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ダブルマザー  作者: 山水
2/4

崩れていく家族

「今日はゆっくり寝てるんだよ?早めに帰ってくるからね?」



「大丈夫よ、ただの風邪なんだから。」



「そうやっていつもこじらせるでしょ。大人しくしてなさい。」



「はぁい。」



手を繋ぎながら、くすくすと笑うママ。



「私もいくよ。」


いつまでも終わりそうにない雰囲気の為、声をかけた。


季節の変わり目に体調を崩しやすいママは、風邪をひいてしまったらしい。

めぐちゃんは常備していた薬を素早く飲ませ看病していた。



「咲、いってらっしゃい。」


「いってきます。」


「咲、一緒にいこう。梨沙、いってきます。」



いってらしゃいと布団で見送るママ。

着いてくるめぐちゃんと隣に並ばないようになるべく早く歩いた。



一緒だと思われたくない。



「咲、いってらっしゃい。」



大体はマンションの前で別れる。

その声に返事をする事なく前を歩いた。


めぐちゃんは私が返事をしなくても、いつも話しかけてくる。



鬱陶しい。



「おはよ!咲!」



「おはよ、加奈。」



「今朝も恵さんと一緒だったね。羨ましいなぁ。」



小学校からの親友の加奈は、私の家庭を知っている。

そして何故かめぐちゃんに憧れていた。



「毎日毎日、鬱陶しいだけよ。」



「咲は相変わらず反抗期だねー。」



加奈は私の行動を反抗期というが、まったく心外だ。

あんな家庭じゃ、こうなるしかないのに。



「でも最近恵さん疲れてるんじゃない?顔色悪いよ?」



「知らない。見てないし。」



毎朝そこまで見てると、人の顔色まで分かるようになるのだろうか。

心底興味がなかった。



「ねえ、咲。」



「なに?」



突然真剣な声になり、顔をあげた。

そこにはしっかり私を見つめる加奈がいた。



「そろそろ、ちゃんと話し合ったら?じゃなきゃ、いつまでよ分かり合えないよ?」



加奈の言葉に胸が痛くなる。


何故私には父がいないのか。

何故私には母が2人いるのか。

何故私がいるのか。



聞きたいことはいっぱいで、でも聞くのが怖くて。



加奈はいつもそういう相談を黙ってきいてくれていた。



「今更、何をしるっていうのよ。」



「全部だよ。」



「知りたくない。」



「逃げてるだけだよ?」



加奈だから、そう言われても仕方ない。

ぐっと言葉を飲み込んだ。








「ただいま。」



部活で遅くなり、帰り着いたのは8時過ぎだった。

色々考える事が多くて集中できず、やたらミスが多かった気がする。



「おかえりなさい。」



「ママ・・寝てなくていいの?」



「恵が看病してくれたおかげですっかりいいわ。」



キッチンに立っていたのはママで、私の夕飯を温めてくれていた。


一人分のご飯が並ぶ。



「恵、もう寝てるわよ。」



聞いてもないのに話を持ち出すのは、私が気にしていると思ったのだろう。ふーんと言いながら、手を洗った。



「最近仕事忙しいみたいで、疲れてるのよね。心配なのは、恵の方なのよ。」



やはり加奈のいうとおり、顔色が悪いのは当たってたのか。



「ねえ咲、恵の事嫌い?」



「好きじゃない。」



「どうして?」



どうして?

ぎりっとお箸を持つ手に力が入った。


理由などあげればキリがないほどあるというのに、今更理由を言えなんて無神経すぎて仕方なかった。



「私の人生に必要ないから。」



ママは悲しそうに目を細めた。

ママが悲しむ顔は見たくない。


ママは私の唯一の家族だから。



「私の人生には、咲も恵も必要よ?」



「じゃあママは私とあの人、選ばなきゃ駄目ならどっちをとるの?」



こんな困らせたい事を言いたいわけじゃないのに。


罪悪感と選べない選択をする母に対してのに絶望感で、泣きそうになった。



「あの人がいなかったら、私はパパと暮らせたんじゃないの?」



「咲・・・。」



「私は普通の家庭がよかった!」



ばん!


扉が突然開くと、そこには恵が立っており険しい表情をしていた。



「やめなさい、咲。」



「・・・・。」



初めてきく、恵の低い声。

怒りか苛立ちか、どちらとも分からない声だった。



そして、テーブルの椅子に座り正面からまっすぐ咲をみた。


久しぶりにきちんと見ると、恵の目の下にははっきりとクマがあった。




「咲、咲は私がいなかったら普通の家庭になれると思ってるの?」



「・・・・。」



「私は、ママも咲も愛してるよ。家族だと思ってる。咲は違うの?」



「私の家族は・・・ママだけ。」



「それが、咲の、12年一緒に暮らしてきた咲の答え?」



恵の声は責めるわけでも、怒るわけでもなく、もういつもの優しい声になっていた。



何も答えない私に、重い沈黙がのしかかる。



が、恵の言葉でその沈黙も破られた。



「分かった。じゃあ、私がここを出ていくよ。」



「恵!?」



「ただし、一ヶ月後にね。準備もあるし。それでいいね?咲。」



私は頷く事もできなかった。

ただその沈黙が肯定とみなされたのだけは、何故かわかり、恵は寝室に戻った。



その後は食事が喉を通らなかった。




家を出ていく。




私が産まれてからずっと一緒にいた人が離れていく。




私が一緒にいたくないと言ったから。




私が家族はママだけだといったから。






「ねえ、ママはあの人のどこが好きなの?どこで出会ったの?いつから付き合ってる

の?」






質問しながら、私は2人事なのに何も知らない事に気づく。


そばにいる事が当たり前だったから。


2人が一緒にいる事が自然だったから。


「そうね・・・。咲も中学生になったし、そろそろ話していい時期かもしれないわ

ね。」






どこか懐かしさを楽しむような、でも少し悲しげに母はほほ笑んだ。










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