質
日が暮れる頃、彼女は目を覚ました。ここで、少し彼女に嘘をついてみた。
「目を覚ましたか。足を撃ち抜かれたまま倒れてたから治してる。貫通弾で骨とか太い血管は当たってなかったからそんな大手術にはならなくて良かった。」
「…っ…っ、ぁ…」
上手く話せないようだった。
「あ、んあ、だ、が撃っ、だ、でひょ。」
驚きだった。あの目線も合わせる時間もない中で誰に撃たれたのかを把握されていたとは。先程までは珍しい女子衛士に感心していたが、状況把握能力の高さで納得がいった。
「知っているなら仕方がない。まず、この事故が不本意である事を分かって欲しい。今は薬で動きにくくしているけど、これを理解してくれたら解毒薬を打つから心配はしなくていい。」
「し、んしるm、も、のk、か。」
話を聞けず薬の量が多すぎたのかもしれないとも思ったが、誤射時の反応を思い出してそれでいいと思った。
「縛るだけだと衛士ならすぐに逃げてしまうだろうからね。そんな教育ぐらいあってもおかしくない。」
そう言うと彼女は黙り込んでしまった。
血の匂いを和らげる為に窓を開けた。窓から涼しい風が流れてきた。焦げた香りは夕日から漂ってきているようだった。
ダンダンと玄関から扉を叩く音がした。銃を持った。
「動けないとは思うが変な真似はするなよ。」
彼女にそう釘を刺してから玄関の覗き口のカバーをずらして覗いた。
外にはスーツを着た男二人が立っていた。
「どちら様でしょうか。」
「NWRの者です。これからのラジオ番組改善へ役立てる為にアンケートを取っています。どうかご協力ください。」
NWRはこの街のラジオ放送局で、唯一の放送局として有名だが、そんなアンケートは聞いた事がない。どう返すか考え込んだ瞬間、覗き口越しの視界の右端で何かが光った。それは震災までは殆ど実物を見た事がなかった物に見えた。意識してみると、明らかに扉の向こうの気配は2人ではなかった。
すぐに部屋に戻って薬箱とポーチを取って衛士の子を担いだ。明らかに狙われている。彼女はそれらしい抵抗しなかったがシャツを咥えられている。噛もうとしているのだろうか。窓から飛び出ると重い銃声と共に玄関の錠が吹っ飛んだ。
「マスターキーかよ。」
一瞬突入してきた男と目が合った。スーツ姿の男のどちらでも無かった。髪は焦げ、怒りでいっぱいに開かれた目はギラギラと光っていた。
窓から飛び出してすぐに彼らが見えなくなった。
「窓から逃げたぞ!」