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黒のスーツに身を包み、単調に流れる音を右から聞いて左に受け流す。僕は今、全く関係ない人物の葬式に参列している。似顔絵を描くように依頼してくれた同級生が「一応誘っとく…」と言ってくれて、僕も断れなかった。絵を描く中で、最期の参列を断れないぐらいには彼のばあちゃんに愛着を持ってしまっていた。高い位置でデフォルメされたばあちゃんが笑っている。僕は結局、『僕らしいスタイル』で彼女を送り出したいと思った。それが、僕が彼女に示せる最大の『愛』だと思った。
「遺影が絵なんて、ちょっと変わってるねぇ」
「くみちゃんは昔から写真を嫌がってたからねぇ〜。」
「そうだねぇ。でもよく似てるもんだ。可愛く笑ってたねぇ」
ばあちゃんの知り合いであろう人達の会話が小さく聞こえてきた。一人は目に涙が溜まっていて、今にも溢れそうだ。もう一人の目の周りは、少し赤く腫れている。様子とは反面、2人とも絵を見ながら微笑んでいる。
――笑顔で帰せないようじゃナンセンスだと思うわけよ
平坦な音に合わせて、あいつの得意げな声が聞こえた。
葬儀に参列した後はすぐに帰宅した。元々が身内の式ではなかったからできるだけ長居したくはなかった。というのは建前で、本当はやらなければいけないことがあった。
靴を脱いで、バタバタを部屋を駆ける。すぐにあのキャンパスに向き合った。盆の上にある筆と画材を急いで握る。今なら描けるって思うから、逃したくない。お前を笑顔にできる絵が描けるって気がするから。
スーツを着替える時間さえもったいないほど夢中になっていたら、夜が来た。いや、その夜ももうすぐ明けそうだ。やっと僕は筆を止めることができた。
「俺ぐらい最高の似顔絵師、他に居ないだろ!」
「お前、絵師じゃねぇから。あと、それは俺だよ」と心の中でツッコミを入れた。外が少しずつ明るくなってきて、眠気が一気に僕を襲ってきた。窓の外をよく見ると、遠くにある田んぼの隅で彼岸花が咲いているのが見えた。絵の具で汚れた部屋を離れて、僕はまたしもスーツを着替える時間を設けることなく眠りについてしまった。