第5話 夜空に咲く告白
岳人は、軽音サークルの部室へ向かって走り出した。
迷いはない。考える余地もない。
――今、行かなければ、終わる。
ドアを乱暴に押し開けた。
重い音とともに、部室の空気が揺れた。
薄暗い室内には、アンプの低い唸りとギターの残響が滞留している。
その中心で、影田がエレキギターを手に、
壁際の風子を品定めするように見下ろしていた。
「……何の用だ。 こいつなら、今、俺とデート中だ。
な、そうだろ」
風子は顔をゆがめ、必死に首を振った。
「ちゃんと、あのときの契約を果たせよ。
逃げられると思うなよ」
影田の目は、笑っていなかった。
「やめろッ!」
岳人は叫び、体が勝手に前へ出ていた。
委員長としての冷静さも、計画も兵法もない。
ここにあるのは、ただ一つ――守りたい、という衝動だけだ。
だが、影田の腕は重かった。
強烈な突き返しを受け、岳人は床に叩きつけられる。
「やめて!」
風子の悲鳴が響く。
「は? なんでそこまで必死なんだよ。
たかが“レンタル”だろ」
岳人は、必死に立ち上がった。
足は震え、膝が笑っている。
「……俺は――」
一瞬、言葉が詰まる。
「……俺は、風子ちゃんと“永久契約”してる!」
咄嗟に出た言葉。
言ってから、自分でも意味が分からなかった。
それでも。
今、言うべき言葉は他になかった。
「だ、だから、彼女を守るのは、当然だろ!」
声は震えていたが、消えなかった。
一瞬、部室が静まり返った。
影田は呆気に取られたように肩をすくめる。
「は? なにそれ。頭沸いてんのか?」
岳人は睨み返す。
「……はあ。マジかよ」
岳人が一歩、前に出た。
「……ちっ。面倒くせえ。
そういうの、一番嫌いなんだよ」
ギターを乱暴に鳴らし、吐き捨てる。
「もういい。帰れ」
その隙を逃さず、風子は岳人のもとへ駆け寄った。
「岳人さん……!」
「……大丈夫。ほら、急ごう」
息を整えながら、岳人は微笑んだ。
「え? どこへ?」
答えは言葉ではなく、行動だった。
二人は夜の学園祭へと駆け出す。
***
広場では、キャンドルナイトが始まっていた。
無数の灯りが夜風に揺れ、幻想的な光の海を作っている。
「……これを、どうしても見せたかった」
岳人の言葉に、風子は目を潤ませる。
「……きれい」
岳人の手に、風子の手が触れた。
「っ……」
「あ、ごめん、痛い?」
さっきの衝撃で、少し挫いたらしい。
「少し。でも――平気」
風子は、ふと小さく笑った。
「さっきの……“永久契約”ってさ」
「う、あれは……」
言い淀む岳人に、風子はそっと告げる。
「でも、嬉しかったよ」
その瞬間、夜空に大輪の花火が咲いた。
――メッセージ花火。
スピーカー越しに、叫び声が学園中に響く。
『風子ちゃーん!
好きだー! 付き合ってくれー!』
ざわめきと歓声。
一瞬、音が遠のいた。
岳人は、恐る恐る問いかけた。
「……返事は?」
風子は満面の笑みで答えた。
「――喜んでー!」
そのまま、彼に抱きつく。
「委員長、おめでとー!」
拍手と歓声が広がり、
キャンドルの灯りと花火の光の中、二人の影は寄り添って重なった。




