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第105話 積極的なルリエッタ

「こちらでお休み下さい」


ヒマツブシティに在る賭博ドーム『1or8』。

ナナシがガレフを奪い返す時に、ハンニバル商会から序に回収した物件である。

管理を任されたギンジョーが指名した黒服に案内されてナナシ、ルリエッタ、ガレフ、ソフィアの4名は1or8に隣接された従業員宿舎に来ていた。

ドーモンと明日同行する事となったので、宿泊する為の宿を紹介してもらおうとギンジョーの元を尋ねたらここを教えられたのである。

ガレフの住まいはボロ屋な上に既にガレフは家を出ている、それもあり同行してきたのだが・・・


「おいおいおいおい・・・すげーなこりゃ」

「本当にここに泊まっていいのか・・・?」


チーターの尻尾を左右に振りながら興奮を隠せないガレフ、ウサミミの片方をヘナリと曲げて少々怯えながら訪ねるソフィア。

そんな二人に黒服の男はサングラスを外してニッコリ微笑みを浮かべ。


「どうぞ、こちらは元支配人だったあいつが住んでいた部屋ですので新しいオーナーの部屋としてお使い下さい」


赤い絨毯の敷かれた高級ホテルの一室を想像する光景に興奮するなと言う方が無理だろう。

煌びやかな窓からの夜景が正面に映る入って直ぐの部屋、隣には寝室のほかにも複数の部屋が在るようで扉が幾つかあった。

簡単に部屋の防犯について教えられナナシは部屋のカギを受け取り黒服を見送る・・・

ここまで黒服が親切にしてくれるのには勿論元支配人を倒したナナシへの感謝があるのだ。

ハッキリ言ってブラック企業そのものな体制だったここの従業員、そのほとんどが借金の形にここで強制労働をさせられている者が殆どであった。

だがナナシはギンジョーに、ここで働くのであれば借金に関する金利は帳消しとし、更に人並み以上の給料を支払い業務時間もシフト制でホワイト企業を体現した様な形に変更したのだ。

受け取った給料から最低支払額以上の好きな分を返済に充てて働ける環境を作った事に従業員一同の黒服達は感謝をしていたのだ。


「しかし、本当にとんでもない奴だなお前・・・」


ガレフの言葉に少し照れながらナナシはサムズアップを返す。

出会って間もないと言うのに奇跡のバーゲンセールの様な光景を連続して見せられたのだからそれも仕方ないだろう。

そんなやり取りを二人がしている間、ソフィアとルリエッタは部屋を見て回っていた。


「すっごーい!何このお風呂?!」

「はわわ・・・全員でも入れそうですね」


ソフィアの言葉に思わずそう言ったルリエッタ、だが自分の言葉にナナシと一緒にお風呂に入るという光景を想像して顔を真っ赤に染めてしまう。

勿論この光景をユービューブで見ている視聴者から、この回に大量のイイネが送られているのは言うまでも無いだろう。


「ふぅ・・・大丈夫・・・だよな?」


二人の大きな声にガレフが見に行った、一人になったナナシはフワフワの椅子に腰かけて右手を触って確認する。

日中にドーモンに握り潰されてへし折られ、テーブルに叩き付けられた右手を確認しているのだ。

時間を焼却して巻き戻した事で怪我は無かった事になっている、だが違和感は未だに残っているのだ。

それは当然であろう、一時的とはいえ手を握り潰され、へし折られ、叩き付けられた時の激痛は体感しているのだ。

腕などを失った人が無い筈の腕に痛みを感じる『ファントムペイン』と呼ばれるそれに似たような感覚が今も残っているのだ。

ドーモンも勘違いさせる結果になったので口には出していないが、あまりの激痛に一瞬意識を失っていたのだ。

その後のテーブルに叩き付けられて床に倒れた際に意識を取り戻し、目の前に転がった銀貨の下に隠したアレで火魔法を使用したナナシ。

計画的とはいえ、受けたダメージは心に傷を残していたのだ。


「あらら・・・こっちどうしましょうか・・・」


ナナシが自分の右手の感覚を確かめていた時に別の部屋を覗き込んだソフィアが声を上げた。

ルリエッタとガレフがその部屋を覗き込む・・・


「ふむ、この部屋はワシとソフィアが使うのが良いじゃろう」

「えっ?で、でも・・・それじゃあ・・・」

「良いじゃないルリエッタ」


そう言ってパチリとルリエッタにウィンクをするソフィア、一体何の会話か少々気になったナナシは立ち上がりその部屋を覗き込む。

そこにはシングルベットが離れて2つ置いてあり、無駄に広い部屋の外側には謎の彫刻などが並んでいた。

少々悪趣味な感じのする部屋だが、高級な感じは間違いなくしている。

だが問題は・・・


「それじゃあ・・・ナナシさん・・・私達はそっちの部屋みたいです・・・」


そう言ってルリエッタが手を向けたドア、ナナシは嫌な予感を感じながらゆっくりと扉を開けると・・・

そこにはダブルベットが部屋の中央に一つ、ジト目でソフィアに向き直ると。


(が・ん・ば・れ)


と口パクでソフィアが応援の言葉を投げかけていた。

そして、ナナシと目が合ったルリエッタは顔を真っ赤にして俯く。

流石にこれは不味い、ユーデューブの規約に引っ掛かってチャンネルが垢バン喰らうと考えたナナシはソフィアとルリエッタ二人にこの部屋を使って貰おうと考えるのだが・・・


「・・・です・・・」

「えっ?」


ルリエッタが何かを言い、ナナシが聞き返す。

高鳴る鼓動、緊張の面持ちでゆっくりと開けられたルリエッタの顔は覚悟を決めた様子で真っすぐにナナシを見詰める。

ルリエッタの言葉が聞き取れたのか、ガレフはニヤニヤとしながらナナシに向けてサムズアップを向ける。

それが何を意味するのか理解できない訳ではない、だがすぐ隣の部屋で二人が寝るというのに・・・


「お願いします・・・ナナシさん・・・私・・・ナナシさんを知っておきたい・・・です」


出会った時は少女の容姿だったルリエッタ、だが今は前の区で死神将軍と戦った際に成長している。

まだ未発達な部分は勿論あるが、出るところは出ているのだ。

そして、考えないようにはしていたのだが、ルリエッタの気持ちは勿論ナナシも理解している。

ここまで女の子に言わせて逃げる様な野暮な事は出来ないと覚悟を決めたナナシは決意した。


(嵐、ごめん・・・俺の動画、ここからちょっとカットしてくれな)


そう念話で伝え、ナナシはルリエッタに手を伸ばし部屋へと誘う。

その行動にぱぁっと笑顔を浮かべたルリエッタはその手を握り返し胸元でギュッと包み込んだ。

そして、そのまま部屋に入って行く二人を見送ったガレフとソフィア・・・


「って言うか、お風呂入らないのかな?」

「まぁ、終わってから入るのじゃろ?」


何が終わってからなのか?

そんな事を尋ねる事無くソフィアは先に入ろうと風呂の支度をしに風呂へと向かう。

その間にガレフは冷蔵魔道具で冷やされた酒を適当に選んで飲み始める。

夜景を眺めながら昨日までの地獄の様な日々を忘れる様に美味い酒に溺れようと堪能するガレフ。

各々が好きな行動を取る中、ナナシとルリエッタはベットの中に居た。


「ナナシさん・・・触っても良いですか?」

「あ・・・あぁ・・・」


ナナシの体にルリエッタの手が這う。

柔らかい手が熱を帯びているのを感じながら、ナナシはされるがままにルリエッタに触れられる。

手から肩、首、顎、耳、頭、背中、胸、腹、太もも、膝・・・

優しく撫でられていく体にゾクゾクっと快感を覚えながらナナシは硬直する。

今まで人に触れられた経験なんてある訳が無い部分まで触られて緊張が限界突破しているのだ。

そして、ルリエッタがそっと抱き着いてきた。


「あむっ」

「うぁっ」


ルリエッタの口がナナシの耳を甘噛みする。

そのまま耳の中までルリエッタの舌が入り、反対側の耳まで舐められる。

くっ付いたまま、顔を離したルリエッタは真正面にナナシを見据え火照って真っ赤になった顔で目を閉じた。

これはそう言う事なのだろう、ナナシは生唾をゴクリと飲み込みゆっくりとルリエッタに近づき目を閉じる。

触れ合う唇、互いに目を瞑っている事で歯と歯とがぶつかるが互いに気にもしない。

そのまま積極的にルリエッタの舌がナナシの口内に侵入してきた。

予想外の行動に驚いて目を見開いて離れたナナシ、だが悪戯っぽく微笑んでルリエッタは顔を近付け・・・


「あと、ここも・・・」

「ほぉえっ?!」


ルリエッタの舌がナナシの鼻の中へと侵入した。

予期せぬプレイ、全く予測できなかったそれに驚いたナナシは裏返った声を上げて逃げる様に離れた。

まさかそんな事をされるとは思っていなかったナナシであるが、ルリエッタはペロリと自分の唇を舐めて告げる。


「これでおっけーです」

「・・・・・・へっ?」


悪戯っぽくコロコロと笑うルリエッタの言葉、だがナナシは直ぐにそれに気付き顔を真っ赤に染める。

そう、これはルリエッタがナナシの体を召喚して治す為に必要な事だったのだ。

生物を丸々召喚するのではなく、部位だけを召喚して置き換える為にはこうしてその部位を知っておく必要があったのである。

前にそう説明された事を思い出したナナシは恥ずかしさで俯いているのだが・・・


「キスは本当は必要無かったんですけどね・・・」


ボソッと呟かれたルリエッタの言葉は耳に届かず、立ち上がったルリエッタは小さく手を振り。


「ソフィアさんとお風呂入ってきますね」


そう言って部屋から出て行った。

取り残されたナナシは極度の疲労を感じながら部屋から出る・・・

そして、そこには酒を飲みながら疲れた様子のナナシを微笑ましく迎えるガレフ。


「お疲れさん、まぁいっぱいどうだ?」

「頂きます・・・」


そう、ルリエッタが部屋で二人っきりになって、ナナシの体をスキル使用の為に調べたいと話していた為にソフィアとガレフは知っていたのだ。

ルリエッタのスキルがどんなものなのかは知らないが、ナナシと行動を共にするのだから普通じゃないスキルを持っているのだと言う事を理解し、敢えて何も言わなかったのだが・・・


「なんだよ・・・俺だけかよ知らなかったの・・・」


直ぐに酒が回り愚痴をこぼし始めたのは言うまでも無いだろう。

そしてナナシはそのままベットではなく、その場で直ぐに飲み潰れ、ガレフに運ばれた。

隣にお風呂上りのルリエッタが添い寝しているのに、何も起こらなかった一夜であった。

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