俺の夢
ここから本編スタートです。
不定期更新になると思いますがどうかよろしくお願いします。
誰よりも強くなりたい。誰かを守るために。
そんな夢を語ったら、たいていの人に馬鹿にされるかあきれられた。「正義のヒーローじゃあるまいし、そんなことに何の意味がある」と、
そんなとき、俺は言った。「じゃあなってやる、正義のヒーローに」と、
確かに社会的に厳しいこのご時世にヒーローになって「他人を守る」なんてことは馬鹿げたことなのかもしれない。自分の人生を考えて、社会で役にたち、自分が幸せに生きることが大切なのかもしれない。人間関係の薄い中じゃ助けたところで何の見返りもない。
それでも俺は正義のヒーローになりたかった。
自分の人生を投げ捨ててでも、何の見返りもない苦しい道を歩んだとしても、
俺は、正義のヒーローになりたい。
*
「ありがとうございました!」
子供たちの元気な声が道場いっぱいに響く。
「ほい、ありがとうございました。気をつけてかえれよ」
挨拶が終わるとそれぞれ自分の荷物を整理しに駆け出していく。稽古の後の、このすがすがしい空気が俺は好きだ。外へ元気いっぱいに飛び出していく子供たちを見ているとこっちも元気になってくる。
10分ほどで全員が帰宅して、道場はいつもどうりの静かな雰囲気が戻ってきた。時計を見ると12時半だった。荷物をまとめながらこれからの予定を考える。
「午後2時から防犯教室の講師だから結構時間あるな」
昼はどこかへ食べに行こうかと考え始めた時、
「ヨー、元気そうだな」
少しふざけたような、なじみのある声が聞こえてきた。
入口の方を見ると男が一人立っていた。秋にしては薄手の服を着て、旅行用の少し大きなカバンを肩に担いでいる。かっこつけて壁に寄り掛かっているが荷物が重いようでかなりバランスが悪く逆効果だ。こっちもふざけた調子で返した。
「久しぶり、三宅翔也くん。アメリカはどうだった?」
「結構楽しかったぜ、浅葱優太くん」
*
俺の名前は浅葱優太。夢は正義のヒーローになることだ。
誰よりも強い力を持ち、悪の魔の手から人々を守る。
男だったら子供の頃、日曜日の朝に一度は見たことがあるヒーローたち、それにあこがれた俺は彼らのようになりたいと思った。
そして23歳になった今でもその夢を持ち続けている。
さすがに変身することはできないができる限りたくさんの武術を習い、日々鍛練をしている。大会に出ればそれなりに成績を残しているし、一番得意な空手では全国的に有名な腕前になっている。就職はしていなので生活はたいへんだったが最近は空手の指導や護身術の講師として呼ばれることもあり、上手くやっていけるようになってきた。
まだ悪党を倒したことはないが、少しでも夢に近づいていると思う。
翔也は12歳のころからの友達で、一緒に空手をやってきた親友だ。今はインターネットの会社に勤めているらしい。
長めに伸ばした髪を後ろで一つにまとめていて、縁のない眼鏡をかけているのが特徴だ。あと、さっきみたいに格好つけようとすると必ず失敗するのも特徴かもしれない。
少し前から会社の休みを利用して、アメリカに空手の指導に行っていたはずだ。あの様子だと今日帰国してきて空港からそのままここに来たんだろう。
「はー! 重ってー。」
翔也荷物を放り出し、俺の隣に座り込む。
「アメリカでの指導はどんな感じだったんだ?」
翔也の息が整ったのを見計らって尋ねてみる。
「面白かったよ。日本と違った奴らばっかりだったから初日は苦労したけど、いい体験ができたよ」
「そっか、よかったな。」
「お前の方は変わりないようだな。」
「ああ、道場はうまくいってるし、夢も変わってないよ」
「じゃあこのニュース知ってるか?」
そう言うと翔也は鞄から新聞を一部取り出して渡してきた。日付は2015年9月5日、今日の新聞のようだ。見出しには大きく『ヒーロー登場!!』と書かれているのがわかる。
「知らないな、何の記事なんだ。」
そう言うと翔也は信じられないような顔をする。
「お前、いったいどんな情報感覚してるんだよ……、昨日からさんざん騒いでるだろ」
そう言うと翔也は俺に新聞を放り投げると、「ほんとに信じられんやつだ」と言ってぶつぶつ文句を言っている。少し頭にくるが、今は記事の方が気になるので仕返しは後にしておく。
見出しの写真に写っているのは特殊スーツとマスクを着けた五人、どこからどう見ても戦隊ヒーローだ。人間型のロボットみたいなのと戦っている。もう一枚の写真では鎧みたいなものを着た仮面の男と赤いヒーローが向き合っている。
翔也が言っているニュースはこれのことだろう。記事を読んでみる。
『昨日午後2時頃、各界議事堂正面玄関に鎧のような服を着た仮面をつけた男が許可なく侵入する事件が起こった。男は止めにやってきた警備員たちを殴り飛ばし、通報を受け駆け付けた5台のパトカーとSATを男の手から突然現れた謎の人型のロボットと思われる集団に攻撃させ壊滅させた。
しかし、突然現場を光が包み戦隊ヒーローのような姿をした5人組が現れ、男たちと戦いを始める。5人は次々とロボットを倒し赤が男と対決、相打ちとなって男は突如消え去り、ヒーローたちもその場から引き揚げて行った。
男は自分たちのことを「ジャスターズ」と名乗っており、去り際に「日本占領計画は始まったばかりだ。」と発言していた。また5人は自分たちを「時空警備隊」と名乗っていた。
いったい彼らは何者なのか、今後もこのような事件が起こるのかが注目される。』
「なるほど、本物のヒーロー、か」
そう言うと新聞を床に置いて立ち上がる。翔也は今度は意外そうな顔をして俺に聞いてくる。
「おいおい、なんか感想はねーのかよ」
どうやら俺の記事への反応が予想していたよりも薄かったようだ。
「さ、昼飯食いにいくか!」
そんなことはお構いなしにドアの方へ歩き出す。
「待てって、お前の憧れのヒーローが現実になったんだぞ。もっと何かあるだろ」
「ああ、もちろんだ。俺も彼らみたいに、誰かを助けたい。だからこそ、じっとしてられないんだ」
外に出ると秋晴れの真っ青な空が広がっている。息を目一杯に吸い込んで、大声で叫んだ。
「俺は絶対に正義のヒーローになってやるー!!」