表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢たるもの  作者: 藤原ライカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/38

第20話 消えたイザベラ

 


 オルフェスの大公子ジークバルトが学園に現れた翌日から、イザベラは姿を見せなくなった。


 あの日――


 夕食の誘いを断られ、ジークバルトの腕に手を添えたイザベラを見たときから、クリストファーの胸は、ざわつきがおさまらない。イザベラに言われた言葉が、耳の奥でずっと繰り返されていた。


『今夜は、三か月前、婚約者に誕生日を祝ってもらえなかった憐れなわたしのために、ジークバルト様が食事にお誘いくださった――ただ、それだけのことにございます』


 今さらだとは、わかっている。


 しかし、あれからクリストファーは、かつてない後悔に襲われていた。


 イザベラの誕生日を忘れていたわけではなかった。側近のエリオットからも「お花は贈るべきです」と進言されていた。


 にもかかわらず「勝手なことをするなよ」と言って、あえて何もせずに、イザベラの誕生日が過ぎるのを待ったのは、こうでもすれば、さすがに何か言ってくるだろうと、愚かにも思っていたからだ。


 いつからかミランダをそばにおくことに、苦言をいってこなくなったイザベラ。


 お好きにどうぞ――と、まるで相手にされていないような気がして、どうにかしてイザベラの心を揺さぶってやろうとした。


 その結果は、苦言どころか目も合わされなくなった。


 イザベラとの関係が冷え切っているのは、だれが見てもあきらかで、それをまた放置している間に、学園生活は残り1年となり、イザベラは態度を急変させた。


 早急な話し合いが必要だった。


 しかし、翌日に訪れた女子寮で、イザベラが手を取ったのは自分ではなくオルフェスの大公子で、そのときになってはじめて、クリストファーは本当の意味での危機感と後悔を覚えた。


 イザベラが姿を消して、3日目。


 体調でも壊しているのかと、短い手紙を書いて、エリオットに届けさせた。


 翌々日になってもイザベラからの返事はなく、まもなく1週間が過ぎようとしていたその日。


 ミランダから呼び出されたクリストファーは、人目につきにくい場所を選んで会うことになった。


「クリス様……あれから、ギルガルド侯爵令嬢は何か言ってこられましたか」


「いや、何も」


「そ、そうですか」


 不安なのだろう。


 これまでもミランダは、イザベラを慕う令嬢たちから咎められたことはあるらしいが、いつも「たいしたことはありません」と突っぱねていたと聞く。


 しかし今回は、これまでとはワケがちがう。


 面と向かって咎めてきたのはイザベラ本人で、その怒りを浴びせられたミランダは、これまで感じたことない恐れを抱いたのだろう。


「わたし、ギルガルド侯爵令嬢が……あそこまで怒っていらしたなんて、知らなかったんです。本当です」


 恐怖心からとはいえ、それはとても白々しい言いわけに聞こえた。


 そのあともミランダは、「何も知らない田舎令嬢だったから」と必死に訴えてきた。


「わたしは地方の子爵家で育ちましたから、王都の貴族のしきたり……のようなものに慣れていませんでした。この学園に入ってクリス様と知り合えて、仲良くしてもらえるのが嬉しくて、素直に喜んでいただけなんです。だって、もしダメなことなら、クリス様が叱ってくれたでしょう?」


 自分は悪くないのだと、イザベラに伝えて欲しい――


 そう懇願して、ミランダは逃げるように立ち去っていった。


「そうだな。すべて、僕が悪い……」


 どっと増した疲労感に、クリストファーは額を押さえ、しばらく立ち上がれなかった。


 顔面を蒼白にさせたエリオットがやってきたのは、その翌朝だった。


「ギルガルド侯爵令嬢から、学園に長期の不在届けが出されています」


「なんだって? いつからだ?」


「……殿下が、話し合いに向かわれた日の翌日からです」


「それはつまり、ジークバルト・オルフェスが学園に現れた翌日――ということか」


 短い沈黙のあと、エリオットは「はい」と返事をした。


「不在の期間は?」


「未定となっておりました。ギルガルド侯爵令嬢は王太子妃教育を受けられておりましたので、卒業に必要な履修単位を早期に取得されております。そのため最悪の場合、卒業まで戻られない可能性もあります」


「馬鹿な……あれからまだ、何も話し合えていない。謝罪もできていない。誕生日のことも何もかも」


 重たい空気が部屋に流れるなか。


 何も言わずに唇を噛みしめたエリオットから、痛いほどの後悔と憤りが伝わってくる。


「悪いのは、すべて僕だ」


 いまなら、こうも素直に自分の非を認められるというのに、これまで一度も、イザベラに対しては自分の非を認めることができなかった。


 あまりにも愚かすぎる。こうなってから気づく自分も、あれから1週間も何もせずに過ごしていたことも。


「エリオット、ひとまずギルガルド侯爵家に行き先を訊ねてみてくれ。もし、イザベラが王都の屋敷に戻っているなら、僕がすぐに向かうと合わせて伝えてくれ」


「承知いたしました。殿下はどうされますか?」


「僕は――ガルディア公爵令嬢に会いにいってくる。イザベラの行き先を知っているとしたら、彼女だろう。もちろん、そう簡単に教えてもらえるとは思っていない。でも、何もしないで待つよりはマシだ」


「わかりました。それでは、ギルガルド侯爵家に伝聞をだしてまいります。途中、女子寮に寄りまして、ガルディア公爵令嬢に面会の先ぶれもだしておきましょう」


「助かる」


 小走りで出ていこうとする側近に、クリストファーは声をかけた。


「エリオット、悪かった。いつも、迷惑をかけてすまない」


 振り向いた側近の顔は、少しだけ明るくなっていた。


「いいえ。殿下と同じくらい、僕も後悔しているんです。ここから、最善を尽くすしかありません。ふたりでやれることは、すべてやりましょう」


「ああ、そうしよう」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ