銀翼の騎士団
突発投稿です。
文章の能力は壊滅的に乏しいです。
神聖イグニット王国には有名な騎士と騎士団が在る。銀翼の騎士団とその団長ルーネスだ。
銀翼の騎士団は王国全土を駆け巡り、魔物の脅威から民達を守っていた。それ故に国民からは見た目も相まって白銀の騎士と慕われ、しかし、国の貴族、特に王族を中心に嫌悪されていた。
その理由は騎士団の団長であるルーネスにある。彼は月下の騎士の異名を持つ、白銀の髪に琥珀色の瞳を持つ美丈夫だ。
銀髪と琥珀色の瞳は神聖イグニット王国、王族の直径の証である。実際、ルーネスは現国王と第二側妃の間に生まれた王子だった。しかし、彼には王位継承権も無ければ、その名前すら王族の中に列挙されていない。
何故なら、彼は呪われた子だったからだ。
神聖イグニット王国の第二側妃、カミラは王国内でも有力な貴族の娘だった。身分も教養も高く、そして魔力も濃く強い家系だった。
16歳で王の後宮に入り、18歳でルーネスを出産した。カミラはその出産の際に命を落す。
カミラが命を落した原因は、呪斑と呼ばれるルーネスの体に浮かび上がった呪いが原因だと云われた。当時の王国に所属する神官達は、総員で呪いの解呪に取り掛かったが、結局呪いを解く事は出来なかった。
この子どもは、何れ王国に厄災をもたらすやもしれません。
当時の王国神官長であったガイネル卿の一言が、ルーネスのその後を決めた。生まれたルーネスは、僅か六ヶ月で王位継承権と王族としての名前を剥奪された。
王族ということで命を奪われることは無かったが、辺境の領主であるネスカリア侯爵の養子となった。
その後、成長したルーネスは騎士団に入団し、あっと言う間に頭角を現し数年で騎士団でも指折りの騎士となる。
しかし、ルーネスの成長にいい顔をしなかった者達がいた。王国の神官達だ。自分達が災いの種であると公言した者が、華々しく活躍しているのが気に入らないのだ。
そこで神官は王に進言する。貴族達の集う会議で、だ。
「王よ、彼のものには試練を課さねばなりませぬ。さすれば、厄災は王国に訪れず、彼の者の呪いも解けるやもしれません」
そして、ルーネスは20歳という若さで騎士団長となり、新しく組織された銀翼の騎士団を率いて王国を巡回することになった。
行き先は魔物の跋扈する辺境ばかり、率いる騎士達は皆年若く未熟な者達ばかりだった。
誰しも、銀翼の騎士団は蜉蝣のように消えてしまうだろうと思っていた。
しかし、神官の思惑は外れ銀翼の騎士団は王国の辺境の地で様々な武功を挙げていく。
三年もすればその名は国外にも知れ渡るほど有名な騎士団へとなった。
王国の貴族の中でも騎士団と団長ルーネスの活躍を見て、彼らを評価する人物も出てきた。
しかし、国内の神官の反発は未だに強く、それに倣う貴族も多いため、国家の中枢ではルーネスと銀翼の騎士団の風当たりは未だに強い。
それどころか、彼らの活躍を妬むように神官や彼らに追従する貴族達は銀翼の騎士団達に云われない中傷を投げつけるようになった。
神聖イグニット王国の東部、コララドの丘で銀翼の騎士団はバグベアの群れと死闘を繰り広げていた。
バグベアは下級の魔物だ。人間の男ほどの背丈にひしゃげた鼻が中央にある醜い顔、筋肉の発達した四肢を持ち、怪力だが愚鈍でもある。鋭く尖った爪には毒があり、全身は黒と茶色の斑な剛毛で覆われている。
五、六頭の集団で現れることが多く、運悪く街道で遭遇した商隊などが護衛もろもと全滅してしまうこともあるぐらいには、凶暴な魔物である。
しかし、普段から魔物との戦闘に慣れている銀翼の騎士団からすれば恐れるほどの敵ではない。
普段であればの話であるが。
コララドの丘にいる銀翼の騎士団は十名、対してそれを取り囲んでいるのは百を超えるバグベアの群れだ。
騎士団の回りには切り伏せられたバグベアの遺体が数十体はあるのを見ると、元の数はもっと多かったのだろう。
白銀だった騎士達の鎧は魔物の血で黒ずみ、構えている剣は刃こぼれしている。
その凄惨な姿から分かるように、彼らはかれこれ二時間近くここで戦い続けている。
「くっ!」
一人の騎士がバグベアの爪の攻撃を剣で受ける。攻撃を受け止めた剣は三分の二ほどで折れてしまっている。
剣を支える手、特に左腕が震えている。肩に受けた怪我から爪の毒が回っているのだろう。バグベアの攻撃を押し返す力は最早無いようだ。
騎士に組み付いてるバグベアとは別の一体が唸り声を上げながら飛びかかってくる。
騎士は何とか目の前の一体を振りほどこうとするが、体の半身に回った毒の所為で思うように体が動かない。
だが、猛毒の爪が騎士の喉に食い込む事はなかった。横合いから打ち込まれた剣が、二体の魔物の首と胴を吹っ飛ばしたからだ。
「・・・団長」
「シノアス、後ろに下がれ」
シノアスと呼ばれた騎士は、自分の命を救った騎士、団長のルーネスを見て辛そうに顔をゆがめた。魔物の攻撃を受けたときでさえしなかった表情だ。
「まだ、戦えます」
「その腕では、足を引っ張るだけだ」
震える声は一刀のもとに切り捨てられた。ルーネスはそれ以上は何も言わず、剣を翻してバグベアの群れに切り込んで行く。
シノアスはその背を見送り、折れた剣を突き立てて地面に膝を付いた。
ルーネスの言う通り限界だった。腕の痺れは左半身に広まり、左目の視界も霞んでいる。毒を受けたまま激しく動き続けたからだろう。思ったよりも毒の回りが速い。
周囲を見回すと自分と同じように戦線から離脱している者が数名いる。辺りには切り伏せられたバグベアの死体が幾つも転がっているが、それ以上に襲いかかってくるバクベアの方が圧倒的に多い。
「くそ!」
シノアスは思い通りにならない自分の体に悪態を吐いた。
このままでは遅かれ早かれ全滅してしまう。
援軍が、援軍がくれば!
銀翼の騎士団がコララドの丘で孤軍奮戦しているのは訳がある。コララドは神聖イグニッド王国の最東部に位置する場所であり、防衛のための砦がある場所でもある。その砦は人間の侵入を防ぐための物ではなく、魔物の侵入を防ぐために築かれたものだった。
コララドの砦周辺で魔物の活動が活発になっている為に、調査をするようにとの命令が銀翼の騎士団に下されたのは一週間前。その命を受け砦に辿り着いたのは二日前の事である。そして砦の騎士達と共に調査をすることになったのだが、この騎士達は全くと言って良い程使えなかった。
辺境の砦に配属される騎士達は貴族の次男や三男で、家督を継ぐことが出来ずやむなく騎士になったと云う者のが多い。つまり、騎士であるくせに剣の腕よりも自身の出自で威張り散らす者達が多いのだ。
そして、コララドの砦は十年近く何の異常もなく平穏に時を過ごしてきたため、騎士達は剣の腕よりも傲慢さに研きが掛かっていた。
砦に着いた銀翼の騎士団達を向えたのは冷ややかな砦の騎士達の目で、態度も見下したものだった。
汚らわしい呪われた騎士の率いる、邪悪な騎士団だと。
しかし、設立から数年、ずっとそのような根拠のない悪意に晒されていた彼らは、砦の騎士達の態度など気にも留めず、淡々と任務の説明と協力を仰いだ。
砦の騎士達はその態度に顔を顰めたが、王命なのは確かなので砦の騎士の中からも、調査隊を出した。
その数、僅かに五名。それもどれも二十歳に見たない、見習いの騎士ばかりだった。
これには流石に団長のルーネスが抗議をしたのだが。たかが調査に大切な人員は割けない。それに万が一、一緒行動して呪いが移ったらどうしくれる、とせせら笑う砦の上位騎士の姿を見て、無言で踵を返し部下に出立する旨を伝えた。
調査に出て一時間、コララドの丘に辿りついた辺りでバグベアの群れと遭遇した。団長のルーネスは直ぐに、足手纏いになる砦の騎士達に援軍をよこす伝令を命じ、戦線を離脱させた。
そして、現在の地獄に至るのである。
はっきりとした経過時間は分からないが、日の傾き具合から、銀翼の騎士達は二時間は剣を振るい続けていた。
しかし、援軍は未だに来ない。
おそらく、いや確実に砦の騎士たちがごねているに違いない。
ルーネスたち銀翼の騎士団は総勢百人を超える騎士団である。しかし、騎士団は百人単位で行動するわけではない。常に辺境を巡回しているとはいえ、東から西に南から北へ、王国を横断して行動し続けているわけではないのだ。各地に拠点を作り東西南北を数ヶ月単位で周回しているのだ。
東の拠点から連れてきた騎士達は二十名。本来であれば全員で調査に向うはずだったのが、
「砦の補修の人手が足りない」
というふざけた理由で十名の騎士達をコララドの砦に残してくる事になったのだ。
砦の修理など普段からしていない癖に!
銀翼の騎士団の全員一致の想いだったが、誰も声に出すことは無かった。彼らはここ数年で、厭味な貴族達から意味の無い労働を押し付けられるのにも慣れていた。
下手に反抗しようものなら、国家に仇なすつもりか!と言い出すのだから手に終えない。
こうして銀翼の騎士団は想定の半分の戦力で調査に向うことになったのだ。
シノアスは霞む目を細め、何とか立ち上がろうと足に力を込める。しかし毒の回った半身は思うように動かない。
霞む視界に同じように魔物の毒に倒れている仲間の姿が移る。
「!下がれ!後退しろっ!」
鋭い剣捌きでバグベアを二体を屠ったルーネスが鋭く叫ぶ。疲労困憊している騎士達はそれでもその声に素早く反応した。
ルーネスを含め魔物と激しく切り結んでいた騎士達が、後ろに瞬時に下がる。その騎士達を追ってバグベアが包囲網を狭めよう飛び込んで来た。
騎士達に迫る猛毒の爪は、しかし標的の体を抉ることは出来なかった。
騎士達が素早く退避した瞬間、彼らが立っていた場所から突如として何かが飛び出してきたのだ。
勢い良く地面から突き出たそれは、バグベアの体に潜り込みその背中から、或いは後頭部から突き抜けていく。
魔物の硬い体毛を歯牙にもかけずその肉体に潜り込んでいくのは、禍々しい黒い鎖だ。黒い鎖が突如として地面から出現しバグベアの体を刺し貫いてる。
鎖は円陣を組む騎士達を取り囲むように次々に出現し、放射線状に広がっていく。急所を貫かれたバグベアは、鎖を生やした姿のまま生きた絶えている。しかし、そうでないものは鎖に縫い付けられたまま血反吐を吐いていた。
だが、半死半生の魔物達も直ぐに物言わぬ死体に成り果てた。体を貫いていた鎖が凄まじい勢いで元に戻り始めたのだ。
ぎゅりゅぎゅりゅと生々しい音を立てながら、鎖は魔物の肉を裂き、内蔵を引きずり出しながらその体から出て行く。
ずるりと音を発てて全ての鎖が地面に消えてしまうと、そこには無残にも全身を引き裂かれたバグベアの死体と血の海が広がり、その中心に騎士達が呆然と立ち竦んでいる。
騎士達の死闘は唐突に終焉を向えた。
内蔵引きずり出されるのって、痛そう・・・