自分の胸に聞いてみぃ
春の、桜散る公園。人が往来している中、1組のカップルが真剣で、そして、花が散った暗い顔で話をしていた。
「別れよう」
「……どうして……私達、上手くやれてたじゃん」
出会ったのは半年前、付き合ってみて5か月。思いの他、長かったものだ。
しかし、その付き合いにも悲しい終わりがやってくる時もある。
彼から別れ話を切り出された新島美法は、硬直しそうな心を震える手で押し出し、理由を尋ねた。
振り返っても、どうして別れ話なんかができたのか分からない。
そして、彼も……美法をあまり傷つけないようにと、別れるための言葉を使った。
「自分の胸に聞いてみるんだ」
彼は、美法の悪い癖。極度な潔癖、結構な浪費癖。わりと自分勝手なところで別れる事を思い立った。
容姿は悪くない、むしろ良い方であるのだが、その性格と長く自分の一生と共にする人と思うのなら、YESと言い辛かった。そーいう人はもっと傍にいて、落ち着けて安らげる人であるべき。
料理、洗濯、掃除、それらが完璧であっても、自分を縛り兼ねない女性だとしたら、厳しいと彼は思ったのだ。こればかりは長く付き合ってみないと分からないものだ。
「胸に……」
言われた美法は、心に触れていた手でまた強く、胸を押してみた。
スカッ……
いや、そんな。そこまで酷くないんですけど。妹より小さいけどさ、パットなしの自然体でも普通くらいあるんですけどねぇ。
「そ……そうね。あなたって、いつも胸の大きな女性に視線を送っていたわね。海や遊園地とかで」
「!ちょっ、違っ」
「『胸に聞いてみて』って事はそーいうわけですね。分かりました」
「いやいやいや!美法の胸は形良かったから!ただデカくても、垂れてたら意味ないから!って、そーいう意味じゃなくて」
「いいんです!そっちから別れ話を切り出したんでしょ!胸の小ささの理由で構いませんので!!それじゃあ、ど変態!サヨナラ!」
曖昧にしたものだから、勘違いなのか、ホントにノリで別れ言葉を吐いたのか。分からなかった。しかし、元彼氏だって開き直り、去っていく美法に吠えた。
「男は、変態じゃなきゃ生きていけねぇんだよ!!覚えておくんだ!」
そうして、女である美法も言う。
「あんた、かなりバカでしょ。周囲の人に覚えられたわよ」
恋は上書き保存に限る。愛は永久保存に限る。
男はちょっとの間、合コンやらお見合いに参加できなかった。この失言がフラッシュバックして。
この話に適したキャラが、新島美法しかいませんでした。女性から振るなら割といますが、男性の方から振るとなると、難しいですね。適した奴があんまりいないし、雰囲気が潰れないし。
たぶん、自分自身、別れ話って好きじゃないからですかね。