プロローグ
ほどほどの爆発音に軋む金属の音が響き渡る。正面から聞こえるそれは、建物からであり、何よりもビルから聞こえるような音ではなかった。詰まるところ、ビルの倒壊を示していた。
「馬鹿言ってんじゃねぇ!」
市街地でそんなことをされたらたまったものではない。避けるだけならば辛うじてできる。アニマと言う病気にされた黒田にとって、己が身に宿るゴキブリの因子を使えば容易く逃げ切れるのである。
だが、黒田には「どうすれば町の被害を最小限に出来るのか」という思考がよぎっていた。
瞬間、後ろから「頭を伏せておけ」と聞こえてくる。それは聞きなれた黒田の所属する部隊。その隊長の声であった。
「カズ、合わせろよ?」
「わかってますよ!隊長!」
ゴリラのアニマを持った先輩と、サイのアニマを持った隊長。その二人が居ることによって、容易く状況が打破できる。黒田はそれを知っていた。
「「瞬間開放!50%!」」
2人が叫ぶと、その姿がより動物に近寄る。だが、その姿が黒田に安心感を与えた。身を以てその威力を知っているからである。
半分ほどで折れ曲がったビルがもうすぐぶつかると思った瞬間、二人は大地を踏みしめた。
「我流」「隊長直伝!」
「「打突・爆震」!!!」
二人の拳が当たると同時に、倒れてきたビルのガラスが砕け散り、一気に全体にひびが入る。そのまま落ちては来るが、さほど痛くはない。なぜならば、当たるそばからビルの瓦礫の方が崩れていくからである。思わず黒田は「すっげぇ・・・」と言う感嘆の声を漏らすと。隊長に引き起こされる。
「あとは頼むぞ?」
「探して、捕まえるんですよね?分かってますよ」
黒田はそう言ってニット帽を外すと、そこには人間には本来あるはずのない触角があった。
「・・・居た」
ゴキブリの触角は気流を読み、匂いを嗅ぎ分ける。そのアンテナ的能力は、索敵と安全なルートの察知を容易にする。
ビルを爆破した張本人がいる場所は、色々な条件がかみ合っているところの情報と合わせると容易く見つかるのは道理であった。
黒田は一歩踏み込み、地を跳ねた。そして、壁を蹴り、飛び次いで、犯人の居る場所へと3秒もかからずにたどり着く。そこは、3つほど隣のビルの屋上であった。
「は?ばれたのかよ!畜生!」
「遅いんだよ!」
咄嗟に飛び降りようとするのを見て、元の位置へと蹴り戻す。
「名前は、原田守。年齢は32。患ったアニマはコウモリ。合ってるならおとなしく投降しろ」
「けっ、誰がそれを聞いて捕まるかよ!プライバシーも何もねぇじゃねぇか!」
「それは本当にそう思うが、患ったならおとなしく捕まってくれよ・・・」
「なんの為に犯罪をしたと思ってる!国に捕まれば、お前らみたいなやばい組織に捕まらないで済むからだよ!」
「やめておけよ。国だって癒着してるんだぞ?」
「は?」
「だって俺ら、国に認められている私有戦力って扱いだからな。患者が暴れたときに収めるう用にってな」
黒田はため息を付きながら、どうしてこんなあからさまにやばい仕事をしなければならなくなったのか。それを思い出す。