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悪役令嬢たるもの  作者: 藤原ライカ


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第34話 悪役令嬢たるもの・本懐

 


 ミランダの顔が、困惑と屈辱に歪むのを見て、イザベラはここでようやく手ごたえを感じた。


 周囲からの度重なる苦言に耳を貸すことなく、これまで好き勝手な行動をしてきたミランダにとって、自分以上に常軌を逸した態度で、激しく接してくる令嬢などいなかっただろう。


 ましてや、ここには王族であるクリストファーがいる。


 まともな貴族令嬢であれば、王族を前にして声を荒げることなど決してしない。


 実際これまでも、ミランダに行動を改めるように促してきた令嬢たちは、あえてクリストファーが同席していない場所を選んで、根気よく言い聞かせ、諭すようにしてきた者がほとんどだろう。


 ただそれが、ミランダには通用しないどころか、おおいに勘違いさせる原因となってしまったと、イザベラは考えている。


 自身の欲求に対して自制ができない性分のミランダは、自分を正当化する天才でもあった。自分を咎める令嬢たちに発した言葉が、それを物語っていた。


「たしかにクリス様とわたしは身分がかけ離れているけれど、学生であるいまだからこそ、身分を超えた交流が許容されるということに、なぜ気づかないの?」


「あなた達って、かわいそうね。クリス様と仲良くできるわたしが羨ましいのはわかるけど、貴族の古い考えに縛られて、他人を攻撃することしかできないんだから」


「理解してもらおうなんて思っていないわ。だってわたしは、あたらしい貴族社会の先駆者になろうとしているんだから。あなた達からしたら、これは間違っていると感じるかもしれない。でも、それならどうして、クリス様はわたしをそばに置きつづけるのかしら。その意味を、少しは考えた方がいいんじゃないの?」


 これらミランダの言い分は、「もう手に負えません」と数人の令嬢たちから、ロザリンデに報告があがっていた。


 頭を悩ませるロザリンデを見たイザベラが、クリストファーを見限った理由のひとつでもある。


 王立デア・ラケティアでの学園生活は、将来の社交界の縮図であり、クリストファーの立場からすれば、だれよりも模範とならなければならかった。


 しかしクリストファーは、自由奔放なミランダを正すどころか。増長させるような態度を取りつづけていた。


 学生だから許されるだろう――そんな甘い考えが見え透いた行動は、イザベラを一気に失望させた。


 王太子妃教育という、決して楽ではない日々を過ごしたのは、貴族として生まれた以上、ロマリア王国をより良くするために尽力すべきだという使命感からだった。


 2年前、政略による王太子ルイスと西の強国イストリアの王女と婚約が成立したときも、なんら文句はなかった。それが国益となると理解し、当然のように受け入れられた。


 その数日後、第2王子クリストファーの婚約者に指名されたときは、さすがに動揺したけれど、王太子妃教育で得た知識と教養で、クリストファーと共に王太子殿下夫妻を支えることができるのならば、自分の想いには蓋をして、成すべきことを全うしようと胸に誓った日のことを、イザベラは今でもよく覚えている。


 しかし残念ながら、クリストファーとは支え合うことができそうにないと、この学園で気づかされた。


 何かしらの劣等感をクリストファーが抱えているのは知っていたけれど、それを埋めるためにミランダを使い、イザベラの貴族としての矜持を試すべく執拗に波風を立ててくる様子には、ほとほと愛想が尽きたといえる。


 王太子ルイスと比べるのは申し訳ないが、あまりに稚拙。


 自分の機嫌をとるために、婚約者を傷つけても許されると思っているのは、傲慢がすぎるというものだ。


 第2王子クリストファーとミランダ・ミラーラ


 結局のところ、このふたりはお似合いなのだ。


 今日、学園に戻ってきたときから、遠慮はしないことに決めていた。


 ロマリア王国一の悪役令嬢を目指すことにしたイザベラが、愚か者たちを見据える。


 だれを敵に回したのか。それを骨の髄まで、わからせてやらなければならない。


 残酷さと傲慢さを、なお一層底上げしたイザベラが、冷酷無比な笑みを浮かべる。


 クリストファーの方は、のちほどしっかり(とど)めを刺すとして――まずは、ミランダ・ミラーラから。


「ほら、さっさと額をつけなさい。血が滲むほどこすりつけたら、いかにもくだらなそうな無礼者の話を聞いてあげるかもしれないわよ」


 これまでの舐め切った性根をズタズタにして、泣き叫ぶほどの屈辱を味わせてやらなければ、悪役令嬢の名がすたるというものだ。


「そんなこと……できません」


 案の定、あっさりと涙を流しはじめたミランダを、イザベラは嘲笑した。


「笑わせる。言っておくけど、その涙には、一抹の価値もなくてよ。不快で下劣で汚らわしいだけ」


「……どうして、そんな……あんまりです。わたしにも子爵令嬢としての……」


 そこで、イザベラの高笑いが響いた。


「本気で笑わせないで。貴族社会の作法も何も理解できていないおまえに、令嬢として語れることなどない」


 顔面を蒼白にして、わなわなと震え出したミランダ。


 ここでクリストファーが口を挟んだ。


「もう、それぐらいにしてくれ。こちらに非があるのは認めるから――」


 しかし、そこでイザベラは、今夜もっとも鋭い視線でクリストファーを制した。


「おだまりください。殿下に、わたしを止める権利などございません。この学園にて、貴族間における爵位の序列を最初に無視されたのは、殿下です。この女を2年もの間、好き勝手にさせていたのですから、わたしもまた好きにさせていただきます。いま『こちらに非があるのは認める』と、おっしゃいましたか? いまさら非を認められて何の意味が?」


 雲の間から、月がふたたび顔をだした。


 イザベラの頭上から、月光が降りそそぐ。


「今夜、殿下の出る幕などないのですよ」





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