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第18話 城塞都市

 


 建設現場から飛び立った黒竜は、帝都へと向かう。


 その背で、イザベラを横抱きにしたジークバルトは、少々不機嫌だ。


「なんで俺が、手伝いなんか……おかげで余計な時間をくってしまった。せっかくイザベラと帝都を見物しようと思っていたのに」


「いいじゃないですか。ジークの見事なさばきを見ることができましたし、ユージーン殿下とも打ち解けることができました」


「それが不満なんだよ。俺が苦労して木材を運んでは降ろしを繰り返している間、ふたりして話し込んでいたな」


 それについては、「すみません」とイザベラは肩をすくめた。


「ユージーン殿下と話していると、まるで父と話しているような感じになってしまって」


「父……か。まあ、それならいいか」


 不機嫌な顔がやわらいできたジークバルトも「言われてみれば」と頷いた。


「たしかにアイツは、ギルガルド侯爵に似ているところがあるな」


「ええ、話しに夢中になると止まらなくなるところなんて、父にそっくりです」


 そうして黒竜の背から見えてきたのは、眼下に広がる帝都。


 そのほぼ中央には、城塞というにふさわしい巨城がある。


「あの城は、美しさには欠けるが、砦としては最高だ」


「城というよりも、城塞都市といった方がいいかもしれませんね。外側から城に向かっていくにつれ、塀がわりにしている壁を高くしています。都市のいたるところに塔があって、徐々に高くなっている壁で都市全体が囲まれています」


「そのとおりだ。装飾的なものをすべて排して、防衛に特化している。この城塞を築いたのが、東方帝国の初代皇帝で、ユージーンの曽祖父だ。そして、それを城塞都市にしたのが前皇帝と現皇帝だ」


 堅牢堅固というにふさわしい帝都だった。


 しかしイザベラは、この帝都に致命的な欠陥があることをすでに見抜いていた。


「物理的な攻撃に対する防衛力という点は、非常に高いですね。難攻不落といっていいかもしれません。ただ……問題は南北に走る道ですね。あれと、おそらく水堀につながっている東側の河川。この二つを敵に抑えられて物資の輸送が止められてしまえば、この帝都はもって3か月といったところでしょうか」


「そうだ。問題は、兵糧攻めされたら終わり、ってことだ。それをなんとかしようと、ユージーンはいま、防衛機能だけでない都市づくりに躍起になっている」


 イザベラの頭のなかで、様々なことがつながっていく。


「ロザリンデとユージーン殿下の婚約には、かなりの政略が絡んでいそうですね」


「そのとおりだな。まずは軍事同盟が目的だ。本来ならば、互いに王族同志の婚姻が望ましいが、知ってのとおりロマリア王国には王子がふたりだけ。東方帝国にしても、広い領地を三人の王女がギリギリで防衛している以上、国外に王族をだす余裕がなかった。ロザリンデ様が選ばれたのは、まあ、そういう理由もあるな」


 実際のところは、それだけはないだろう。


 イザベラは、チラリとジークバルトに視線を向けた。


 おそらくロマリア王国では、王家につらなる血筋の男子が婿入りするかたちで、東方帝国の3人の王女との政略結婚も画策されたはずだ。その筆頭候補の王家の血筋といったら、いまイザベラを胸に抱いている大公子だったにちがいない。


 イザベラから向けられた視線の意味を正しく理解したジークバルトは、「そんな話もあるにはあった」と認めたうえで、


「俺が断る前に、3人の王女から断れたんだ」


「全員からですか?」


「ああ、なんでも、死神なんかが婿にきたら、すぐに帝国を乗っ取られるんだと」


 なるほど、とイザベラは納得した。


「ジークの悪名は、東方帝国にまで轟いていたのですね」


「……まあ、そういうことだ。とはいえ、誤解するなよ。そんな婿入り話、俺は(はな)から断るつもりだった。言っただろ、俺は一途だって。もしそれが、ギルガルド侯爵家への婿入り話なら、すぐにでも飛びついていたけどな」


「それは、父よりも母が反対しそうですね」


「はぁ?! なんでだ? 俺は、侯爵夫人に嫌われているのか?」


「それはぜひ、母から直接聞いてください」


「直接か……考えただけで恐ろしいな」


 戦場の死神も、剣聖の称号を持つイザベラの母のことは恐れるらしい。


 そうこうしているうちに、巨城が近づき、城内の一角から大きく手を振る人物がみえた。


「あれは……レイだ。皇太子が出向かえてくれるなんて、俺たちはかなり歓迎されているな」


「レイモンド皇太子殿下ですか?」


「そうだ! そろそろ下降する」


 黒竜の首が下向きになり、傾いたイザベラをこれまで以上に抱きしめたジークバルトは、東方帝国の皇太子レイモンドが待つ場所へと下降した。


「ジークバルト、久しぶり」


「レイも元気そうで何よりだ」


 第二皇子ユージーンにつづき、皇太子とも打ち解けた様子で話すジークバルトは、すぐにイザベラを紹介した。


「ようこそ、ギルガルド侯爵令嬢。歓迎いたします」


「レイモンド皇太子殿下にご挨拶申し上げます。イザベラ・ギルガルトにございます」


「ああ、膝はおらなくていいよ。ロマリアの王城とちがって、この城は屋外とたいして変わらないからね。綺麗なドレスが汚れてしまうよ。今日はオルフェスの友人が、連絡もなしに突然遊びにきた、ってことになっているから。国同士の訪問ではないってことで」


「お心遣いに感謝いたします」


 ユージーンとおなじく、兄であるレイモンドも気さくな人柄で、イザベラはホッとする。


 そこに、大声が響いた。


「オルフェスの死神! 今日は何をしにきた!」





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