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悪役令嬢たるもの  作者: 藤原ライカ


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第22話 イザベラの行方

 


「ベッキー、イザベラの誕生日にわたくしが贈った東方帝国の茶葉は、まだあるかしら?」


 クリストファーの見送りから戻ってきたベッキーは、ニコニコだった。


「はい、ございます。すぐに御茶をお淹れいたします」


 いつも以上に軽やかな足取りのメイドは、主人の求めに応じて茶器を用意しはじめる。


「それにしても、ずいぶんと機嫌が良さそうね」


「申し訳ございません。顔に出ておりますか?」


「よく言うわ。隠すつもりもないくせに。どうせ、その顔で殿下をお見送りしたのでしょう」


「お嬢様、それをさせるおつもりで、わたしを公爵家からつれてきたのではありませんか」


「さすが、よくわかっているじゃない」


 苦笑するロザリンデに、イザベラを慕うメイドのひとりベッキーは嬉しそうな顔から一転、残念そうな顔をしてみせた。


「心残りは……ミラーラ産の激渋い紅茶を、王子殿下に振舞えなかったことです。殿下がこられるまでの間、煮詰めに煮詰めて、身体にはいいけれど激苦い薬草とブレンドしておりましたのに」


「早く処分してきなさい。厨房からクレームが入るわよ」


「それはありません。ブレンドしようと言ったのは、料理長ですから」


「ああ、そういうこと」


 ただでさえ強面なのに、グツグツの鍋をかき混ぜながら「もっと、もっと、しぶ~く、にが~くな~れ」とやっている料理長のトムを、ロザリンデは想像した。


 ガルディア家が経営する海上レストランの料理長トムは、下町出身で元は王都で小さな食堂を営んでいた。そこに足繁く通っていたのがギルガルド侯爵閣下で、一時期、天候不良による食材の高騰で傾きかけた店を、こっそり支援してくれたそうだ。


 その数年後、海上レストランのシェフを探していたガルディア家に、「彼と彼女の料理は最高なんだ」と料理人の夫婦を推薦したのが侯爵閣下で、現在、王都にある食堂は息子たちにまかせ、この大人気レストランの料理長、副料理長として夫婦は腕を振るっている。


 〖王立デア・ラケティア〗とおなじ街にあるので、当然ながらクリストファーが婚約者のイザベラをぞんざいに扱っているということは耳にしていたし、週末にミランダを連れて街を歩いているところも、何度も目にしていた。


 大恩あるギルガルド侯爵家の御令嬢イザベラもまた、夫婦にとっては特別な存在だ。


 幼少期からイザベラは、侯爵である父に連れられて、何度も食堂を訪れている。


「とっても美味しいわ。わたし、エマさんが作ってくれるアップルパイが大好きよ。内緒だけど、王宮の御茶会でだされるパイよりも好きなの」


 トムの妻で、現在、副料理長をつとめるエマは、イザベラの誕生日には毎年、特大のアップルパイと特製のデザートスタンドを作っている。


 ベッキーによれば、今日の厨房で一番恐ろしい顔をしていたのはエマだったそうだ。


「わたし、灰色の生クリームを無言で混ぜている副料理長を見て……こういってはなんですが、手練れの暗殺者かと思いました。完成したケーキなんて墓石みたいでしたよ。あれも振舞えませんでしたねえ」


 その日、ロザリンデがお気に入りの東方帝国の紅茶に添えられていたのは、


「味は、大丈夫ですから」


 そういって副料理長エマが切り分けた『墓石ケーキ』だった。



 ◇  ◇  ◇



 夕方、自室に戻ってきたクリストファーを、暗い顔をしたエリオットが出迎えた。


「お帰りなさいませ。夕暮れどきになっていましたので、心配しておりました。馬車は御使いにならなかったのですか?」


「ああ、歩きたい気分だったからな。あとで話すが……見ての通り、こっちは最悪だ。そっちは、どうだ?」


「申し訳ありません。こちらも似たようなものです。侯爵家からは返信がありません。街で情報を集めたのですが、ギルガルド侯爵令嬢が最後に目撃されたのは、街のレストランで……オルフェス大公子と食事をされていたそうです」


「どこのレストランだ」


「ガルディア家が経営する海上レストランです」


「……そうか」


 深い溜息をもらして、クリストファーは椅子に沈み込んだ。


「かなりお疲れのようですね。お話を聞く前に、御茶でも淹れましょう」


 ポットを手にした側近を、クリストファーは止めた。


「いや、水でいい。しばらく……御茶は飲めそうにないな」


 きっと、御茶をみるたびに、今日のロザリンデの言葉を思い出すだろう。


『婚約者をさしおいて、殿下が好んで連れ歩いていたお相手は、どなたでしたか? それを目の前で見せられながらイザベラは、2年以上も矜持を保ちつづけ耐え抜きました――』


『ご本人様は、3分にも満たない時間で耐えきれなくなり、顔を歪められるとは――』


 痛烈だった。


 イザベラとおなじく王太子妃教育を受けていたロザリンデ・ガルディアは、磨かれたその牙で真正面から噛みついてきた。不敬罪に問われることなど、ひとつも恐れていなかった。


 なにひとつ収穫のないまま追い出されたが、クリストファーは確信した。


 ロザリンデ・ガルディアは、イザベラの行き先を知っている。


 あの日――


『婚約者に誕生日を祝ってもらえなかった憐れなわたしのために、ジークバルト様が食事にお誘いくださった』


 海上レストランを選んだのが、ジークバルトなのかイザベラなのかは分からないが、偶然だとは思えない。


 まちがいなく、イザベラが忽然と姿を消せたのは、ロザリンデによる協力があったからだろう。


 あの公爵令嬢から、イザベラの行き先を聞き出すのは至難の業だ。


 それでも――


「明日、もう一度、ガルディア公爵令嬢に面会を申し込む」


 ここで諦めるわけにはいかない。


 しかし、クリストファーが面会を申し込むことはできなかった。


 翌朝。


 朝食の席でクリストファーに届いたのは、


 〖ただちに、登城せよ〗


 母である王妃からの呼び出しだった。





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