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悪役令嬢たるもの  作者: 藤原ライカ


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第23話 王妃宮

 


 王妃宮の一室にて、王妃である母と対面したクリストファー。


 ふたりのほかには、王妃付き侍女長の姿があり、クリストファーのうしろには青い顔したエリオットが控えている。


 厳しい表情の母に、クリストファーは問われた。


「ミランダ・ミラーラ子爵令嬢について教えてくれるかしら」


 想定していた通りの質問だった。


「彼女は王立デア・ラケティアに在籍する……」


「クリストファー、省きなさい。わたくしが、学長に問い合わせて分かるようなことを聞かされても、時間の無駄です」


 想定していなかったのは、いつもどおり落ち着いた口調のなかにある、想像以上の母の怒りだった。


 母であり王妃クラリスが知りたいこと、それは――


「事実だけを正確に。あなたとミランダ・ミラーラ子爵令嬢との関係。おそらく、ここでしか話せないであろう、今後のあなたの意向。それを踏まえて、わたしくしは陛下と話しあわねばなりません」


 鉄の塊が、腹の中に落ちたような気がした。


 王都から離れた、学園内でのこと。


 卒業をむかえる来年まで、好きなようにしてみよう。


 2週間ほど前までそう思っていた自分が、いかに愚かで浅慮だったかを思い知らされるのは、もう何度目だろうか。


 いつもであれば、大勢の侍女やメイドに囲まれている母が、この場を最小限の人間だけにしてくれているのは、自分に対する配慮からだろう。


 それでもこれから、うしろめたい思いを抱えながら、ミランダとの関係を話さなければならいことに、クリストファーは唇を噛みしめる。


 膝においた手が、自然と握りしめられた。


「ミランダ・ミラーラ子爵令嬢と僕は――」


 学園内での経緯を頷きながら聞く王妃クラリスが、ときおり眉根を寄せて嘆息する姿に息子として申し訳なさを感じたとき。


 すぐさまそれを見抜いた王妃クラリスから、毅然とした顔で告げられる。


「わたくしに申し訳ないとい思う10倍、あなたはギルガルド侯爵令嬢に対して、罪の重さを自覚すべきです」


 そうして一瞬だけ、その瞳に寂しげな光を浮かべた。


「できれば……イザベラ嬢には、わたくしを頼って欲しかった。でも、そう思うのは、わたくしの(おご)りでしょうね」


 王妃の顔に戻したクラリスは、イザベラが姿を消す直前の出来事について教えてくれた。


 およそ1週間前のこと。


 国王の執務室を訪れた宰相・ガルディア公爵より、第二王子妃の選定について、多数の貴族より疑問の声があがっていると報告を受けた。


『イザベラ・ギルガルド侯爵令嬢では、クリストファー王子殿下を妃として支えることは不可能ではないか。新たに選定し直すべきなではないか』


 同様の意見書は、数十枚にも及んでいたという。


「これについて、わたくしと陛下は、もちろん猛反論いたしました。イザベラ嬢については、その人柄、能力ともに王太子妃候補だったころより、高く評価してきましたから。しかし、宰相は同時に、第二王子妃の再選定を希望する貴族たちの同意書も、合わせて提出してきました」


「そんなことが……」


「ええ、そして信じられないことに、すべての貴族たちが新たな第二王子妃候補にと名前をあげてきたのが、ミランダ・ミラーラ子爵令嬢でした。その理由は、あなたと彼女が、学園内でとても懇意にしているからだと」


 足元から色々なものが崩れ落ちていくのを感じる。


「あなたからその事実を聞くまで、俄かには信じられませんでした。ですから、わたくしも少々、人を使って調べさせました。クリストファー、改めて聞きます。あなたは、婚約者であるイザベラ嬢の誕生日に何も贈らず、ミラーラ子爵令嬢の誕生日に髪飾りを贈ったばかりか、夏の舞踏会の招待状とともに、子爵令嬢にドレスを贈ったというのは、まちがいありませんか」


「……はい。まちがいありません」


 舞踏会の招待状が学園に届いたのは、イザベラが態度を急変させた日だった。


 怯えるミランダに「大丈夫だ」といってクリストファーは、舞踏会の招待状といっしょに、注文先から届いたばかりのドレスを渡していた。


「そうですか。クリストファー、あなたはいったい、夏の舞踏会でだれをエスコートするつもりだったの? 何くわぬ顔でイザベラ嬢をエスコートしながら、自分が贈ったドレスを着たミラーラ子爵令嬢とダンスでも踊る予定だったのかしら」


 沈黙するより、ほかなかった。


「答えられませんか。そうであれば、この話はここで終わりにいたしましょう。これをあなたの意向として受け取り、今後について陛下と話し合うことになるでしょう。あなたは学園に戻り、こちらからの決定が届くのを待つように」


「わかりました。母上、ひとつだけ頼みがあります」


 罵倒されるのを覚悟で、クリストファーは頭を下げた。


「聞くだけ聞きましょう」


「イザベラ嬢の行方を知っていれば、教えていただけないでしょうか。もう、取り返しがつかないことはわかっています。ただ、彼女に…心から、謝罪をしたいのです」


 王妃クラリスの沈黙は長かった。


「学園に戻りなさい。こちらかの連絡を待つように」




 ◇  ◇  ◇




 そのころ――


 イザベラとジークバルトは、ロマリア王国の同盟国である東方帝国から、オルフェス大公国へと向かっていた。





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