表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の十一年  作者: 赤蜻蛉
1/3

はじまり

十一年…伝わるかなぁ…

建設途中で放棄されたマンションの階段を愛銃を抱えて駆け上がっていた。まだ纏わり付く汗と鉄と硝煙の香り振り払う様に六階に走り込んだ。建物の壁に駆け寄って背をコンクリート壁に当てた。ガラスが嵌め込まれていない窓から外の様子を伺うと、車の走っていない高速道路の向こうにある工場の辺りに機関銃を持った人達が駆け回っていた。一先ずは撒けただろう。腕時計は五時二十分を指していた。

「いくらなんでも衛士が来るのが遅いだろ。」

思わず一人で衛士の愚痴をこぼしてしまったが、自分を落ち着かせる為でもあった。衛士達は震災の後この街を中心とした一帯の地域を統治している自治組織の一員として警備している。彼等は屈強な兵士達で、どんな反乱軍も一分隊いれば打ち破ってしまうエリートだ。だからか暫定街長と側近達は衛士達に行政から司法まで何でも任せている。どこかで犯罪があったら、市民達は自前の銃で戦っても良いが、それは衛士が来るまでだ。如何なる者も衛士に対して敵対行動を取れば捕まり、内容に依ってはその場で衛士達によって死刑が執行される。衛士達は普段街中に散らばっていて、何かが起こると、直ぐに駆けつけて市民を守る。到着まで3分と掛からず、市民達からの信頼も厚い。「震災」以降社会の閉塞感が強いからか、特に子供達には人気が高く、ヒーローのように憧れられている。

しかし、なぜか今日自分が襲われてもまだ衛士は一人として到着していない。

工場に愛銃のオリジナルカスタムパーツを幾つか作ってもらっていて、それを受け取りに行くと、工場がヤクザというか、むしろギャングのような集団に占拠されていた。なんとか見張りを倒して逃げてきたが、工場の人達を逃したりはできなかった。そもそも彼等に会えていない。そこから逃げて落ち着いた今、沸々と怒りが込み上げて来た。極度の銃の供給不足の中、今使っている骨董品を取り回しやすくする為のアタッチメントを何とか忙しい工場に頼み込んで作ってもらったのだが、結局彼等のせいで受け取れなかった。

二脚を窓の縁に突き立てて、工場に銃を向けた。彼等には少しでも報いを受けて欲しかった。

六階とはいえ、それぞれの階が二メートル以上あって、かなり高低差がある。照星越しに見下ろした先には外を見張る人がいた。黒髪は白いコンクリートの地面に良く映えた。引き金をタップした。

愛銃から撃ち出される6.65mm弾は最新の銃と比べて特別速い訳では無いが、鋭い直線を描く。後から音が聞こえる。

『テン』

独特な破裂音を残して敵の頭を撃ち抜いた。

彼が倒れると、一人が駆け寄った。横で立ち止まり、屈んだところにまた撃ち込んだ。今度は狙いが少しずれ、しかも間違って二発撃ってしまったが、かろうじて一発目が足に当たった。

硝煙の香りがまた強まった。

装弾不良は無い。

銃を一度引っ込めて様子を伺った。

あちら側も襲撃に気付いたようで、外にいる人達も建物に入ったり、物陰に隠れてしまった。さっきの二人はまだその場所にいるが、こうなったしまうとこちらは一人なので下手に撃てない。

愛銃のホッパーを上げて五発のクリップを二つ弾倉に入れた。ホッパーを戻しながら反対端の窓からそっと工場を伺った。何人かこちらの建物に向かって来ていた。場所が割れているのなら尚更誰か一人常にこちらを狙っているかもしれず放っておいた。建物を包囲される前に脱出しなければいけないと思った。銃を抱えて今度は階段を駆け下りた。三階まで降ると、ロビーからバリケードを崩す音が聞こえて来た。

正面から出るのは下策だと考えて二階の窓から横の資材置き場に降りた。砂地の音に気を付けて表が見える所に回った。建物の入り口を見やると、突入組の背後の安全を確保する為か、見張りが一人いた。ここまで組織的な犯行だと一人ぐらい賞金首でもおかしくはない。照準を合わせた。

引き金を引いたと思った瞬間、見張りが下がった。

当然弾は外れた。見張りは建物に隠れてしまった。こちらも隠れて、念の為改造ラジオに電源を入れてダイヤルを回した。

『…う…だからこの建物にはもう居ない!奴に今狙われてんだよ。数人上に残っていいから誰か手伝って。』

正直指示を傍受できたらラッキーぐらいに思っていたが、無線機も持っているとは思わなかった。

『本隊も聞いてくれ!相手は手だれだからこっちに応援くれ!』

『捕まえた従業員の収容が終わったから、半分送る。到着してからはサブリーダーに従え。』

そろそろ引き時のようだった。

無論十一年式です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ