ずっと、桜が舞う季節に君を待っている。
よく同じ夢を見る。舞台は僕がまだ小さい時住んでた北海道のとある街にある桜並木の道。そこで僕は女性と遊んでいる。髪はさらさらで長く触ったらすり抜けてしまいそうなくらい綺麗で、いい匂いがし、身長はあまり高くないが、とてもすらっとしていて大人な女性っと言った感じだ。顔ははっきりとは覚えていないがとても整っていて、口癖は「私は桜が好き」だった。僕はその人が好きだった。これが僕の初恋であり、その後ずっと好きになる人だった。名前も知らないあなたが現実の世界に現れるまで僕は待っている。
しかし、大人になるにつれて、その夢をあまり見なくなった。
時季は高3の夏。僕はずっと、あの夢のあの人が好きだった。高3にまでなって、夢に出てくる人が好きだなんて本当におかしいと自分でも思うし、周りの友達に知れたらなんと馬鹿にされるか分かったものではない。
でもあの人は絶対に現実の世界にいると根拠はないが確信していた。なにか不思議な気持ちだ。
だから、クラスの女の子や他校の女の子は全く眼中にはなかった。よく告白される時期もあったがすべて断った。その度心が痛くなった。それを繰り返すうちに女の子を避けるようになったのだ。僕にはあの人しかいない。
高3の夏、周りは進路選択で唸っている人もいる中、僕はすぐに進路を決めせっせと勉強に励んだ。進学希望で志望校は昔住んでいた近くにある大学だ。北海道に帰ってあの桜並木で待っていればいつかあの人が現れるのではないか。そのことで頭がいっぱいだった。
そんなある日、1人の女子クラスメイトに話しかけられた。確か名前は、桜木奏子。桜というワードが名前に入っているものだからよく覚えている。桜の木を奏でる子。すごくいい名前だなと思ったこともある。ボブヘアがよく似合う女の子だ。それと雰囲気があの夢の女性に似ている気さえした。しかし髪型も全く違うし、こんなに子供っぽい人ではない。そう簡単に見つかれば苦労はしないのだ。
彼女と一緒に帰ることになった。女の子はなるべく避けているはずなのに、なぜか断れなかった。
帰り道、ぎこちな柄いろんな話をした。そしてわかったことは彼女は僕に恋をしているということだ。心が痛かった。だから僕は彼女とあまり関わらないようにしようと思った。
季節は次々と流れるものだ。ついこないだまで蝉がうるさいくらい鳴いていたのに、季節は秋をすっ飛ばしてすでに冬。僕はとっくに志望校に受かっていた。この冬が開けると桜が咲く。なんて待ちどうしいのだろうか。そしてあの街に帰り、あの場所であの人を待つのだ。
そして冬のある日、また桜木奏子さんに一緒に帰ろうと誘われた。彼女は僕に告白する気なのだろうとすぐわかった。しかし僕はその誘いを断れなかった。自分でも意味がわからなかった。雰囲気があの人と似ているから?違う。ならなぜ。
だから僕は彼女に告白をさせなかった。告白をされたら断り切れなかっただろう。その理由が今の僕にはわからなかった。
だから僕は罪滅ぼし程度に彼女に一枚の桜の花びらをあげた。すると彼女は「冬なのにおかしいね」と悲しい笑顔を見せた。
ただただ心が痛かった。
そして僕は高校を卒業して、北海道に旅立った。
北海道に来るのは小学生の時以来だろうか。とても懐かしい。僕はすぐに桜並木の場所へ向かった。今年も桜が満開に咲いている。あの人は来るだろうか。期待と不安が僕の中で喧嘩していた。
それから何回桜が舞って何枚の桜の花びらが地面に落ちただろうか。
僕はそれからも変わらず、ずっとあの人のことを待っていた。
大学の生活にも慣れて、毎年毎年桜が咲く時期になるとここに来てあの人を待っていた。
懐かしい夢を見た。夢というか昔あった出来事を再上映しているみたいだった。僕と女性が桜並木で遊んでいる。僕が女性を追いかけようとして桜の木の根で転んで泣いていた。女性が、転んだ僕の擦りむいた足に絆創膏を貼りながらこう言った。「私もよくこの桜の木の根でつまずいて転んだなあ。でも桜の木を嫌いにならないでね」言いながら僕に一枚の桜の花びらをくれた。
夢から目覚めた時に桜木奏子さんのことを思い出した。
そして僕はようやく気づいた。
あの人はすぐ近くにいたことに。
僕は意味もわからず泣いた。
僕は馬鹿だ。
恋に落ちてから何回目の春だろうか。僕はすこし満開前の桜並木へと向かう。空は青色の絵の具をパレットに出して水で薄めたような綺麗な水色で、雲もない快晴だ。今年も大好きな桜が咲いている。快晴に桜はなんて合うのだろうと思いながら今日もあの人を待つ。
風が吹く。桜の花びらが何枚も宙に舞う。
足音がする。
やっときた。
僕は彼女の声を久しぶりに聞いた。
今日はちゃんと君の声に振り向くのだった。