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正直まだ1日目であるし、美晴の魅了が解けるまで日があると思っていたのだが、そんな葛の考えとは裏腹に相談者が何人か相談室にやって来た。
どうやら、食堂に通う習慣の無い者や、魅了の効きが悪かった人外らしい。
中にはそれでも美晴の魅了が中途半端に掛かってる者もいて、「…あなたなんか大前葛に似てるって言われない…?気の毒に…」とか何度か言われ「魔女の秘薬すげぇ」と心の中で会計を賛辞しつつも、自分の顔を気の毒扱いされては乾いた笑いしか出ない。
まぁ、それはそれだ。そして肝心の相談内容だが…
「恋人が……突然人が変わったようになっちゃったんです…」
ぐずっと涙ながらに相談する生徒の頭にはふわふわの狼の耳。
相談者はライカンスロープの少年である。
そう。感情が高ぶると変化が部分的でも現れやすい人外が、泣きながらに相談するのである。
恋愛相談を。
一人ずつ相談を受けているので、変化に関しては問題は無い。
無いのだが…
やがてライカンスロープの少年は言いたいことを言い終えると、ぐずぐずと鼻を鳴らしながら相談室から退室する。
退室する際に「耳、仕舞ってね」と言うのは忘れない。
うっかり耳の出たままで表の人間に見つかったら大変だ。
美晴の演説もあって、人外に対してどう反応するか予想できない。
その扉が閉まったのを見て、葛は遠い目になりつつ「それにしても」とぼんやりと呟いた。
「なんで恋愛相談ばっかり…」
「まぁ、魅了って言われるくらいだから、色恋沙汰が多くなるだろうねぇ」
「今の所全部恋人とか友達を転入生に獲られたってものばかりなんだけど…」
そして聞いてて思うのだが、人外の『恋人』は同性の場合が多々ある。
むしろ、今の所異性の恋人は少数派だった。
「人外って、同性愛流行ってんのカナー…」
「今更何言ってんの?性別なんて種を残していくための手段だからね。死の概念の無い人外が種を残していくなんて必要ないでしょ。性別なんて飾り。飾り。気の合う者を探してたら同性が多くなったんじゃないの?」
もちろん例外はいるけどね、と呟く伊吹。
告げられた言葉に、よもや、この先同性愛の恋愛相談をし続けていくのだろうか…え、それ解決しなきゃ駄目なの?と葛は頭を痛くする。
そもそも葛が裏風紀に入れられたのは、美晴による厄介事を解決させるためなのだ。
…解決しなきゃ駄目なんだろうな。
他人(人外含む)の恋愛を取り持って行かなきゃいけないって、それどんな試練だ。
おまけに、生まれてこの方恋人なんぞできたことのない自分が。
本当にひどい試練である。
伊吹は伊吹で、先程のライカンスロープの少年の話をさらさらとノートに纏めながらさらに言葉を続けた。
「僕達人外はあてども無い時間を存在していくから、長い時を一緒にいる相手を求めるのは道理に適ったことでしょう?そういうのを恋人って言わない?」
「道理って…」
「今の所、相談に来てる子たちは人外同士、人間同士が多いけど。中には人間を気に入って神隠しや浚っていく人外もいるよ。その場合はちゃんと人間にその気があるのか、もしくはちゃんと人外のほうに面倒を見る能力…管理性?があるかを確認してから、その地域の管理者に浚う許可を貰うわけだけど。」
「管理者…」
「最近の人間には戸籍があるからねー…あまり表立って騒がれないために、許可が要るんだよ。この辺だとこの学園の理事会かな。まったく軽はずみに行動できなくなった世の中だよねー」
昔は浚いたい放題だったのに、と残念そうに言う伊吹に「あー、そういえばこいつ鬼だっけ」と葛は頭の中で呟く。
それにしても犬猫を飼うみたい人間浚うのか…。
人外にとっては人間はペットなのだろうか…。いや恋人だっけ?
なんだか頭が痛くなる話である。
とりあえず、ふたたび扉がノックされたので「どうぞ」と促すとまたしても人外の生徒が現れた。
「僕の恋人が、あの転入生に獲られちゃったんですうぅぅぅぅ」
この気持ちは深く、深く。深い海の底まで逝こうとも、君への愛は変わらないと言ってくれたのにぃぃぃぃと泣き叫ぶ…魚のような顔立ちの少年。
確かにその顔立ちじゃ恋人なんてそうそうでき無さそうで、やっとできた恋人だったとしたらそうとう悔しいだろうな…と葛は失礼ながらに思った。
この魚顔の少年の性格が相当良かったのか、はたまたその恋人の趣味が変わってたのか…
ぼんやりと考えてた葛に、伊吹が耳打ちする。
「その子、“深きものども”だよ」
「深きものども?」
「最近できた神話の子。クトゥルフ神話って言うんだけど」
「……」
「なんていうかな。半魚人?若いときは人間なんだけどね。年を重ねると魚人になっていく子達」
「…へー」
「まぁ、半人外?括りとしてはまだ人間って感じの子」
魚っぽい顔立ちから、本物の魚になるのか…と思うと実はその恋人とやらは美晴の魅了から解放されないほうが幸せなのではないか、とやはり失礼なことを考えつつ葛はシャープペンを動かした。
まずは美晴の魅了に掛からなかった存在がどれだけいるかを把握しなくてはいけない。
少なくとも、獲られた恋人や友人はアウトだ。
それに、よく知りもしないのに“大前 葛”に関して良い感情を持ってない人間も、アウト。
一クラス40人、一学年5組あるのを考えると、気が遠くなるような作業であるが、根気よくやらなくてはいけないだろう。
それが何よりの安全を探す方法であり、同時にいち早い情報も得られる方法なのだから。
一通り愚痴り終えた魚顔の少年が退室すると、すぐにノックの音が響いた。
「どうぞ」と扉を見ずに声を掛けると「大前…さん?」と戸惑いを含んだ聞いた覚えのある声が聞こえる。
え、と葛が顔をあげると、また複雑な相手がそこにいた。
戸惑いから解放されたらしいその少年は、足早に部屋の中に入ってくると、長机越しに葛を見る。
「やっぱり…僕、諦めません…!」
それは強い決意の表れか、ぎゅっとぬいぐるみを抱いたメレディスだった。
リアルに考えると、人間の思想が具現化するならクトゥルフでまっさきに具現化するのはニャ○子さんな気がしてならない。
ちなみに筆者は何卓かTRPGしてますが、まだまだ回数浅いビギナーちょっと過ぎた位な感じです。
回数回すに連れ、クリティカルとファンブルがここぞって時に出て泣きたくなります。
あと妖怪1足りない。
いつかGMで回したリプレイを小説風にしてやりたいと思う所。
エグいシナリオが好みなので、それらしく作ろうとしたのですが、PLさんのぶっ飛んだ発想がいい感じにコメディぶっこんでくれて楽しかったです。はい。




