失いそうになって気付いたもの
点滴を腕に刺され、ベットに横たわる恵。
その表情はとても疲れていた。
「過労と風邪ですね。弱っている所にウイルスが入り込み、こじらせてしまったんでしょう。」
淡々と説明する医師の言葉を聞きながら、どこか上の空だった。
周りがみても分かるぐらい疲れていたのに、自分だけは気づかなかった恵の状態。
もしあのまま謝りにいかなければ、もっと悪くなっていたかもしれない。
困らす事をしなければ、もっと見ていれば未然にふせげたかもしれない。
あんな酷い事を言ったから、罰が当たったのだ。
「もう二度といなくなればいいなんて言わないから・・。どうか助けてください。神様・・、お願い!」
必死に願いながら、恵の手を握りしめた。
寝ているのに、今にも呼吸を止めてしまいそうで不安だった。
許してくれなくてもいいから、目を覚まして欲しかった。
泣きはらしたと思っていた涙がまた頬を伝う。
「咲、大丈夫よ。恵は今寝てるだけだから。」
だから、あなたも寝なさい。
そう諭されても手を離すことは出来なかった。
手を離してしまえば、冷たくなってしまいそうで。
「めぐちゃんが起きるまで・・・いる。」
「咲は、恵に似て頑固ね。」
やれやれといった感じで肩に毛布をかけられた。
「ママは隣の簡易ベットで寝るから。態勢きつくなったら咲もきなさいね。」
「うん。」
しばらくすると、消灯時間となり電気がけされた。
真っ暗になると、少しだけ心が落ち着いた。
恵に似て頑固ね
母の言葉が頭のなかで響く
何で忘れてたんだろう
私が2人の子供だって
私はママの子供でもあり、めぐちゃんの子供でもある
2人に育てられたということに
「恵、恵からも咲にいってやってよ。」
「咲も反省してるんだし、いいじゃない。」
「もうまた甘やかすんだから。」
「ほら咲、一緒にママに謝ろう?」
おてんば過ぎて怪我して帰ってきた時、怒る母に一緒に謝ってくれた事を思い出した。
怪我の消毒も手当てもしてくれた。
「お母さんと一緒にお風呂はいる!」
「ママはー?」
「今日はお母さんとなの!」
「昨日もだったじゃない。」
「いーの!はいるの!」
母より独り占めしていた頃もあった。
膝の上は私の特等席で、私の両隣には2人がいて。
これが走馬灯なのかな。
次々と思い出す恵との思い出にまた涙がこぼれた。
大好きだったのに。
ママに嫉妬するぐらい大好きだったのに。
ふわふわと気持ちいい感触で目を覚ますと、誰かに頭を撫でられていたのに気付いた。
「起きたゃったかな・・?」
懐かしい声
優しい笑顔
温かい体温
確かに目の前には大好きな人がいた。
「心配させてごめんね。手、ありがとう。」
ぎゅっと握っていた手に力がこめられた。
そこでやっと声がだせた。
ずっと言いたかった言葉。
最初に伝えたかった言葉。
「ごめんなさい・・ごめんなさい、お母さん・・。」
「咲・・・。」
「大好きなの。お願い、出ていかないで。」
今度は恵が泣き出した。
身体を起こし、ぎゅうと抱きしめる。
「うん・・・うん。」
「ほら、仲直りできたでしょ?」
いつから起きていたのか、母が微笑みながら横に立っていた。
「好き嫌いはだめ。」
「ほら、ちゃんと薬飲んで。」
「薄着しちゃ駄目!」
反抗期を終えた娘は、今ではすっかり世話焼き女房となっている。
恵はすみませんと謝りながら、リビングの座布団に座ったら、
「咲はママに似て、しっかり者だね。」
「めぐちゃんがだらしなさすぎるの。」
そう言われると反撃できない。
やれやれとテレビを見ようとすると、すとんと私にもたれかかるように正面に座る咲。
私が倒れてから、咲は私を無視しなくなった。
むしろ、昔のようになつきだしたのだった。
べったりと。
「何だか、恋人同士みたいね。」
「ママ、焼いてるの?」
「咲、私は娘にやくほど心の狭い人間じゃないわよ?」
「お風呂は我慢してるんだから、これぐらいおおめに見てね。」
私と指を絡めながら手を握る咲。
挑発なんてわざ、どこで覚えてきたのだろう。
しかもお風呂我慢してるって。
さすがにもう一緒に入る歳でもないし。
「ママはめぐちゃん抱きしめたら?」
つまり、連鎖のようになれと?
それはいいわね
そういいながら仲良く三人でテレビをみることに。
「何か・・変、じゃない?これ。」
三人が縦に並んでいるこの光景。
どうみてもおかしいんじゃ
「いいの。」
「いいじゃない。」
どう足掻いてもこの2人にかなう気がしなかった恵であった。