夢の中の異世界
良く、異世界に飛ばされた主人公が勇者にされるって話があるよな。そこからの派生で、勇者の親友が間違って召喚されるような話もある。
本当に、やはり俺はそんな漫画や小説は好きでは無い。王道な正義感たっぷりの熱血主人公よりも、ひねくれてやる気も無いニート系主人公が、目的も無く異世界をプラプラしている物語が好きだ。
理由は簡単。俺がそんなニート系主人公だから。衝撃の事実として更に言ってしまえば、俺は今見知らぬ途中にいる。
豪華な飾り付けのされている壁、目がチカチカするくらいに明るいシャンデリア、広い部屋の両側面にはそれぞれ鎧を着て槍を持っている方達が10人ずつ。赤い絨毯に、ガンガン視線を浴びせてくる偉そうな人達を見れば、あら不思議ファンタジーの世界だわ。
ガチガチのファンタジーな世界観に、笑いが込み上げてくる。真正面には王様らしき偉そうなオッサンが座っており、俺は部屋の中央で座り込んでいた。
俺の笑いを見た王様は、怪訝な表情をする。口を開き、威圧感で低い声を発した。
「何を笑っている?」
これが俺の深層心理だと思うと笑いも出てくる。どこの中二病ですか。俺はもう30手前に差し掛かったしがない社会の歯車ですよ。
そう、俺はこれを夢と判断していた。夢だよ、これ。間違いなく夢だよ。だって頬つねっても痛くないし。
と、ここで無視されたと思ったのか、王様が冷たい瞳でまたあの声を出した。
「答えよ、なぜ笑みを浮かべる?」
「王様、それは笑えるからですよ。だって――」
「……?」
「だってさ……」
そこで、周りを見渡す。何ですか、この新しい設定は。何で俺以外に召喚されている人が7人もいるんですか。
「なんか、多く無い?」
「ふむ……」
おいおい、これは貴重だ。現実に「ふむ」、なんて言っている人を初めてみた。ちょっと気持ち悪い。ふとむ、を力強くきちんと発音している辺りが気持ち悪い。
それきり王様は何かを考え始めた。高貴な方の思考回路なんて分からない俺は黙ってるしかない。あれ、これって俺の夢だよね? 色々とおかしいよね。
とまあ、改めて考えてみるとおかしい。夢の話は置いといて、なんで召喚された人が自分を入れて8人もいるの? 8人で魔王一人を倒しに行けって? ただのリンチじゃねえか。
いや、もしかしたら魔王も8人いるって設定なのかも。あ、設定って言っちゃったよ。
ともあれ、俺は他の7人を見る事にした。その内、四人までは現代人風の人達。ちなみに、多国籍であった。黒人白人黄色人種何でもありだ。しかし他の三人は違う。肌と顔つきから察するに、日本人ではない。だけど服装が見るからに、俺達ファンタジー! って空気を醸し出している。何なんだ。
そこで、王様は俺達を見回して言った。
「誰が魔王だ?」
意味分からん。ここで、はい! 僕が魔王です! なんてトチ狂った発言する奴はいない。
「はい! 僕が魔王です!」
狂気の沙汰ほど面白い。
白髪の麻雀打ちじゃ無いんだから。ちなみに、言ったのはサングラスをかけたムキムキの黒人さん。スキンヘッドにタトゥー、強面というどこのマフィアだ、とツッコミを入れたくなる。
ってか日本語喋れるんかい。シュール過ぎる。ムキムキの黒人が流暢に日本語で、更に、はい! 僕が魔王です! なんて優等生口調でトチ狂った発言をしたんだから、そりゃシュールだ。
ここで、王様は満足気に頷いて宣言する。
「魔王に兵を与える! 魔物を支配し、人類の敵となれ! そして、勇者に討たれるのだ! 心配は無い、死ねば元の世界に帰れる! 勇者や魔王は痛みも無いはずだ。さあ魔王よ、人類の敵となれ!」
あれ、凄く新しいこれ。ちょっと面白いかも。夢よ、結末を見るまで覚めないでね。
数年後、俺は魔王を倒した勇者として存在していた。他の奴等は死んだ。俺は生きている。なぜ夢で死ななきゃならん。
……しかし、長い夢だ。
未だに俺は夢の世界で勇者をしていた。