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四日目の機会

 翔也の空気を読まない質問によって、場の空気がとてつもなく重いものへと変わった。

 全員が下を向いて、目を合わせないようにしていた。さっきまで無表情だったホワイト、村田葵も、悲しみと苦しみが混ざったような表情をしていた。

 彼らにとって仲間の、レッドの死がとてつもない心の傷を作っていることは明らかだった。それだけレッド、青島賢二が大切な仲間だったのだろう。


 「彼はとても優秀な人物だった。装備の開発や修理、歴史などの幅広い知識を持ち、特殊スーツでの戦闘もチームの中で最も強かった。失ってしまったことは悲しいことだが、それを言ってもどうしようもない。今、私たちには協力者が必要なんだよ。君ならこの時代に詳しく、十分な戦力になってくれる。どうだろう」

 数分間の沈黙のあと、ロンがまだ悲しみを漂わせた声でそう言った。

 俺はゆっくりと、ヒーローたちの様子を見る。自分がどうしたいのかを考えた。でも、

 「もう少し、考えさせてもらえませんか?」


 結局答えは出てこなかった。

 


 「いっち! にっ! さん!」

 9月9日、午前中。いつものように道場にやってきた子供たちに空手の指導をやっていた。10人ほどが集まっていて、掛け声に合わせて声を出し、突きや蹴りの練習をしている。

 間を回りながらそれぞれにアドバイスを与える。子供たちの真剣な様子はとても清々しく、ごちゃごちゃした悩み事を忘れることができた。


 練習の終わったお昼頃、一人黙想をしていると道場へやってくる足音が聞こえてきた。少しして入口から翔也が顔を出した。

 「よっ! 悩んでんな」

 「翔也か、今日は平日だろ。仕事どうしたんだよ」

 「何言ってんだ。全国的にこの時間は昼休みだろうが。まだ昼食ってないんだろ?」

 そう言って右手に持ったビニール袋を掲げた。


 二人で道場を出ると、近くの広場の階段に腰を下ろし弁当を開けた。中身は何の変哲もないのり弁当だ。

町のど真ん中にあるこの広場からはいつもの景色が広がっている。中央にある噴水の周りでは子供たちが水と戯れ、少し先のビルにある大画面の液晶テレビが昼のニュースを伝えていた。

 「で、何で断ったんだよ。ヒーローの誘い」

 俺より二つほど上の階段に腰掛けた翔也が、お茶のペットボトルを渡しながらそう聞いてきた。


 四日前、未来から来た彼らの誘いを断り、お互い何を話していいのか分からないままに別れてしまった。それ以来今日まで、とくに連絡をとるような機会もなく過ごしてしまっていた。

 「お前のことだからすぐに誘いに乗ると思ったのにな、どうしちゃったんだよ?」

 「まあ、確かにね。彼らと一緒に戦えば俺が今まで夢見てきた、誰かを守るための力、が手に入る。正義のヒーローになることができる。でもさ……」

 俺はふと言葉を切って、今思っていることをどう伝えたらいいのかを考えた。後ろを振り向かなくても真剣に悩みを聞いてくれている翔也(とも)がいることを感じていた。

 「俺が自分のわがままのためにかかわっていい問題じゃないような気がしたんだ」

 

 「お前って本当に、熱血なのか冷静なのかわからん性格してるな」

 数分の沈黙のあと、呆れたような調子で翔也が言った言葉に俺は苦笑いした。その言葉はあまりにも自分を的確に表現していたからだ。

 何かにのめり込んでいくことのできる熱血な自分、そのくせ周りのことをいつも気にしている自分。二つの自分が一つにまとまろうとして、結局できずにどっちつかずになっている。それが今の俺だ。

 ヒーローたちは偶然なのか、それとも狙っているのか、俺のマンションのすぐ近くの雑居ビルを本拠地にした。

 かかわらないほうがいい、と考えてる癖に、あの日にもらったチェンジャーをすぐ近くに返しに行くことが、ヒーローをあきらめることができない。

 今日までに何度も漏れたため息がまた一つこぼれた。


 「まっ、深刻に考えるなって。こう言うことはタイミングさ。そう遠くないうちに決まる機会がやって来るもんだ」

 翔也がいつもの調子でそう締めくくった。

 そんなもんかな、と俺も思うことにした。

 テレビに映っていたバラエティ番組が緊急ニュースに切り替わった。


 『臨時ニュースをお伝えします。東京都〇〇区にジャスターズを名乗る怪人が現れました。周辺ではかなりの人数の死傷者が出ている模様です。繰り返します……』


 早口で切迫した状況を知らせるそのニュースが、まさに俺にとってのタイミングだった。

かなり久しぶりの投稿になりました。

これからもコツコツやっていきたいです。

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