2話:漢の道
その日の夜中・・・匠はなぜか目が覚める。
そこは見知らぬ場所だった。真っ暗で何の光もない、そんな場所に匠はいた。
「ここは・・・・どこだ・・・?海さん・・・?」
その呼びかけに返事はない。ただ虚空にその呟きが響くだけだ。瞬間、匠の脳内は不安と恐怖で満たされる。近くに海がいる、そんな雰囲気はあるのだが、常闇の空間には誰の影もない。
「こ、怖い・・・。誰か・・・。」
刹那、暗闇から恐ろしい数の手が伸びてきたのだ。それを見た匠は一目散に後ろへ向けて走り始める。だが、走ろうとしてもなぜか上手く走れない。それどころか歩くことで精一杯だ。その間にも無数の手は迫り続ける。そしてついに捕まる・・・・と思った。だが、その直前のタイミングで目が覚める。
「・・・・!!はぁはぁはぁ・・・。ゆ、夢か・・・。」
目覚めた場所は海の家のソファの上。昨夜、風呂に入り、お腹いっぱいの炒飯を食べてすぐに眠ってしまったようだった。時計を確認すると時間はまだ深夜3時頃。その様子を見た海が話しかける。
「どうした、匠。変な夢でも見たか?」
「海・・・よかった。いなくなったかと思った・・・。」
「居なくなるなんてありえねぇよ。安心していい。」
「うん、ありがとう・・・。」
孤独という恐怖から解放された匠は安堵し、再び眠りにつこうとする。そうしていると海がもう一度話しかけてきた。
「もう一回寝るのか?そりゃやめといた方がいいな。悪夢を見る日はそれしか見ねぇ。朝になるまで俺と話してるか?」
「え、いいの?」
「あぁ、俺も丁度眠れなかったところだからな。丁度いいだろ。俺に聞きたいことはあるか?なんでも答えるが・・・。」
「聞きたいこと・・・。あっ、海さんの人生が聞きたい。」
「俺の人生?面白いことなんか何もねぇけど、それでもいいのか?」
「うん、それでも聞きたいんだ。海さんの人生を・・・!」
その決意の籠った目を見て、海は全てを話す決意を固めた。
「俺は生まれも育ちもこの辺でな。昔からこの土地が大好きなんだよ。都会の喧騒もなく、飽きない緑もある。それでいて少しは栄えてる。そんなこの町が好きだ。じゃあなんで極道やってんだって話だけどな。それはな、俺も15の時に親に捨てられたんだよ。突然の事だったからそん時は理解できなかったけどな。それで路頭に迷ってた時だった。今世話になってる組の親分に拾ってもらったんだ。だから、俺があの時匠を拾ったのは、もはや必然だったのかもしれねぇ。」
「そう・・・だったんだ。それで、組に入ったのはなんでなの?」
「そりゃもちろん、恩返しのためさ。俺の命、いや、人生を変えてくれた親分にきっちり恩を返して真っ当に生きていくために組に入ったんだよ。」
「恩返し・・・か・・・。じゃあ俺もいつか海に恩返しできるような男になって見せるよ!」
「はっはっは!!楽しみに待ってるよ!じゃあそれまで俺は死ねねぇなぁ!!」
「それが海さんのやるべきことだね!!」
「そうかもな!今から楽しみだ!」
「聞かせてくれてありがとうね。海さんがなんで俺を拾ってくれたのか、少しわかった気がするよ。」
「そうだな。これからも強く生きろ、な?」
「うん!生きるよ!恩返しするまで!」
「あぁ!その意気だ!」
その後も他愛もない会話に花が咲き、朝まで語り尽くすのだった・・・・
翌朝、海の家にて・・・・
海は組に顔を出すためにスーツに着替えていた。
「今日からまた組に復帰だ。あの抗争は終わった。俺たちの勝ち・・・・ん?」
「海さん、組に行くの?」
「おぉ、匠か。そうだ。俺は極道、組に行かねぇと意味がないからな。それがどうかしたか?」
「いや・・・その・・・。」
「なんだ、言ってみろ?」
「俺も組に連れて行ってほしいなって・・・。」
「それはなんでだ?俺の組はこの辺じゃ武闘派だ。危ないのがたくさんいるぜ?」
「それでもいいんだ。海さんがお世話になってる組って奴を見てみたいんだ。」
「わかった。じゃあ一緒に行くか!親っさんには俺から話しといてやるから。」
「ほんと!?いいの!?ありがとう!」
「じゃあ、着替えて・・・ってそうだったな。着替えがまだないんだった・・・。そんじゃ今日は俺のを貸してやる。」
「色々ありがとうね、本当に・・・。」
「いいってことよ!気にすんなって!」
そして匠も着替えた後、そのまま一緒に組に向かうのだった・・・・
海が所属する組織は武闘派組織、有田組。周辺では屈指の強さだという。そんな中で海はというと、若頭という組のNo.2のポジションなのだ。50歳前後という若さでこのポジションにつくことはなかなかなく、海の優秀さがうかがえる。
海たちは組に到着するとそのまま組長室へ向かう。
「親っさん、お久しぶりです。こいつが昨日から一緒に暮らしている匠です。」
「望月匠と申します。昨日から海さんの下でお世話になっています。よろしくお願いします。」
「おぉ!話には聞いてる、君がそうなんだね?いい顔をしているじゃないか!はっはっは!うちの人間はカタギには優しいからね。たくさん遊んでもらうといい。いつでもおいで。」
「あ、ありがとうございます!」
「それと、天馬、後で会議がある。遅れないように。」
「承知いたしました。」
「匠君、今日は組を自由に見て回るといい。組員をもう一人つけてあげよう。」
「親っさん、そこまでしなくても・・・。」
「構わんよ。会議中も遊べるようにしておくだけだ。青山、あいつなら色々と融通が利くだろう。後で呼んでくるといい。」
「承知しました。」
そんな会話をしつつ、組長室を後にする。すると電話で呼んでいた青山が走って向かってきた。
「カシラ!お待たせいたしました。」
「おぉ、青山、突然呼んで悪かったな。助かるぞ。」
「そちらの方が今回の客人ですね?」
「あぁ、そうだ。」
「人には優しくホスピタリティ、青山進です。どうぞよろしく。」
「望月匠です。こちらこそよろしくお願いします。」
そんな挨拶を交わし、青山が続ける。
「カシラ、まずは何をしましょうか・・・。カシラもそろそろ会議でしょう?」
「そうだな・・・。会議の間組内を案内してもらえるか?」
「了解です!この青山にお任せを!」
「頼んだぞ、青山。匠はそれでもいいか?」
「うん!連れてきた貰った身だし、海さんに任せるよ!」
「わかった。なら、俺は会議に向かう。後はよろしくな、青山。」
「わかりました。いってらっしゃいませ。」
そんなこんなで海は一時的に匠の元を離れ、会議に向かうのだった。
「匠君、これからどうしようか・・・。」
「青山さんに任せます・・・とは言っても難しいですよね・・・。」
「行くとしたら道場か・・・。」
「道場があるんですか?」
「あぁ、うちは武闘派で売ってるからな!体が資本って訳だ!」
「ぜひ行ってみたいです!」
「おぉ!じゃあそっちに行くか!」
そうして、二人は道場へ向かう。道場は三つあり、空手、柔道、合気道の三つだ。その全てに一流の講師を雇っているらしい。
「おぉぉ!!すごい!!」
「だろ?ここの連中はみんな強いぜ?」
「俺も小さいときに空手をやってたんです。今見ても素晴らしいですね。皆さん動きが洗練されてる・・・!」
「まぁ、講師に雇ってる方も超一流の猛者だからな。それに教わってるうちの奴らはかなり強いと思う。」
「俺もあんな強い男になれたらよかったなぁ・・・。」
「匠君ならやり方次第でなれると思うけどな。」
「本当ですか!?頑張ってみます!」
「おう!頑張れ!」
そんな会話をしつつ、その日は組内を見て回った・・・。
「匠、今日は楽しめたか?」
「うん!皆優しくていい人だったよ!」
「なら良かったぜ。そんじゃ帰るか!」
「うん!」
そうして、二人は組を後にするのだった・・・
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