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第1話 私たちの現実、あの子のいない雪解け

お久しぶりです!ありまさんの企画参加作品です。

冬を迎え、ひたすら耐える季節がやってきた。

秋までの収穫を頼りに、じっと寒さに耐えながら、細々と日々を生きていく毎日。

あまり豊かではない暮らしだけど、この村の人たちはずっとこうして生きていっている。


でも正直、私はこの村での暮らしが好きかと言われると、すぐに肯定できるわけではない。

それでもこの村に住んでるのは、まだ私が子どもだっていうのもあるけど……友達のファリスがいるから、っていうのが大きかった。


ようやく15歳になった私は、同い年の友達のファリスと、生活への愚痴を言いながらも夢を夢見る年頃だった。


二人でよく来る丘の上で、雪がうっすらと積もる村を見下ろしながら、隣にいるファリスに言った。


「はぁ……こんな村、はやく出ていきたいなぁ。ねぇファリスもそう思わない?」


ファリスの方を向くと、彼女は眼下に広がる村を遠い目で見ていた。


「あはは、また始まった。キャスカの『こんな村出て行ってやる病』」

「もう!そんな病気じゃないよ!」

「ふふ」


茶化すように答える彼女の髪は、私の髪よりもずっと短い。長く伸ばすのが嫌いなんだそうだ。


もったいない!

本当にそう思う。

けれど、ファリスは私と違って、長く伸ばしたり、可愛く結ったりすることにあまり興味を示さない。


私は彼女の輝くような金色を眺めながら、やっぱりその髪が好きだ、と感じる。

混じりけのない金色が、雪に反射された光を帯びて――お世辞抜きに、本当に美しいと思う。


それに比べて癖毛の私。

髪の色だって、ファリスみたいに綺麗な金色ならよかった。


だって、まるでお日様みたいだから。


私の髪は、ここよりももっと北国から来た移民だった両親の家系で、この雪のように真っ白だった。

豪雪地帯っていう訳じゃないけど、冬にはそれなりに雪が降るこの村では、景色に埋もれてしまって本当に嫌だ。


色のない私。


村のどの人とも違う色の私たち家族は、小さな村社会の中でさえ、奇異の目で見られてばかりだ。


親たちはもう何も言わないけど、年頃の私にとっては、そういう彼らの反応は、かなり辛いものがあった。


でもファリスだけは、昔からずっと変わらず、一緒に遊んでくれた。

だから、私にとってファリスは特別だった。


自分の髪が気になって無意識に髪をいじりながら、ファリスが言ったことに対して反論した。


「ファリスだって私と似たようなものでしょ!だって……」


その先を続けようとしたら、ファリスがその先を答えた。


「うん。私、騎士になりたいから」


笑顔で私にそう言う彼女がとても眩しくて。

夢があって、それにひたむきなファリスが羨ましくもあって――

この心のざわめきと、彼女の笑顔を見るたびに高鳴るようになってしまったこの心臓に、よく分からない気持ちになる。


「ふん!ファリスだって『騎士になりたい病』じゃない!」

「ふふふ、そうだねぇ。騎士になってさ、キャスカを守ってあげたいんだ」


毒づいた私に対して、予想しない言葉を返してきたファリス。

驚きと、言いようのない喜び、嬉しさを感じながら、恥ずかしくなってそれを隠すように言ってしまう。


「ふ、ふん!そ、そんなに言うなら守らせてあげるわ」

「あはは!何それキャスカったら」

「も、もう笑わないでよ!もとはと言えばファリスが照れくさいこと言うからじゃない!」


プイっと彼女から顔を逸らすと、後ろからファリスが抱きしめてきた。

彼女の柔らかな身体を感じ、一気に胸の鼓動が高鳴った。


「わ!ちょ、ふぁ、ファリスったら!きゅ、急に……」

「ねぇキャスカ。本気だよ、私。守ってあげたいってやつ」

「……もう。ずるいよファリス。そんなこと言われたら……期待しちゃうじゃない……」

「期待してていいよ!絶対に騎士になって見せるから!」

「もう、調子いいんだから」

「それでね。ファリスと一緒にさ……ここじゃない、どこかに旅に出るんだ。ファリスと私、二人で……どう?」

「……」


返事の代わりに――私はファリスに、正面から抱きついた。

ファリスも、私を抱きしめ返してくれる。


「約束よ、ファリス。騎士になったら……私を、ここから連れ出してね」

「うん。約束。」


それからしばらくして――ファリスが騎士学校に合格した。


――――――


雪が解けて、辺りが白一色から、真新しい緑に変わった頃に、ファリスは騎士学校に入るべく、村を出て行った。近くまで騎士団から迎えが来ているらしく、そこで合流するらしい。


出発の日、村中の人たちがファリスの出発を祝っていた。

こんな貧しい農村から、まさか騎士学校に合格する人が出るなんて……私だって、それがファリスじゃなかったとしたら、全然信じなかっただろう。


楽しいことなんか何にもない村。

教会の神父さんがいろんなお話をしてくれるのはそれなりに楽しいけど、あまり私は神様を信じてるわけじゃないから、あまり教会に出入りするのは気が引けるし。

本を読もうにも、その本を手に入れるのだって、町に行かなくちゃいけないからすごく大変だし。


そして町に出るにも、山を下って行かなくちゃいけないし、途中には山賊だって出るし、それ以上に危険な魔物だってたくさん出る。


だからこそ騎士団が定期的に巡回に来てくれて、ある程度は安全を確保してくれているんだけど……。


ファリスは、ある時からその騎士団に憧れ始めた。

小さなころから年上の男子よりも体力があって、身長だってすごく高かったけど、まさか騎士になりたいなんて言うとは思わなかった。


――だって、普通は男の人がなるものだよ。

力が弱い私たち女には無理なんだよ。

だから、ここで私と一緒にいよう?

行かないで、ファリス――


何度も何度も、そう説得したけど、その度にファリスは首を横に振りながら、騎士になったらキャスカを迎えに行くから待ってて、って……笑顔で、そう言ってさ。


だから、ある時から私はもう言わないようにしたんだ。

寂しいけど、ファリスの夢だもの。


ファリスが頑張って騎士になって……そして、いつの日か、私を迎えに来てくれる。

この狭い世界から、連れ出してくれる。


普通なら、王子様がどこからか現れて、その人が迎えに来てくれるようなお話に憧れるのかもしれないけど、私にとってはそれはファリスだったし、別に変だとは思わなかった。


男の子とずっと一緒にいるのは不安しかないけど、ファリスとならずっと一緒にいられるもの。何年でも、何十年でも。


ファリスが騎士になるなんて言い始めるまでは……私は、ファリスとずっと、この閉ざされた山奥の農村で生きていって、お母さんやおばあちゃんみたいに、男の人たちよりも、もっともっと多くのことに耐えて、我慢して生きていくのかなって、そう思ってた。


でも、ファリスがいてくれるなら、それでもいいかなってずっと思ってた。

ファリスは私と違って、根が暗くない。

大変なことがあっても、いつも前を向いて笑ってた。

だからこそ私は、どうにもならない無力感に苛まれることがあっても、ファリスと一緒だから、って思えると、頑張ってこられた。


ファリスは、試験に合格すると、村からいなくなってしまう。

分かり切ってたことだ。


でも、胸を切り裂かれるように苦しくて――


『頑張ってきて』『応援してる』そう言ってあげたいのに


嗚咽で、声が出なくて


ただ泣きじゃくって、ファリスに抱きついてた。


そんな私を、ファリスはいつものように、ずっと抱きしめてくれてた。

ファリスも少し泣きながら、しばらくそうしてた。


「……じゃあ……行って、くるね」

「……うん。気を付けて……頑張ってきて。待ってるから!」


そう言って、いつも一緒だった私たちは、初めて離れ離れになった。

私に別れを告げた後、ファリスは時々振り返りながらも、真っすぐに村を出て行った。


私は、それをずっとずっと見ていた。ファリスの姿が見えなくなっても、ずっとファリスが行った方を、見続けていた。


朝日が雪解けの木々を照らして、もうすっかり陰鬱な季節に終わりを告げようとしていた。



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