ少女ゆえ、保護者が必要と判断されたらしく、両親のいない彼女の唯一の肉親であるバズゥにお呼びがかかったというだけ。
と、いうのは表向き、要は保護者という名の体のいい予防線プロパガンダだ。
あまりにも幼い少女を戦わせるのは外聞が悪いとでも思ったのか、子供を戦わせるのは、親の許しがあってこそ──なんて、考えたどっかの国のお偉いさんがいたとかいなかったとか……。
だが結局は、保護者なんて必要ないくらいエリンは強い。
強すぎた。
めっちゃ強かった。
その強さゆえに、彼女の幼さに目を向けるものは誰もいなくなった。
そう──――。
俺の姪は世界最強です……。
それ故、最初はエリンを守るなんて息巻いていたバズゥだが……出来ることはエリンの話し相手に、小隊の雑用に斥候、あとは戦闘時のサポート位なもの。それすら、俺の様な中級職でなくとも勇者軍最高の戦力である上級職の援護があれば、必要なものではない。
要はただの役立たずだ……。
ごく潰し、
ちょいニート、
姪っ子のヒモ、
ド助平、
変態etc~……。
──うん、泣いていい?
ま、俺の役割なんてそんなもんです。
エリンの世話係として、それなりに給与面では待遇はいいのだが、如何せん戦闘時に役に立たないバズゥに対して、勇者小隊は物凄く冷たい……物凄く。
「こういってはなんだが──」
エルランは一度言葉を切り、溜を作ると言い捨てる。
「お前はなんでここにいるんだ?」
おそらく、エリン以外がそう思っている。
つまり、みんなが思っていて、且つ言い難いことを代表して言っているのだろう。
認めるわけにはいかないが、それでも、反論は思い付かない。
エリンの保護者?
エリンの叔父だから?
エリンの安全のため?
どれも違う……。
いや──違わないが……違う……。
──なんでここにいる……か──。
それは、同時にずっと心にあった懸念とシコリでもあったのは確かだった。
容赦のないその言葉が、重傷の身であるバズゥの心に突き刺さった。
そして、エルランの言葉に返す言葉もなく、項垂れるしかできない。
項垂れるバズゥを嘲笑うかのように、この地の外気が砦の表面に当たり気味悪く響いた。
ここは、覇王軍の旧占領地である湖沼地帯。
その唯一の入り口であり出口でもある砦「ホッカリー」の煤けた一室。
そこで俺は──『猟師』のバズゥこと、勇者エリンの叔父……バズゥ・ハイデマンは自問する。
そう……。
何でここにいるんだろうと。
ここにいる直接的な原因と、それまでの経緯をボーッとした頭で思い出しながら……。
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