愛されおバカの公爵令嬢は、婚約破棄を物ともしない
「アルファーナ!お前との婚約を破棄する!お前がクラスメイトのハルナーをいじめた罪、決して許される物では無いわ!」
な、なんですってぇー!!
婚約破棄ですって!?それに私がハルナー様をいじめたですって!?どうしましょう身に覚えがまったくありませんわ……でもハルナー様、王子の腕にすがってあんなに泣いてしまって、本当に悲しそうですわ。大広間にいらっしゃる他の学園生徒方も、私達を見て何か言いたげな表情をしています。私が気づかないうちに、ハルナー様に何かしてしまったのかしら。
――まずはしっかり謝らなくては!
「た、大変申し訳ございません!ハルナー様!」
「謝って済むことか!お前がハルナーの教科書を破り、机に落書きした事を、我々は知っているのだ!」
――教科書を破って、机に落書きした?それはさすがに人違いでは……はっ!これはもしかして、何か壮大な計画が実施されているのではないかしら!
だって、優秀なお二人が、やってもいない犯行をでっち上げるなんてバカげた真似するはずがありませんもの!私はやっておりませんし、ドルイグ王子はまるで広間にいる生徒に言い聞かせるようにしゃべっておられますし、これはアレですわ。この嘘を通じて、生徒の中から誰かをあぶり出すおつもりね。
そうと決まれば私の役目は……悪い奴のふりを完璧に行う事ね!
「ワー!バレテシマッタカ!ワタクシガ、ハンニンダ!」
「何だその言い方は……まぁいい。とうとうやったと認めたなアルファーナ!ハルナーがお前に娼婦だと言われどれだけ傷ついたか!」
しょうふ?よく分からないけれど、多分罵倒の言葉よね。最近の悪い奴は、そんな難しい言葉を使うのかしら。一つ勉強になったわ。
「申し訳ございません。その『しょうふ』とやら言いましたわ!」
「お、おう……」
私の完璧な悪い奴のふりに、ドルイグ王子が感心されていますわ。もしかしたら私、舞台女優の才能があるのかも知れません!
「いい加減なさい!もう堪忍なりませんわ!」
周りに群がっていた生徒の中から、不意に大声が聞こえ、私は一瞬ドキッとする。
あれは、同じクラスのオリアナ様ですわね。普段は温厚でお優しい方なのに……明らかに怒っていますわ!ど、どうしましょう!私の演技が不甲斐なかったのかしら!?
オリアナ様はツカツカと歩き、私と、ドルイグ王子ハリナー様ペアとの間に立つ。それに呼応するように、他のクラスメイトも数人、同じ場所に集まってきた。
「そんな単語、アルファーナ様が知っているわけないじゃない!」
へ?
何か私、今とても酷いことを言われていませんか?
「な、何を言っている!娼婦ぐらい誰でも知っているに決まっているだろう!」
「では確かめることといたしましょう。――アルファーナ様、『娼婦』の意味、ご存じでしょうか?」
オ、オリアナ様にバカにされている……確かに分からないけれど、こんな公開処刑してくださらなくても!
――でも『しょうふ』っておそらく罵倒言葉よね!だったら!
「分かりますわ。――『瘴腐』、汚いの言い方がすごく悪いやつですわよね?」
私はあえて堂々と胸を張って答える。
あっていてください!神様、女神様、一生に一度のお願いですわ!
「ありがとうございます。本当にアルファーナ様はかわいらしいですわね。――これで分かったでしょう!ドルイグ王子!」
あぁ、この世に慈悲はないらしい。皆の反応を見るに、確実に間違いだ。穴を掘って潜りたい。
「だ、だが、あいつがわざと意味を間違えている可能性だって……」
「それ、何の意味がございますの?棒読みとは言え、わざわざ罪を認めていますのに。……まぁ、いじめなど、しておられないのでしょうけど」
さらに驚愕の事実。私の演技は棒読みだったらしいです。――セミになりたい。ただ泣きわめくだけの、そんな存在になりたいです……
「く、くそ!今に見ておけ!――ハルナー、行くぞ!」
そう言って王子とハルナー様は広間から出て行った。
残った、オリアナ様筆頭のクラスメイトの方々は、とても嬉しそうに笑い合っている。オリアナ様も、私に向かってにっこりと微笑みを浮かべてくださる。
――私は、引きつった笑みを浮かべ返すことしかできなかった。
******
その一件の後、王家から正式に謝罪が行われることとなり、ドルイグ王子、ハルナー男爵令嬢共に、学園の退学が決定した。
私は後から、オリアナ様達は助けてくださったのだと、王子とハルナー様は私を陥れようとしたのだと、理解した。当初は少しオリアナ様達に言いたいことがあったが、全てを理解した今は感謝しかない。クラスメイトの皆様には、お礼と巻き込んだ謝罪の意味を込めて、手作りのクッキーを配って回った。
――そして今、私は辞書の前に座っている!二度とあのような恥ずかしい事件が起こらないよう、せめて語彙力を身につけるのよ!
昨日は開始五分で寝てしまったのだけど……今日は三十分寝ないことを目標にするわ!
私はそう心に誓うと、腕をまくり、辞書とのにらめっこを開始した。
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