次、桜が舞う季節にあなたはいないのだから。
最近よく同じ夢を見る。どこか知らない桜並木の先に男の人が立っている。誰なのだろうか、そもそもここはどこなのだろうか。そして夢の中で私はその人のそばまで行き声をかける。しかしその男の人はまるで私には振り向いてくれない。声は届かない。私は男の人を追いかけようとして走り出すがすぐに桜の木の根につまずき地面に転んでしまう。そこからはずっと落下。真っ暗闇の底へと落下していくのだ。
そんな短くて訳のわからない夢を私は最近よく見るのだった。
授業中ドンッと机を蹴る。周りがざわめき始め先生が私のところまでやってきて私の頭を教科書で打った。私はみっともない声を上げ飛び起きる。頭に鈍い痛みが走る。するとクラスのざわめきは笑い声に変わる。恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい気分になるが穴などどこにもない。先生は私を叱り、授業を再開する。
はあ。なにやってるんだろ。思いながら、私はある男子クラスメイトへと目を向ける。彼も笑っていたのだろうか。それが気になり顔が真っ赤になるのを自分でもはっきりわかった。
授業が終わったら友達に聞いてみよう。と思い、授業に集中することにする。時季は高3の初夏。就職希望の私にはとってもとっても大切な時期なのだ。
4時限目の終了を告げるチャイムがなり、生徒たちは各々昼休みに入る。私はいつも仲の良い2人と席をくっつけお弁当を食べる。
「ねえ、さっき、彼、笑ってなかった?」と恐る恐る聞いてみる。
「あなたのことなんて見てなかったわ。」と友達。
「それはそれで傷つくなあ!!」私は大きな声を上げ立ち上がる。
友達に「うるさい。そんなんだから彼も振り向いてくれないのよ」と注意を受けて着席し黙々とお弁当を食べる。
私は去年の春からずっと片思いをしていた。
もちろん彼の頭の中には私など微塵もいないのだけれど。
彼はいつも遠くを見ている気がする。
実らない恋というものは本当に辛いものだ。
彼と初めて話したのは、去年の春。新一年生の入学式の準備をしている時だった。その初めての会話で私は恋に落ちてしまったのだ。そのあとも何度か話す機会があり、彼との距離を少しずつ確実に縮めてきたつもりだが、そう思っているのはどうやら私だけらしい。やはり彼の目に私は映っていない。
午後のHLが終わり、私は勇気を振り絞り彼の席へと向かった。一緒に帰ろうと言ってみた。彼は驚いて、少し考えた後いいよと言ってくれた。彼は本当に優しいのだ。
帰り道、ぎこちな柄にもいろんな話ができた。1番衝撃だった話の内容は、彼は進学希望で北海道の大学に行くのだそうだ。
この街で就職希望の私。
私はやばいと思う。次、桜が舞う季節にはあなたはいないのだ、と。
告白…。してみようかな。
季節は次々と流れるものだ。ついこないだまで蝉がうるさいくらい鳴いていたのに、季節は秋をすっ飛ばしてすでに冬。私は無事希望先の職場に着くことができた。が、恋の方はなに1つあれから進展がないのだ。進展もなにも、あれからなに1つ話さえできていない。そして、噂で彼ももう第一志望の大学に受かったと聞いていた。
焦る私。最近ずっとこんな感じで焦ってばかりだ。モヤモヤとイライラが交互に襲いきて、私もやられそうだった。
そして私は決意する。
冬のある日私はあの時のように彼を誘った。彼は嫌がることなく、いいよと言ってくれた。
そして、私は振られた。振られたと言うか、私が告白しようとすると彼は告白させまいといろんな手を使って私の告白を遮った。
彼は私の気持ちを知っていたのだ。
彼は罪滅ぼし程度に一枚の桜の花びらをくれた。
その時は「冬なのにおかしいね」と笑ったが、その晩、私は子供みたいに泣いた。寒さと悔しさで涙が凍るかと思った。
結局告白できぬまま高校を卒業して、私は社会人になり、彼は北海道へと旅立って行ってしまった。
それから何回桜が舞って何枚の桜の花びらが地面に落ちただろうか。
私はそれからも変わらず、ずっと彼のことを思っていた。
私はあれからなにも変わってないなと思う。仕事には慣れてきたが、私の道はあの時のままで止まってしまっている。一歩も踏み出せないままだった。
唯一変わってしまったものは髪の長さくらいだろうか。他には思い浮かばない。学生時代のボブヘアの私の髪は伸びていてすっかりロングヘアになっていた。
学生時代、よく見る夢があった気がする。どんな夢だったっけ。よく思い出せない。
モヤモヤする。
最近じゃきっかり見なくなった夢。切なくて悲しい夢だった気がする。
それからも毎年毎年桜が満開になる。この桜達は私達人間がいなくなってもずっと咲いていくのだろうか。そうであってほしい。桜は彼と同じくらい好きだ。
春がやってくるということは、夏も秋も冬もやってくるということだ。
現在の季節は冬。
特に今日はものすごく寒い。けれど私はまだ熱く彼を思っていた。彼に告白しようとした日もこのくらい寒かったかな。あのとき彼からもらった季節外れの桜の花びらを押し花にしてラミネートしいつもお守りのよう持っている。
このお守りのおかげで私は頑張れるし、いつかまた彼に会えると思える気がした。
1日の仕事が終わり、社長に呼ばれたので社長室に行くと、私に転勤の命令が下った。
場所は北海道。
私の心が大きく揺れた。
恋に落ちてから何回目の春だろうか。私は少し満開前の花見に1人来ていた。引っ越してきたばかりだったので家の周りの探索も兼ねて散歩していただけなのだけれど。
今年も大好きな桜が咲いている。
ん。ここで私は前にここに来たことがあるような感覚に陥った。いわゆるデジャブみたいな。
この桜並木見覚えがある。そしてその桜並木の先に男の人が立っている。ドクンっと心臓が高鳴り、心拍数が上がる。
その瞬間桜が満開になったような気がした。
もし、あの人が彼なら。いや、あの人が彼でないとしても。
今度こそ、私は一歩踏み出そう。
私はドキドキしながらもその男の人のそばまで行き声をかける。
その男の人は私の声に振り向くのだった。