新湯の誘い
新湯の誘い
家のお風呂は一番清潔
新湯の誘い
午後の光が傾きかける頃、秋月は腕をまくり、誰もいない静かな湯殿へと向かった。
我が家に伝わる鉄の家訓は、体調の良し悪しに関わらず、日々の務めを果たすことを厳格に求めている。
秋月はその教えを内面に深く刻み込み、一切の甘えを捨てて、お道具の束を手に取った。
「よし、今日もみんなが安心して、最高に心地よく寛げる場所を整えよう」
秋月は深く深呼吸をし、冷んやりとしたタイルに膝をついてモップを滑らせた。
浴槽の隅々に残る湯垢や水滴を丁寧に見極め、素材を傷つけないよう、心を込めてキュッキュッと磨き上げていく。
お風呂掃除は、ただ汚れを落とすだけの作業ではない。
そこに集まる家族の健康状態をよしと保ち、一日の疲れを優しく融かすための、神聖な環境づくりなのである。
「秋月さん、お疲れ様。いつもあなたがここをピカピカにしてくれるから、我が家のお風呂はどこよりも気持ちがいいわね」
通りかかった由香里が、温かいお茶の香りを揺らしながら嬉しそうに声をかけた。
丁寧に磨き抜かれた白磁の浴槽は、鏡のように由香里の優しい笑顔を映し出している。
秋月は少し照れくさそうに笑いながら、手際よく最後の仕上げを行い、冷たい水で全体を洗い流した。
我が家のお風呂は、街のどこの湯殿よりも一番清潔で、一点の曇りもない。
蛇口をひねると、新しく汲み上げられた透明な水が、シュシュと心地よい音を立てて浴槽を満たし始めた。
湯気がふんわりと立ち上り、脱衣所にはどこか懐かしく爽やかな香りが満ちていく。
一日の役目を自分でも驚くほどに見事にやり遂げた秋月にとって、この瑞々しく輝く「今日の新湯」に浸かる瞬間ほど、贅沢で楽しみな時間はなかった。
夜になり、窓の外には驚くほど大きくて綺麗な満月がぽっかりと浮かび上がり、ピカピカに掃除された我が家を優しく包み込んだ。
秋月は新湯で一日の心地よい汗と疲れをすっきりと洗い流し、お母様に守られているような深い安心感に包まれながら、明日へのワクワクを胸の引き出しに仕舞い込んで、穏やかで深い眠りへと落ちていくのでした。
新湯の誘い
家のお風呂は一番清潔




