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砦の夜に

今回は説明多し・・・

 銀翼の騎士の晩餐会は終わり、騎士たちは突然の豪勢な食事に精神的にも満たされた。

 食事の間にシアは数名の騎士と打ち解け、非常に有意義であったといえる。

 食事が終わった後、明日の予定の確認や装備品の確認などをしつつ、騎士たちは入れ替わりで入浴を済ませていった。

 シアも浴場を使うか訊かれたが、魔女の裏技があるから大丈夫だと断った。


 そして日は落ち、濃紺の空に星が輝いている。もう直ぐ月も姿を現すだろう。

 コララドの砦は日没を迎え、天空は月の女神に支配されつつあった。


 コララドの砦の一室で、シアは煌めく星々を見ている。夜は魔女の領分だ。もちろん、太陽の昇っている日中でも彼女たちの強さは変わらないが、夜は魔女に精神的な安らぎを与える。

 魔女が月の女神の娘と云われるのは、あながち間違っていないのかもしれない。


「シア」


 星を眺めていたシアを呼ぶ人がいる。ルーネスだ。

 ルーネスは風呂上がりで、美しい銀髪から雫が滑り落ちている。

 ルーネスはシアが座っている寝台に腰掛けた。シアとは斜めに向かい合う形になる。


「ルーネス、髪が濡れてるよ」


 シアはルーネスの傍に近づくと、おざなりにしか拭かれていない銀髪に触れた。濡れた髪はじっとりと重く、それでもキラキラと美しい。

 部屋にある明かりはシアが作り出した魔法のランタンのみで、その明かりを反射してルーネスの銀髪は美しく輝いている。


「昔と変わらない。ルーネスはキラキラしてる」


 シアはうっとりとルーネスの銀髪を梳く。シアの手がルーネスの髪に触れる度に髪は徐々に乾き、やがてサラサラと指から零れ落ちるようになった。


「シアも、変わらないな。突然現れる」


「ふふ、そうだったかな」


 ルーネスはシアの腰に長い腕を絡ませ抱き寄せた。シアは抵抗することなく、ルーネスの腕の中にすっぽりと収まる。


「でも、変わった事もあるのね。いや、成長した事、というべきかな?」


「何がだ?」


 ルーネスの腕の中で彼の胸に凭れながら、ポツリとシアが呟いた。


「昔は逆だった。泣いているルーネスを、良く抱きしめていたよ」


 シアは彼の腕の中から上目遣いにルーネスを見上げる。

 その姿は昼間の姿とは少し違う。いや、違うというよりは成長していると言うべきだろう。


 昼間のシアは十二歳から、年嵩に見ても十四歳と言った外見の美少女だった。

 しかし、現在のシアは十センチ程身長が伸び、体のラインも女性らしい柔らかな曲線を描いている。

 黒い髪に見え隠れする白く細い頸が艶めかしい。

 顔立ちも子供特有の丸みが消え、しかし、女性らしい優しい線を作り出している。


 シアは、昼間の美少女の数年後を彷彿とさせる姿に成っていた。


「シア、いや、シンシアと呼ぶべきか」


 ルーネスは腰を抱いている腕とは別の方の手で、彼女の頬に触れる。


 彼女、シアでありシンシアは機嫌の良い猫のように目を細める。彼女の暗褐色の瞳の奥で、ちらちらと赤い光が煌めいている。


「どちらでもいいよ。シアもシンシアも私だもの。ただ、昼間は容姿に引きずられて、言動も幼くなっているけどね」


 シアは両手を伸ばすと、そっとルーネスの顔を包み込んだ。


「ルーネス、寂しかった?」


 琥珀色の瞳を覗き込みながらシアは訪ねる。


「私は寂しかった。それに、不安だった。人間にとって十年を超える歳月は、短くないもの」


 シアの手はそっと滑り降り、ルーネスの肩に落ち着く。


「私が、約束を覚えていても、ルーネスもそうとは限らない」


 そういうシアの瞳は未だに不安そうに揺れている。勇んでやってきたものの、シアにも不安はあった。

 短くない間を離れていた。自分で決心したことだったし、後悔もしていないが、相手も変わらぬ想いを抱き続けているとは限らない。


 シアと見つめ合う、ルーネスはシアを抱き締める力を強くした。自然と二人はより密着する。


「自分は虚ろだった」


 ルーネスはポツリと呟く。


「シアとした約束に、縋って生きてきた」


 シアの頬に触れていた手が、彼女の後頭部へ滑りそっと引き寄せる。

 ルーネスとシアの額が触れ合う。

 喋ると漏れる吐息が触れ合う距離で、ルーネスは噛み締めるように言葉を紡ぐ。


「この十三年、自分は」


 気が狂いそうだった。


 だからこそ、ルーネスは騎士になったといえる。何かに打ち込まなければ、到底正気を保てそうになかった。


 シアはもう一度、ルーネスの顔を両手で包み込む。

 蜂蜜の溶けたような琥珀色の瞳は、キラキラと輝いている。ルーネスは表情を変えず淡々と話しているが、シアには彼の瞳の奥で様々な感情が渦巻いているのを感じた。


 喜び、怒り、不安、恐怖、安堵、疑心・・・


 その中でも最も強いのは、喜びだろうか。


「ルーネス、私は魔女よ。魔女は約束を守る生き物よ」


 シアは優しく微笑むと、そっとルーネスに口付けた。


 昔、別れを告げたときと同じように。




 シアは魔女だ。しかし、生まれながらにして魔女だった訳ではない。

 そもそも、生まれながらにして魔女である者などいないのだ。

 彼女たちは、かつては人間や獣人、あるいはエルフや妖精の女性であったのだ。

 それが、生まれ持っていた強い力や、或いは手に入れた力、激しい情念などが切欠となって魔女になる。極稀に、ころっと魔女になってしまう者いるので正確な原因は分からない。

 つまり、魔女たちは元は普通の人なので、そしてある日突然に魔女となったのだ。


 だから、世界的に信じられている、魔女は『ソフィラエ』の魔女の城から気紛れにやってくる、というのは真実ではない。

 確かに、天空の島『ソフィラエ』には魔女の城があり魔女が住んでいる。シアのように城からやってくる者もいないことはない。それは事実だ。


 だが、世間を騒がす魔女は大抵が魔女となって間もない者たちで、手に入れた強大な力や、強い思いに振り回されて騒動を起こすのだ。


 その後、魔女は『ソフィラエ』にある魔女の城に連れて行かれる。

 そして魔女裁判にかけられる。 

 そこで行われるのはただ一つ。魔女として生きるか、人として死ぬかを選ぶのだ。


 実は彼女たちの殆どが、人として死ぬことを選ぶ。

 理由は様々だ、魔女となった自分を受け入れられない者、何かをやり遂げで抜け殻になった者。

 結果的に魔女の数はあまり増えない。魔女として生きることを選んだ者も、魔女の城からあまり出てくることはない。


 しかし、シアは少し特殊だ。何故ならシアは魔女を母親に持つからだ。これはかなり特殊である。シアの母親は魔女になった後に彼女を産んでいる。

 そして父親も色々と規格外なので、シアの基本能力は非常に高い。故に彼女は魔女としての素質を十分に持ち合わせていた。


 だが、シアは魔女になるつもりはなかった。別に魔女にならなくても魔法は不自由しない程度に使えていたし、両親もシアの好きにすればいいと言っていたのだ。


 あの日、ルーネスに会うまでは。


シアのファーストチッスの相手は勿論パパンです

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